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14.誰がために
しおりを挟む僕は生き残る事が出来た。
魔獣を倒すことが出来た。
そして、誰かのために役に立てた。
この事に僕は興奮気味だったかもしれない。
ましてや女性と二人だけという状況だった、という事も否定はできないか。
仕方ないでしょ。
死んだと思っていたんだ。死後の世界かと思ったら死んでなかったんだ。そればかりか何故かとても元気なのだから。
ソリア家から追い出された時に痛んでいた怪我も含めてすっかり治っているんだよね。
記憶がある時点での判断しかできないけど初めてテンションが高い状態だった。いやぁ最高です。
・・・仕方ないよね?
でも、極力自分を落ち着かせて話を切り出したはずだ。
テンションが高いと引かれるかもしれない。これが僕の地でもない。僕は・・・あれ?どうなんだろ?
でも今のテンションは無しだ。だから変に誤解されたくないという気持ちもあった。
う~ん。何焦っているんだろ?落ち着け・・・。
「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。僕はケイといいます。特殊な事情で一人で生きていかないといけなくなりました。当面はこの岩場で生活する予定です。今日初めてここに来ました」
最初の挨拶としてはこんなものだろうか?相手の素性もわからないし。”迷い人”といって信じてもらえるかもわからないし。エスコなんか完全に疑っていたしね。
この女性はどう受け取ってくれるだろう?
「あら、そうですね。お互いの名前も知りませんでしたね。失礼しました。本来であれば私のほうから名乗らないといけませんのに。私はエリナと申します。家名は故あって捨てました。私も特殊な事情で邑から出てきたのです。この岩場にはケイ様と同じ位に着いたと思いますよ」
そういえばという雰囲気で世間話でもするように変わらない様子だった。落ち着いて冷静さがある女性だなと思った。
エリナさん・・・か。良い名前だな。でも家名を捨てたって一体何があったんだろう?確か、”家”を出たと言う事だよね。
でも、詳しく語りたくないのだろうし詮索するもの失礼だ。それ以外の事で聞いてみよう。
「僕はあまり詳しくないのですけど一人で旅をされているのですか?危険ではありませんか?それともこちらで生活をされるつもりなのですか?」
まずは当面どうするかの確認をする。でもあまり聞いてほしくない話題だったみたい。雰囲気が少し翳ったように思える。あくまでも僕が感じた事だ。
彼女は当面この岩場にいるかもしれない。そうなると僕はこの岩場を諦めるしかないかな。そうするとアイナさんに一度連絡したほうがいいのかな。様子見に来ると言っていたしな。
「旅・・・ですか。そうですね。正直に申し上げますと結構困った状況になっております。もし・・。もしもですが、ケイ様が宜しければお助け頂きたい事があるのです」
「僕でお役に立てるなら何なりと。あ、言えない事は言わなくて全く問題無いですから」
やはりというか深刻な事情がありそうだ。遠慮がちに言ってくれるのは僕の立場を考慮してくれているのかな。
どこまで役に立てるかわからないけど。既に乗りかかった舟ではなく、既に舟に乗っているつもりではいる。僕は何故かエリナさんを助けたかった。
「お優しいのですね。ありがとうございます。その前にケイ様についてお聞きして宜しいですか?」
「僕ですか?ええ、問題は無いですけど。信じてもらえない事を話すかもしれませんよ」
「大丈夫ですわ。ケイ様は”迷い人”ですわよね。そしてどこかの邑と接触はあったと思います。その邑に受け入れてもらえずこの岩場に来たのですよね?」
マジか。
・・・・驚いた。
凄い洞察力だ。印象はゆるい感じだったのだけど内面は鋭いんだ。凄いや。
それともエリナさんは何か特殊な能力があるのだろうか?そういや異能持ちかもしれない。僕の何かを読み取れる異能があるのかも。
もともと信じてもらえないと思った事を先に言われたんだ。何も気にする事はないか。
安心すると同時に心の中が温かくなる。この人であれば何もかも言えるような気がしたんだ。
「”異能”で・・・読み取ったんですか?」
「いえ。違いますわ。推測です。私もそうですけど、このような場所に一人でいる事は簡単な事ではありません。”迷い人”については私の異能を少し使いました。それで”迷い人”と分かるわけではないのですよ。あくまでも推測の材料として使ったまでです」
やっぱりエリナさんは異能持ちだった。あっさりと教えてくれる所に僕を信用してくれているようで嬉しい。ソリヤ家人達からは異能は秘匿すべきものと聞いているからね。まぁ、エリナさんのように隠すつもりがない人もいるかもしれないけど。
「驚きました。その推測は当たっています。僕が接触した人達はソリヤ家です。家長代行に受け入れてもらえず追い出されました」
「あのソリヤ家でしたか。家長代行・・・。家長のヘンリクさんはまだ戻られていないのですね」
「ソリヤ家をご存じなのですか?家長はまだ戻られていないそうです。そろそろ二年になると聞きました」
