全てを失った僕は生きていけるのだろうか?

ナギサ コウガ

文字の大きさ
44 / 57

41.  俺達の戦い ~不審者

しおりを挟む

SS's eyes 

 思ったよりも上手く進んでいない。
 占拠したキュメネ邑の邑人は俺に忠誠を誓わない。庇護下に入らなければ殺すとも宣言しているのにだ。
 俺ではないが占拠時に抵抗した邑人を何名か殺害している。俺達の行動はブラフでは無いと分かっているはずなのにだ。
 加えて忠誠を誓わなければ家からも出さないと宣言している。確実にその宣言を実行しているのだ。
 未だに邑長は抵抗している。それ程態度が変わらないのは他の邑からの救援があると考えているからかもしれない。
 ようやく忠誠を誓った邑人の意見では他邑からの救援で俺達が蹴散らされると確信しているフシがある。
 ならば次の手は簡単だ。
 他の邑も占拠すればいいんだ。幸い邑を攻めるための能力を持った者はいる。それを使えばいい。
 話を聞くと周辺には三つほどの邑があるようだ。
 イキシ邑、ネルヤ邑、クージ邑。
 クージ邑は他の邑と交流が殆ど無いそうだ。黒い噂の多い邑らしい。野盗との関係が深いという噂があるとか穏やかでは無い。寧ろ敵対しているようだ。争いはどこにでもあるものだな。
 イキシ邑はキュメネ邑よりは邑の規模は大きい邑で一番遠い所にあるそうだ。片道二日は必要のようだ。各邑の戦力である武家の実力はここと同程度らしい。
 問題はネルヤ邑のようだ。この周辺の邑で盟主のような位置にあるそうだ。急げば片道一日で行けるとか。他の遠い邑との交流も唯一あるようで武家の力も強いらしい。
 キュメネ邑はこのネルヤ邑に救援を出したに違いない。だがその救援は届いていないと考えている。理由は単純だ。ネルヤ邑を制圧したのは七日前だ。しかし未だに救援どころか様子見をする者が来る気配すら無い。
 それ以前に俺達は動いている。これが有効に聞いていて救援を出せない筈だ。
 我々のメンバーを派遣しているからだ。各邑には相応のダメージを与え、降伏勧告するように指示している。詳しい報告はまだ来ていないが対象の邑は救援どころではないだろう
 救援を出させない事が優先だが、あっさりと降伏してもらえればそれでいい。反抗されてもあの二人なら容赦なく反撃してくれるだろう。
 その間にキュメネ邑の住人に俺に対して忠誠を誓わせればいい。
 俺の支配下に入れば異能を手に入れる可能性があるのだ。しかも自身の能力向上もできる。良い事づくめだ。その事は既に説明している。
 それなのに未だに抵抗を続けている。

 上手く進まない。

 他にも上手くいかない件がある。
 キュメネ邑の制圧時に仲間の何人かが同時に逃げたのだ。そこには俺の恋人がいた。彼女が俺の元を去るのは想定外だ。邑を制圧する事には反対していたが生きていくには必要な事なのにだ。
 力を持たないアレでは自分の身も守れないのに。優先事項で捜索させているのだが未だに彼女を保護する事ができていない。追跡チームも優秀なメンツを揃えているんだが。一報すらない。

 他にも上手くいかない事ばかり。
 俺の”支配者”の能力を使って異能持ちを増やす計画が頓挫しつつある。意外にも俺達の仲間に異能を発現する者は僅かだった。むしろ邑人の方が確立が高いと思っている。
 だから支配を完了させ異能持ちを増やしていきたいのだ。それも上手くいかない。

 なんだってんだ!
 クソッ!
 
 そもそもアレが俺の元から逃げてから良くない事ばかりだ。
 なぜ俺の元から逃げた!
 連れ戻したら鎖でもつけて俺の側に置こう。二度と俺の元から離れないように。そのような異能持ちも手駒にしないといけない。
 
 不足ばかりだ!
 
