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1章
羽根の行方
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食事が終わると、シャルルはまた、魔王サマに抱き上げられて移動した。
連れてこられたのは、日当たりの良い広い部屋で、シャルルが見たこともないような立派な家具やソファが並んでいる。
柔らかそうなソファに、扉を開けて先に部屋に入った死神サマが腰を下ろした。
「おいで」
魔王サマの腕に乗せられ、しっかり掴まっていてと言われてその首にぎゅうっと抱き着いていたシャルルに向かって、死神サマが腕を広げた。シャルルが魔王サマを見ると、小さく頷いて慎重に、シャルルを死神サマの膝の上に乗せた。そのまま立ち上がって、また入って来た扉とは違う扉へ向かい出て行ってしまった。
その背中を見て、シャルルは首を傾げた。
羽根、ちょっとちいさい?
最初にベッドで見た時は魔王サマの頭の上から足元まで長さのあった大きな羽根が、背中の上半分くらいの大きさに見えた。夢中で気が付かなかったが、食事をしていた時も、もしかしたら羽根は小さかったかもしれない。
首を回して死神サマの顔を見ると、優しい眼差しの向こうで、小さな白い羽根先がぱたぱたと揺れていた。死神サマの羽根も、頭の高さよりも大きく立派だったはず。
「?」
肩越しに、小さな可愛い羽根を見ていると、くすくすという笑い声がシャルルの耳を小さく打つ。
「!!」
なんだか恥ずかしい気持ちになって、シャルルは死神サマの肩に顔を埋めた。
「羽根の大きさが変わったのが、不思議?」
シャルルは、顔を埋めたまま、こくんと、頷いた。
「大きいままだと、不便だからね。普段は小さくしたり、こうして……」
死神サマが、シャルルの背中とおしりに手を回して抱き上げたので、顔が肩から離れた。死神サマの羽根がぴんと立ち上がり、ぴるる……と震え、しゅるんと、背中へ吸い込まれていった。
「!?」
シャルルはびっくりして、死神サマの肩に両手を掛けて身を乗り出し、羽根の消えた背中を覗き込んだ。
羽根のあったところは、痕跡がなにもなく、服に穴も開いていなかった。
「シャルルは、ずっと普通の人間の子だったもんねぇ。びっくりするよね」
死神サマが、よいしょ、とシャルルを抱え直し、膝の上に横抱きに乗せた。
いつの間にか、魔王サマも戻ってきていて、ソファの前のテーブルにお茶やお菓子の皿の乗ったお盆を置いて、二人の隣に座った。見ると、魔王サマの頭の横から生えていた立派な角が消えている。
「ここはね、シャルルのいた、人間たちの住む界とは別の場所なんだ。ここの住人たちは、それぞれ自分の想う形、在りたい姿で暮らしている」
魔王サマがそう言って身体を少し傾けると、バサリと背中に大きな黒い羽根が広がり、にょきりと立派な角が生えた。
黒い羽根が日差しを遮り、シャルルはその影に入る。
シャルルは、瑠璃色の輝きを放つ美しい黒羽根と、先端へ向けて細く鋭く伸びる二本の艶々とした角を見つめた。
荘厳で厳粛な姿に、シャルルの身体は無意識に小さく震えたけれど、怖くはなかった。シャルルの知る恐怖は、理不尽な暴力や見えない悪意、冷たい無関心。
魔王サマも死神サマも、出会ってからずっとシャルルに優しい。シャルルをちゃんと見て、あたたかく触れてくれる。
「シャルルは最初、ここは天国かと訊いたんだったね?」
シャルルは、こくんと頷いた。
「人間たちが天国と呼ぶ界もある。天使たちが住んでいる、うーんと堅苦しいところ」
シャルルは、天使と聞いて死神サマを見た。死神サマは、小さく肩を竦めた。
「ここはね、その天界を、魔に堕ちたとして追放されたものたちが住んでいる。だから、魔界と呼んでる」
魔王サマの美しい形の口元が、にやりと笑った。
「規律や戒めなんていう窮屈なものからはみ出して、みんな、魂の望むまま好きに暮らしている、そういうところ」
魔王サマの羽根と角が音もなく消え、シャルルの手の上に、ひらりと黒い羽根と白い羽根が落ちてきた。
「シャルル、ここでは、なんにだってなれる、なんだってできる。なにも、ガマンしなくていい」
シャルルは、二枚の羽根を手に取って、胸元できゅ、と握りしめた。
連れてこられたのは、日当たりの良い広い部屋で、シャルルが見たこともないような立派な家具やソファが並んでいる。
柔らかそうなソファに、扉を開けて先に部屋に入った死神サマが腰を下ろした。
「おいで」
魔王サマの腕に乗せられ、しっかり掴まっていてと言われてその首にぎゅうっと抱き着いていたシャルルに向かって、死神サマが腕を広げた。シャルルが魔王サマを見ると、小さく頷いて慎重に、シャルルを死神サマの膝の上に乗せた。そのまま立ち上がって、また入って来た扉とは違う扉へ向かい出て行ってしまった。
その背中を見て、シャルルは首を傾げた。
羽根、ちょっとちいさい?
