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7章 もう1つの試練
7-7 サニーオレンジと君
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翌朝。
駿は机の上に置いた小さな紙袋を、もう一度手に取った。
中身を確認する必要なんてないのに、開けかけて――やめる。
代わりに、丁寧にバッグへしまった。
チャックを閉めても、なぜか落ち着かない。
もう一度だけ触れてから、家を出た。
空は快晴だった。
強い朝日が背中を押してくる。
まるで「行け」と言われているみたいだった。
待ち合わせ場所に着いて数分後、果奈が駆け寄ってくる。
「おはよう、駿」
「おはよう。……あと、誕生日おめでとう」
一瞬、果奈の表情が止まり――すぐに花が咲いたみたいに明るく笑った。
「ありがとう。ちゃんと覚えててくれたんだ」
「当たり前。大切な恋人の誕生日なんだから」
言ってから、自分でも少し照れる。
果奈は頬を赤くして視線を逸らした。
「……急にそういうこと言うの、ずるい」
その反応に、胸の奥が少し軽くなる。
今すぐ渡したい衝動を押さえ込みながら、並んで学校へ向かった。
――まだ早い。
昼休み。
そう決めていた。
午前の授業。
ノートは取っているのに、内容が頭に入らない。
鞄の中身が気になって仕方なかった。
休み時間になるたび、無意識にバッグへ視線が向く。
3時間目が終わる頃には、手のひらが少し汗ばんでいた。
そして、昼休み。
倉庫裏のベンチへ向かうと、果奈が先に待っていた。
「遅かったけど、何かあった?」
「ちょっとバタバタして遅くなった。ごめん」
隣に座る。
いつも通り昼食を食べる。
なのに、心臓の音だけがやけに大きい。
食べ終えたあと。
沈黙が落ちた。
逃げ場がなくなる。
深く息を吸った。
「果奈」
「ん?」
バッグから紙袋を取り出す。
手が、少しだけ震えていた。
「誕生日プレゼント。用意してる」
果奈の目が一気に輝く。
「ほんとに?」
「……手、出して」
差し出された手の上に、そっと置いた。
「改めて、誕生日おめでとう。果奈」
サニーオレンジ色のヘアピン。
「もっと派手なのとか、考えたんだけどさ」
言葉を探す。
「毎日使えて、果奈らしいものって考えたら……これしか思いつかなかった」
一瞬、沈黙。
長く感じる数秒。
次の瞬間。
果奈が強く握りしめた。
「ありがとう、駿」
顔を上げた果奈は、今まで見たことがないくらい嬉しそうだった。
「どんな高いプレゼントより、これが1番嬉しい」
少し潤んだ目で笑う。
「駿が選んでくれたんだもん。貰えて幸せ」
胸の奥の不安が、一気にほどけた。
「……ほんとに?」
「うん」
そして、少しだけいたずらっぽく笑う。
「ねぇ、お願いしてもいい?」
「いいけど」
「これ、付けてくれない?」
「えっ」
「これも誕生日プレゼントの1つだと思って」
逃げ場はなかった。
「……分かった」
そっと近づく。
果奈の髪に触れる。
柔らかい感触に、指先がぎこちなくなる。
左耳の上に、ヘアピンを留めた。
「……できた」
果奈が振り向く。
「どう?」
オレンジ色が陽の光を受けて輝く。
いつもより、ずっと眩しく見えた。
「似合ってる」
自然に言葉が出る。
「果奈らしい」
「……よかった」
嬉しそうに笑うその顔を見て、ようやく実感した。
ちゃんと、祝えたんだと。
——その夜。
果奈は部屋の鏡の前に立っていた。
髪に留めたヘアピンを、何度も角度を変えて見る。
「……ほんとに似合ってる」
小さく呟く。
外しても、すぐには机に置かなかった。
手のひらに乗せたまま、胸元へ引き寄せる。
少しだけ笑う。
(駿からの誕生日プレゼント、嬉しかった。次は駿の誕生日がやってくるから、ちゃんと、準備しないと。今回の私以上に、喜ばせてあげるんだから)