 
 気づけば扉のノックの音か聞こえた。思考に沈んでいた俺は気づかなかったようだ。
 ノックと同時に声まで聞こえる。かなりの間放置していたようだ。そこまで思索に更けていたとは。
 これは示しがつかないな。
 急いで応答をする。入ってきたのは声で既に分かっていたが杏介だった。
 この時間に俺に報告してくる件はそれ程無い。良い報告でないだろうと言う事は想像がつく。全く、ここ数日本当に良くない事ばかりだ。
 
「報告事項か?いくつあるんだ?」

「先にそれかい?別に報告に来たわけじゃないんだけどな。みんなの士気が落ちているみたいから忠告にきたんだよ」
「士気?部下達のか?どういう事だ?」
「部下?同級生や後輩じゃないの?成程、会長はみんなを部下と思っているんだね?」
「全員俺をリーダーにすると一致しただろう?些細な違いはあるかもしれんが俺の指示を受けるという意味だ」

 ぐ。揚げ足を取りやがって。杏介は無非情で淡々と話してくる。やりづらいことこの上ない。
 杏介は既に異能を持っている。だから俺の影響を受けていない。俺に隷属はしていないのだ。だが、俺の指示を受けている以上部下にきまっているだろう。
 全員で投票して俺がリーダーとなる事決まったじゃないか。部下と一緒だ。言葉の表現など些細な違いだ。そういう思いを込めて睨みつける。
 しかし全く怯む所はない。
 そもそも表情が変わらないからな。杏介の表情が変わった所を俺は見た事がない。人に興味はあるのだろうかといつも思う。
 やはりコイツは扱いづらい。

「一応断っておくよ。俺は酷い扱いを良くしてもらうために一緒に行動しているだけだよ。会長の部下じゃないからね。そこ勘違いしないように」
「・・・・分かった。それで士気とはどういう事だ?」
「あー、そうだね。邑を制圧したんだけど一向に衣食住が改善されないからだよ。みんな狭い部屋に押し込められているし。食料はもう無くなっている。今日の夜でなくなるよ。どうするんだい?」
「邑の連中が抵抗を続けているから食料提供の目処が立っていない。交渉は続けるからもう少し切り詰められないか?」

 俺がこれだけ悩んでいるのに食料の心配かよ。少しは節約しろよ。

「これでも結構切り詰めているんだよ。思うままに食事を摂っているのは会長と自称幹部の人達だけだよ。知っている?勿論俺は自称幹部じゃないよ」
「・・・分かった。数日分はなんとかかき集めてくる。お前から伝えてもらえるか?」
「承知した。早く頼むよ。みんな結構ストレス溜めているからね」

 杏介は言う事だけいって部屋を出ていこうとする。それだけのために来たのか。
 確かに食料は仕方ないか。まずは邑長や四長老の家から接収するか。抵抗している見せしめだ。
 この邑は元々備蓄が少ないのは占拠してから分かった事だ。それだけじゃ足りないだろうな。
 抵抗する他の家からも接収するか。されたくなければ忠誠を誓えと強制すればいいだろう。
 うむ。それで行こう。
 この邑・・キュメネ邑の資産は制圧後数日たってからやっと確認できた。この邑は本当に貧しい。今後の事を考えると他の邑を制圧して調達するしかない。
 
「あー、そうだ。そういえば魁から連絡は来ているのかな?同行している真白では魁を抑える事はできないと思うんだよね」
「アレは作戦行動中だ。目的行動が終われば戻って来る手筈になっている。その時にはどこかの邑は制圧できている可能性がある」
「へえ。本当に大丈夫かな?魁は俺と違って野心溢れているよ。きちんとコントロールしないと厄介な事になるかもしれないと思うよ」
「妙な事を言うんだな。何かあったのか?」
「別に。ちょっと気になっただけだよ」
「分かった。連絡員を向かわせてみる。任務の状況確認ついでだ」
「そうしておいたほうが良いよ。会長の人望は限定的だからさー」