最初にベッドで見た時は魔王サマの頭の上から足元まで長さのあった大きな羽根が、背中の上半分くらいの大きさに見えた。夢中で気が付かなかったが、食事をしていた時も、もしかしたら羽根は小さかったかもしれない。
首を回して死神サマの顔を見ると、優しい眼差しの向こうで、小さな白い羽根先がぱたぱたと揺れていた。死神サマの羽根も、頭の高さよりも大きく立派だったはず。
「?」
肩越しに、小さな可愛い羽根を見ていると、くすくすという笑い声がシャルルの耳を小さく打つ。
「!!」
なんだか恥ずかしい気持ちになって、シャルルは死神サマの肩に顔を埋めた。
「羽根の大きさが変わったのが、不思議?」
シャルルは、顔を埋めたまま、こくんと、頷いた。
「大きいままだと、不便だからね。普段は小さくしたり、こうして……」
死神サマが、シャルルの背中とおしりに手を回して抱き上げたので、顔が肩から離れた。死神サマの羽根がぴんと立ち上がり、ぴるる……と震え、しゅるんと、背中へ吸い込まれていった。
「!?」
シャルルはびっくりして、死神サマの肩に両手を掛けて身を乗り出し、羽根の消えた背中を覗き込んだ。
羽根のあったところは、痕跡がなにもなく、服に穴も開いていなかった。
「シャルルは、ずっと普通の人間の子だったもんねぇ。びっくりするよね」
死神サマが、よいしょ、とシャルルを抱え直し、膝の上に横抱きに乗せた。
いつの間にか、魔王サマも戻ってきていて、ソファの前のテーブルにお茶やお菓子の皿の乗ったお盆を置いて、二人の隣に座った。見ると、魔王サマの頭の横から生えていた立派な角が消えている。
「ここはね、シャルルのいた、人間たちの住む界とは別の場所なんだ。ここの住人たちは、それぞれ自分の想う形、在りたい姿で暮らしている」
魔王サマがそう言って身体を少し傾けると、バサリと背中に大きな黒い羽根が広がり、にょきりと立派な角が生えた。
黒い羽根が日差しを遮り、シャルルはその影に入る。
シャルルは、瑠璃色の輝きを放つ美しい黒羽根と、先端へ向けて細く鋭く伸びる二本の艶々とした角を見つめた。
荘厳で厳粛な姿に、シャルルの身体は無意識に小さく震えたけれど、怖くはなかった。シャルルの知る恐怖は、理不尽な暴力や見えない悪意、冷たい無関心。
魔王サマも死神サマも、出会ってからずっとシャルルに優しい。シャルルをちゃんと見て、あたたかく触れてくれる。
「シャルルは最初、ここは天国かと訊いたんだったね?」
シャルルは、こくんと頷いた。
「人間たちが天国と呼ぶ界もある。天使たちが住んでいる、うーんと堅苦しいところ」
シャルルは、天使と聞いて死神サマを見た。死神サマは、小さく肩を竦めた。
「ここはね、その天界を、魔に堕ちたとして追放されたものたちが住んでいる。だから、魔界と呼んでる」
魔王サマの美しい形の口元が、にやりと笑った。
「規律や戒めなんていう窮屈なものからはみ出して、みんな、魂の望むまま好きに暮らしている、そういうところ」
魔王サマの羽根と角が音もなく消え、シャルルの手の上に、ひらりと黒い羽根と白い羽根が落ちてきた。
「シャルル、ここでは、なんにだってなれる、なんだってできる。なにも、ガマンしなくていい」
シャルルは、二枚の羽根を手に取って、胸元できゅ、と握りしめた。
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