これから先、駿との間に何が起こるかは分からない。それでも、駿からの誕生日プレゼントを期待する自分が居た。
駿は机の上に置いた小さな紙袋を、もう一度手に取った。
中身を確認する必要なんてないのに、開けかけて――やめる。
代わりに、丁寧にバッグへしまった。
チャックを閉めても、なぜか落ち着かない。
もう一度だけ触れてから、家を出た。
空は快晴だった。
強い朝日が背中を押してくる。
まるで「行け」と言われているみたいだった。
待ち合わせ場所に着いて数分後、果奈が駆け寄ってくる。
「おはよう、駿」
「おはよう。……あと、誕生日おめでとう」
一瞬、果奈の表情が止まり――すぐに花が咲いたみたいに明るく笑った。
「ありがとう。ちゃんと覚えててくれたんだ」
「当たり前。大切な恋人の誕生日なんだから」
言ってから、自分でも少し照れる。
果奈は頬を赤くして視線を逸らした。
「……急にそういうこと言うの、ずるい」
その反応に、胸の奥が少し軽くなる。
今すぐ渡したい衝動を押さえ込みながら、並んで学校へ向かった。
――まだ早い。
昼休み。
そう決めていた。
午前の授業。
ノートは取っているのに、内容が頭に入らない。
鞄の中身が気になって仕方なかった。
休み時間になるたび、無意識にバッグへ視線が向く。
3時間目が終わる頃には、手のひらが少し汗ばんでいた。
そして、昼休み。
倉庫裏のベンチへ向かうと、果奈が先に待っていた。
「遅かったけど、何かあった?」
「ちょっとバタバタして遅くなった。ごめん」
隣に座る。
いつも通り昼食を食べる。
なのに、心臓の音だけがやけに大きい。
食べ終えたあと。
沈黙が落ちた。
逃げ場がなくなる。
深く息を吸った。
「果奈」
「ん?」
バッグから紙袋を取り出す。
手が、少しだけ震えていた。
「誕生日プレゼント。用意してる」
果奈の目が一気に輝く。
「ほんとに?」
「……手、出して」
差し出された手の上に、そっと置いた。
「改めて、誕生日おめでとう。果奈」
サニーオレンジ色のヘアピン。
「もっと派手なのとか、考えたんだけどさ」
言葉を探す。
「毎日使えて、果奈らしいものって考えたら……これしか思いつかなかった」
一瞬、沈黙。
長く感じる数秒。
次の瞬間。
果奈が強く握りしめた。
「ありがとう、駿」
顔を上げた果奈は、今まで見たことがないくらい嬉しそうだった。
「どんな高いプレゼントより、これが1番嬉しい」
少し潤んだ目で笑う。
「駿が選んでくれたんだもん。貰えて幸せ」
胸の奥の不安が、一気にほどけた。
「……ほんとに?」
「うん」
そして、少しだけいたずらっぽく笑う。
「ねぇ、お願いしてもいい?」
「いいけど」
「これ、付けてくれない?」
「えっ」
「これも誕生日プレゼントの1つだと思って」
逃げ場はなかった。
「……分かった」
そっと近づく。
果奈の髪に触れる。
柔らかい感触に、指先がぎこちなくなる。
左耳の上に、ヘアピンを留めた。
「……できた」
果奈が振り向く。
「どう?」
オレンジ色が陽の光を受けて輝く。
いつもより、ずっと眩しく見えた。
「似合ってる」
自然に言葉が出る。
「果奈らしい」
「……よかった」
嬉しそうに笑うその顔を見て、ようやく実感した。
ちゃんと、祝えたんだと。
——その夜。
果奈は部屋の鏡の前に立っていた。
髪に留めたヘアピンを、何度も角度を変えて見る。
「……ほんとに似合ってる」
小さく呟く。
外しても、すぐには机に置かなかった。
手のひらに乗せたまま、胸元へ引き寄せる。
少しだけ笑う。
(駿からの誕生日プレゼント、嬉しかった。次は駿の誕生日がやってくるから、ちゃんと、準備しないと。今回の私以上に、喜ばせてあげるんだから)
これから先、駿との間に何が起こるかは分からない。それでも、駿からの誕生日プレゼントを期待する自分が居た。
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