「はい。邑は違いますが有名な家ですわよ。狩猟の事なら周辺の地域では最上位の家格ですわ。あの家は他家の者も分け隔てない付き合いをする家と聞いています。家長代行が方針を変えたのでしょうか」
やっぱりか。
ソリヤ家は有名な家だったんだ。家の格もそうだろうけど。実力も上位なんだろうな。あのアイナさんですら自身の能力は低いというんだ。怪物がいる家だよな。
それを詳しく知っているエリナさん。この人どういう人なんだろう?上品な物腰だから良い教育を受けているのは伺える。良い所の家の人だったのは僕でなくても分かる。
「家長代行は分家のエスコという者でした。理由は分からないのですが僕は嫌われてました。負傷していたので保護されました。でも怪我も癒えないうちに追い出されました」
「分家が代行を務めるのは通常あり得ません。ソリヤ家の本家は男性は家長だけだと記憶しております。ライラさんは女性ですが立派な方です。家長代行に一寸の不安もありませんわ。そもそも女性が家長になれないという決まりは無いのですから」
本当にエリナさんは詳しい。他の邑の事まで知っているなんて。相当な家の人かもしれないな。
エスコが家長代行になったのはエスコが裏で何かをしていた事を示唆してくれた。やっぱりエスコは碌なヤツじゃなさそうだ。
ソリヤ家は大丈夫なのだろうか?せめてアイナさんとロッタは無事でいて欲しい。
それにしてもエリナさんは凄い。ちょっとのやりとりだけだけど知識の宝庫のような気がする。詮索はしないつもりだったけど気になるな。
「成程。今の家長代行は宜しくない手段でなったという事ですね。間違いなく良くない事を企んでますね」
「あくまでも推測の域です。残念ですが他家に介入する事はできないのです。少し前の私であればある程度介入する事はできたのですけど。今は無理なのです」
「そうなのですか。確かに家長代行は僕を部外者だと言ってきました。この件は部外者にはどうにもできない事なのですね」
エリナさんは少し考え事をしているようだ。話をしてくれた範囲だとエリナさんも僕にも何もできない事は分かっている。
この話題はこれ以上話しても埒が明かないと思う。僕の事情を理解してもらえる一助と考えていただけだから。
「お役に立てずに申し訳ないですわ。もっと早く知っていればなんとかできてかもしれないのです。それを思うと残念な気持ちになります」
「いいえ。僕にもどうにもできませんし。詮索しているようで申し訳ないのですが・・・エリナさんはそれなりの家にいたのですか?もしかしたら祭家の関係者ですか?」
一瞬驚いたように息をのんだエリナさん。僕は彼女の返事をゆっくりと待つ。
「はい。これから話す事も含めてですが私の家の話はしないといけません。ケイ様は私の命の恩人です。お話をすべきと考えます」
エリナさんはゆっくりと話をしてくれた。
祭家の姫巫女として活動していた事。驚いた。まさか姫巫女だとは思てなかった。確か巫女の筆頭みたいな立場だったはず。姫巫女ってなんか凄ぇーって感じだった。エリナさんエリート中のエリートじゃん。
妹と義母の企みによって姫巫女の座を降ろされてしまった事。
祭家から追い出されて僅かな護衛官と侍女と一緒に遥か北の邑を目指していた事。
道中で正体不明の盗賊に襲われ護衛官と侍女が食い止めてくれた事。
予定していた岩場で一夜を過ごした後に護衛官達の状況を確認しようと思っていた事。
岩場の洞穴で魔物に襲われた事。
あり得ない。家の嫌がらせで追い出されたようなもんじゃないか。
僕と話している今のエリナさんが全てではないかもしれないけど、僕はエリナさんがそんな悪い事をする人には思えなかった。滅茶苦茶良い人だよ。
魔獣に襲われたときは人生が終わったと思ったそうだ。うん、僕もそう思ったから良く分かる。
そして、僕がエリナさんを助けた事。
これは内緒にして欲しいと言われたのだけど。エリナさんには異能を発現する異能を持っているとの事。
僕が潜在的に持っている異能に治癒能力があったそうだ。都合よくね?
エリナさんの異能で僕の治癒能力異能を発現したそうだ。俄かに信じがたいけど実際に治っている。体を確認しても現状だ。これは信じるしかないだろう。
その異能を使うようにと僕にずっと語り掛けてくれたそうだ。僕は覚えていない。きっと、無意識で発動したんだろうな。
辛抱強く声を掛けていたら治癒が始まったので安心して僕を見守っていたそうだ。
そんな経緯だったそうな。
話を聞きながらゆっくりと嚙みしめるように理解した。
話をしてくれた時にちらりとだけどひどく爛れた腕を見せてくれた。
巫女は心身の傷を穢れする。多くは語ってくれなかったけど左半分はそんな感じになっているそうだ。だから左目も開かなかったんだ。聞いてて辛かった。
色々酷い目にあったにも関わらず穏やかな人だ。今も逸れた護衛や侍女の人達の心配をしているんだよね。
力になりたい。これ以上悲しい気持ちにさせちゃいけない。
心から思ったんだ。
僕は漠然とだけど暫くここで生活する事しか考えていなかった。
あとは記憶をどうやったら戻すか考えようとおもっていた位だ。
それはひとまず心の内にしまっておこう。
エリナさんの力になると僕は決めた。
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