黒き翼を持つ者は不幻の夜の闇に踊る

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ゴルイニチ13

16、ゴルイニチ13(完結)

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 住人のいなくなった都市に残るのは軍の部隊と死体だけだった。
 数時間前までゴルイニチ13の中心にあった研究所は爆撃を受けて瓦礫の山と化していた。
 そこへ数台の重機が持ち込まれソ連陸軍の兵士たちが瓦礫の撤去を続けている。
 大量の瓦礫の中から掘り起こされる奇妙な生物の死体。兵士の中にはアフガニスタン侵攻に参加した者もいた。
 だが戦場でもこんな異様な死体は見たことはない。動物なのか人間なのかもわからない。
 強いて言えば絵画に描かれるような邪悪な存在。
 それが一番しっくりきた。
 ここで一体何の研究が行われていたのか?
 掘り起こした死体を山積みすにしていくたびに兵士たちに言いようの知れない不安と恐怖が広がっていた。
 だが作業を指揮するスミルノフ大佐は何も気にしない。奇妙な死体にも興味はない。
 装甲車の中で暖を取り、換気が悪いのも構わず煙草を吸っていた。
 彼の目的は、研究所の所長が所持していたある遺物だけだ。
 
「あったぞ!」
 作業をしていたひとりの兵士が声を上げた。
 彼の足元には皮膚が鱗化した異様な姿の死体が革製の表紙で覆われた古書を抱えて横たわっていた。
 その死体こそ研究所の責任者にして今回の事件の首謀者であったが、兵士はそれに気づかない。
 兵士は死体の腕から古書をはぎ取る作業を指揮するスミルノフ大佐の元へ向かった。
 古書は、インユシン博士が”魔導書‘と呼んでいたものだった。
 
 装甲車から降りたスミルノフ大佐は、”魔導書‘を受け取るとぱらぱらとめくる。
「私には何が書いてあるのか、さっぱりわからんな。これにそんなにも価値が?」
 そう言って大佐は、隣に立つ男に”魔導書‘を差し出した。
 男は防寒着を着込みフードですっぽりと頭を隠している。その表情は口元くらいでした読み取れない。
 彼は”魔導書‘をまるで壊れやすいガラス細工かのように慎重に受け取った。
「ああ……世界を変えるほどのな。あのインユシンとかいう科学者はその一端を読み解いたようだが活用はできなかった」
 男は深く被ったフードの下からほくそ笑む。
「KGBを出し抜くんだ。本当に約束は果たしてくれるんだろうな」
「もちろんだ。いずれ近いうちのこの国は崩壊する。そう……今から5年ほど先だろう。その時に必要なのは米国ドルと快適な移住先。すべて用意しよう」
「あんた達の言う事は必ず実現するからな。だから協力したんだ。私との約束も必ずさせてくれよ」
 大佐はそう言うと装甲車の中に戻っていった。

 ”魔導書‘は、慎重にアタッシュケースの中に入れられた。
「ああ、実現させてやるとも。世界の崩壊と破滅をな」
 男はそう呟くとアタッシュケースに厳重に鍵をかけたのだった。

 END
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