もう一度、やり直せるなら

青サバ

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8章 願い

8-2 嵐の七夕

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 2日後の七夕。

 彦星と織姫の再会を邪魔するかのように、空は朝から厚い雲に覆われていた。

 駿は果奈と並んで帰り道を歩いている。

「この辺って、七夕の日あんまり晴れないよね」

「言われてみればそうかも。小さい頃、毎年短冊に願い事書いて笹に吊るしてたけど……大体曇りか雨だった気がする」

 果奈は空を見上げた。

「ねぇ駿。もし今、願い事するなら、何お願いする?」

 少し考える。

 本当なら――
 「果奈との関係がずっと続きますように」
 そう言うのが1番しっくりくる。

 でも、それじゃ当たり前すぎる気がした。

 だから、わざと軽い調子で言う。

「果奈の弁当が美味しくなりますように、とか」

 言った瞬間。

 果奈がぷいっとそっぽを向いた。

「……冗談だって」

「ふーん」

 明らかに拗ねている声。

「明日、お弁当作ろうと思ってたけど……やっぱりやめようかな」

 その言葉に、胸がぎくりとする。

「ごめん。言い過ぎた」

 少し間を置いてから、続ける。

「でも、果奈の弁当は普通に食べたい」

 気づけば言葉が少し真剣になっていた。

「果奈が頑張って作った弁当、ちゃんと食べたい」

 最後だけ、なぜか敬語になる。

「……お願いします」

 果奈がちらっとこちらを見る。

 そして、小さく笑った。

「そこまで言うなら、作ってあげてもいいけど」

「ほんと?」

「でも今回は私一人で作るから、美生と一緒の時みたいに上手くいかないかも」

「大丈夫だよ」

 即答だった。

「今までいっぱい練習してたじゃん」

「ほんとに?」

「うん。もし失敗してても分かるよ」

「何が?」

「果奈が頑張ったってこと」

 少し沈黙。

 それから、果奈がふっと笑う。

「駿がそこまで言うのなら、作ってやっても良いけど」

 満更でもなさそうな雰囲気で果奈は話した。

「楽しみにしてる」

 七夕の願いは、もうすぐ叶いそうだった。



 ——その少し前。 

 美生はスーパーで買い物を済ませ、袋を手に外へ出た。

 すると、人だかりが出来ているのが目に入る。

 気になって近づくと、そこには大きな笹が立てられていた。

 子供たちが短冊に願い事を書いて、楽しそうに吊るしている。

 そういえば、今日は七夕だった。

 少し迷ってから、ペンを取る。

 短冊に書いたのは、

『将来の夢が叶いますように』

 そこまで書いて、手が止まる。

 まだ余白が残っていた。

 しばらく考える。

 頭に浮かんだのは――

 駿君と果奈ちゃんの姿だった。

 少しだけ迷ってから、もう一行書く。

『みんなが幸せでいられますように』

 これでよかったのか、少しだけ考える。

 けれど、それ以上は何も書かずに短冊を笹へ吊るした。

「……叶いますように」

 小さく呟き、その場を離れる。

 袋を持ち直し、駿君の家へ向かった。


 夕飯を食べて、結ちゃんに勉強を教えたあと。

 帰り道を歩いていた。

 夕方にはなかった風が、急に強くなる。

 そして、ぽつりと雨粒が落ちた。

 気づいたときには、雨脚は一気に強くなっていた。

 急いで家へ向かるが、すぐに服は濡れてしまう。

 風も雨も、どんどん激しくなる。

 まるで――

 笹に吊るした願いを、空が拒んでいるみたいだった。

 濡れた髪を押さえながら、空を見上げる。

 厚い雲の向こうに、星は見えない。

 強い風に揺れて、どこかで笹が大きく鳴った気がした。
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