天使サマみたいな死神サマに出会ったら魂抜けて、魔界で悪魔に一目惚れされた元ニンゲンのボクの話

井幸ミキ

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1章

天国?

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 シャルルの問い掛けに、天使サマはまばたきをひとつすると、シャルルの目を覗き込んで、困ったように笑った。
 へにょりと下がった眉尻に、シャルルは訊いてはいけない事を訊いてしまったのかと、顔をくしゃりと歪めた。
 その顔を見て、天使サマは慌てたように首を横に振り、安心させるようにシャルルの頬を撫でた。

「あ、ごめん! ごめんね、夢じゃないよ」

 夢じゃない。

 その言葉に、シャルルの小さな胸は震えた。
 シャルルを乗せた膝、肩と背中に回る腕、頬を撫でる手。確かにそれらは、しっかりとシャルルを包みこんでいる。

 ほんもの?

 シャルルは、天使サマを見つめて「ほんとう?」と訊いた。
 震える喉から零れた小さな呟きは、音になっていたか怪しいが、天使サマはシャルルの瞳を受け止めて、やわらかくて微笑んで頷いた。それから、頬の手を頭へやって、ゆっくりと撫で、額の髪を撫でつけた。

「本当だよ、ごめんね」

 そう言って、露わになったおでこにキスをくれた。

 ピシャン! とシャルルの全身に雷が落ちた。
 かぁーっと全身が熱くなる。
 胸の中が、ドクドクと波打って、心も身体もびっくりしている。

 くるしい。

 シャルルの知る言葉の中で、今のシャルルを表現するには、その言葉しかなかったけれど、今まで感じてきた苦しいとは、全然違うと思った。
 苦しいけれど、浮き立つような。
 ドキドキするけれど、うれしいような。
 目を見開いて固まったシャルルの頭を、天使サマはまた優しく撫でた。

「……夢じゃない。ごめんね」

 シャルルに向けられる、やわらかな声、優しい眼差し。
 それらが本当に夢でないのか、夢であってほしくない、本当であってほしいのに、解る事も、決める事も選ぶ事もできず、隠れるように、天使サマにおでこを押しつけた。
 あたたかな腕に抱きしめられる事も、頬や頭を優しく撫でられる事も、おでこにそっとキスをされる事も。
 初めての事ばかりで、シャルルはどうしたら良いか分からない。
 なにも分からない。
 でも、全然いやじゃない。もうほしくないなんてひとつも思わない。それだけは分かった。

 どうか、ほんとうでありますように。
 夢じゃありませんように。

 シャルルの怯えに気付いたのか、天使サマが、ぎゅ、とシャルルを抱きしめてくれて、天使サマの胸に顔がぺたりとくっついた。
 薄手の白布越しに感じる体温に、シャルルの心は少しずつ落ち着いていった。
 シャルルは、そうだ、と思う。

 天使サマが、うそつくわけない。

 天使サマが夢じゃないと言った。ならこれは夢ではないのだ。
 それは、とても自然で、当たり前で、すとん、とシャルルの心に落ちた。

 夢じゃない。

 シャルルは、ほぅっとため息を吐いた。
 なんだか、心がソワソワとする。身体がムズムズとする。
 天使サマをチラリと見上げると、ホッとしたように、にこりと笑ってくれた。
 きゅうっと心が弾んだ。母親の機嫌が良くて、お腹いっぱいご飯を食べさせてもらった時のような気分。

 天使サマの腕の中から、首を少し伸ばして、左右に巡らせた。
 シャルルは、知りたくなった。
 夢でないというなら、それをもっと確かめたい。そもそもここは、どこだろう。シャルルの住む部屋では、絶対にない。
 天使サマは、シャルルの動きに気が付いて、覆った服の襟を首元まで下げてくれた。

 辺りを見回すと、天使サマと同じくらい、真っ白な場所だった。
 周りに建物はひとつもない。シャルルは、こんな広くなにもない場所は初めてで、ぽかんと見渡した。シャルルの住む古びたアパートも、たくさんの子どもたちでざわめく学校も、木枯らしの吹き荒ぶ公園も、なにもない。
 空は、青いような、白いような、不思議な色合いで、高く澄んでいるようなのに、金色に輝く雲の隙間から光のきざはしが幾本も伸びている。
 足元は草の上のようだと思うけれど、辺り一面、湯気のようなもので白く覆われている。寒い朝、公園の池の上で見た事があるものに似ているけれど、寒さはまるでない。

 ふわふわで、まっしろで、雲みたい。
 あったかくて、きれいで、きもちいい。

 まるで、ここは……。

「……天国?」
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