 コイツ。言いたい事をぬけぬけと。誰が苦労して今の状況までもってきたと思っているんだ。コイツは俺に対する感謝の念が足りない。
 言いたい事だけ言って部屋を出て行った。
 クソッ!
 余程頭に来ていたらしい。手に持っていたペンを折っていたのに気づく。
 クソッ!
 怒りのままに折れたペンを叩きつけようとしたが俺を見る視線に気づき動きを止める。
 ドアは占められていなかった。杏介は首だけ出して俺を見ている。無表情が気持ち悪い。
 
「まだ何かあるのか?」
「んー、物見櫓で監視している隆だったかな。探索能力を持っているじゃない?そこから伝令が来ていてさ東の方向から二名の不審者が近づいてきているんだって」
「な、何!?そういう事は早く言え!いつ探知に引っかかったんだ?」
「そこまでは知らないよ。俺が聞いたのは十分程前かな?会長の所には用事があったからついでに伝えておくと伝令には言っておいたよ」
「なら不審者の報告を先にしろ!食糧事情より優先するだろうが!
「ま、いいじゃない。伝えたんだからさ。あと宜しくね」

 本当に言いたい事だけいって今度こそドアが閉まる。
 なんなんだ!アイツは!
 不審者は邑の様子を探りに来たんだぞ。捕らえて尋問しないといけないだろうが!
 クソッ!
 今度こそ折れたペンを叩きつける。

 俺は物見櫓に向かって走しかない。
 クソッ!


 俺の執務室から物見櫓までは走って五分程度だ。杏介が無駄話をしなければもっと早く到着できた筈だ。何故報告を後回しにしてどうでもいい事を話すのか。度し難い。
 物見櫓には監視させていた隆がいる。コイツは俺の異能によって探知向けの異能を獲得したのだ。周囲の警戒には結構使える駒だ。
 今みたいに不審者を素早く探知するのだ。重宝するヤツだ。
 そこに呼び出した剛、和夫、良太と一緒に昇る。
 この四人は俺に忠誠を誓い忠実な僕となっている。杏介のような反抗は全くしない。こういう駒があと数名いる。だがまだまだ足りない。
 もっと配下を増やさないとな。
 物見櫓を昇りきると隆が報告してくる。

「ご主人、東方向二百メートル程にある窪みに二名隠れています。この邑の様子を確認しにきたのか、それ以上は近づいてきません」

 ふむ。二名か。十分以上は経過しているだろうからもう少し詳細な情報は異能で獲得できているだろう。確認してみるか。

「二名はどんな者達だ?」
「男女二名です。女は近隣の邑の女ではないかと。武装はしていません。男もナイフ程度の武器のみ所持しているようです。ですがこの男・・邑の人間ではなさそうです」
「邑人ではない?詳しく話せ。お前の推測を交えても構わん」
「はい。少し気配は変わっているようですが、この気配には覚えがあります。あの時殺したアイツです。十日以上前に殺したアイツです。念をいれて何度も確認しました。ですが間違いないと思います」

 ・・・何だと。
 隆が言うようにアイツは確かに殺した。死体は近くに置けないから飛ばした。その後で蘇生でもしたというのか?
 信じられない。
 だが隆の探知は否定できない。忠実な僕である者達は俺に対して一切の嘘や虚偽報告をする事ができない。故に真実であるのだろう。
 そこは分かっている。
 が、しかし。どうやって生きていたというのだ。
 生きていたとし仮定しよう。
 この邑にやってきたという事は俺達の行動を訴えるためなのか?
 かなり面白くない。ベラベラと喋られるわけにはいかない。会わせる事は駄目だ。
 
 どうする?
 
 再度、殺す、しかない。

 俺は心の中で再度決意する。
 そうだ。
 始末しないと。
 これ以上裏切者が出るのはまずい。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...