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11・ロンドンで多発する事件
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ロンドン市街では奇妙な死亡事件が続いていた。
死亡した人間は皆、心臓麻痺で、場所を問わず起きている。
多くが病死として処理されたが、統計学的にもその数は多すぎる。いずれ保険会社も気づくような案件だ。
ロンドン警視庁のパーシー・シトリー警部は、関連であろう新たな死亡事件の報告書を書き足していた。
自分のPCを使ってデータベースから、同じ状況と思われる件を選び出し、ノートに書き留めていく。テクノロジーとアナログとの組み合わせ作業だ。若い同僚から見れば効率は悪そうだが、彼には考えをまとめながら作業を進められる最適な方法だ。
疲れた目を癒やすために目頭を押さえてそうしていると、同僚のヒンクリー刑事が両手にコーヒーカップを持って入ってきた。
「お早うございます。警部、今日は早いんですね」
そう言ってヒンクリーは、左手のコーヒーカップを差し出す。
「ありがとうよ。けど、そういうお前も早いご出勤じゃないか?」
シトリーは、コーヒーカップを受け取ると、老眼鏡を外し、目頭を抑えた。
「俺は、いつもどおりの時間ですよ。あれ? 警部、もしかして帰らなかったんですか?」
「どうせ、帰っても誰もいない。嫁は俺に愛想をつかして、バカ息子はインフルエンサーだか何だかになるって言って出ていっちまったしな」
「すみません……そうでしたね」
ヒンクリーは、気まずそうな顔で詫びる。
「いいさ、事実だしな」
「ああ、でも、だとしても、身体は休めないと。頭も回りなくなりますよ」
ヒンクリーは、コーヒーをすすりながら壁のロンドン市街地の地図を見る。
「例の突然死の件……まだ事件性を疑っているですか?」
「どうも引っかかるんだ」
「でも、検死では不整然な点はなかったと言っていましたよ。薬の服用も検出されなかったしね」
そう言ってヒンクリーは現場にマークを記した地図の前に立った。
「そもそも事件にもなっていないってのに。今に本部長に怒られますよ」
「監視カメラの製造解析の結果が出れば、ましな展開になるさ」
話を聞いていたヒンクリーだったが、途中、何かに気がついてシリトーに声をかけた。
「ねえ、警部。事故現場ですけど……何か、大きく円を描くように起きていませんか? 不自然ですね」
「今更なんだ。だから俺は、前からおかしいと思っているんじゃないか」
「ええ。でも俺が不自然だって思ったのはですね、この発生状況って、内側に向かって広がって……いや狭まってい
ないですか?」
ヒンクリーにそう言われて、シトリー警部は、あらためて地図を見直した。
「うん……確かにお前の言う通りだな」
「俺も専門家ってわけじゃないですがね、死因が、ウィルスとかの病気なんかが原因なら、普通は外に向かって広がっていくんじゃないですかね? ほら、拡散ってやつです」
そう言ってヒンクリーは手を広げてみせた。
「確かにそうだ……こいつは、中心に向かっているように見える」
「まるで狩りだな」
「はあ?」
「狩りですよ。獲物を取り囲んで追い立てていくんです。大昔の日本では”巻狩り”と呼んでいたそうです。シャチなんかも似たような狩りをする」
「お前、意外と博識だな」
「昨夜、BBCのドキュメンタリー番組でやってました」
「これが、仮にお前の言う通り、狩り”だとすると、この正体不明のハンターたちは、何を追い立てていると思う?」
「人間狩り(マンハント)じゃないですかね。冗談ですけどね」
話に飽きたのか、そう言ってヒンクリーは部屋から出ていった。その後姿をシトリー警部は、睨みつけながら思う。
もしかしたら……こいつ、事件性は信じていないのに、本質を突いているんじゃないか?
シトリーは、何かを思いついて、ボールペンを持って地図に近づいた。
そして、包囲網の中心に線を引く。
「中心は、ロンドン塔か……」
シトリーは、そうつぶやいた。
死亡した人間は皆、心臓麻痺で、場所を問わず起きている。
多くが病死として処理されたが、統計学的にもその数は多すぎる。いずれ保険会社も気づくような案件だ。
ロンドン警視庁のパーシー・シトリー警部は、関連であろう新たな死亡事件の報告書を書き足していた。
自分のPCを使ってデータベースから、同じ状況と思われる件を選び出し、ノートに書き留めていく。テクノロジーとアナログとの組み合わせ作業だ。若い同僚から見れば効率は悪そうだが、彼には考えをまとめながら作業を進められる最適な方法だ。
疲れた目を癒やすために目頭を押さえてそうしていると、同僚のヒンクリー刑事が両手にコーヒーカップを持って入ってきた。
「お早うございます。警部、今日は早いんですね」
そう言ってヒンクリーは、左手のコーヒーカップを差し出す。
「ありがとうよ。けど、そういうお前も早いご出勤じゃないか?」
シトリーは、コーヒーカップを受け取ると、老眼鏡を外し、目頭を抑えた。
「俺は、いつもどおりの時間ですよ。あれ? 警部、もしかして帰らなかったんですか?」
「どうせ、帰っても誰もいない。嫁は俺に愛想をつかして、バカ息子はインフルエンサーだか何だかになるって言って出ていっちまったしな」
「すみません……そうでしたね」
ヒンクリーは、気まずそうな顔で詫びる。
「いいさ、事実だしな」
「ああ、でも、だとしても、身体は休めないと。頭も回りなくなりますよ」
ヒンクリーは、コーヒーをすすりながら壁のロンドン市街地の地図を見る。
「例の突然死の件……まだ事件性を疑っているですか?」
「どうも引っかかるんだ」
「でも、検死では不整然な点はなかったと言っていましたよ。薬の服用も検出されなかったしね」
そう言ってヒンクリーは現場にマークを記した地図の前に立った。
「そもそも事件にもなっていないってのに。今に本部長に怒られますよ」
「監視カメラの製造解析の結果が出れば、ましな展開になるさ」
話を聞いていたヒンクリーだったが、途中、何かに気がついてシリトーに声をかけた。
「ねえ、警部。事故現場ですけど……何か、大きく円を描くように起きていませんか? 不自然ですね」
「今更なんだ。だから俺は、前からおかしいと思っているんじゃないか」
「ええ。でも俺が不自然だって思ったのはですね、この発生状況って、内側に向かって広がって……いや狭まってい
ないですか?」
ヒンクリーにそう言われて、シトリー警部は、あらためて地図を見直した。
「うん……確かにお前の言う通りだな」
「俺も専門家ってわけじゃないですがね、死因が、ウィルスとかの病気なんかが原因なら、普通は外に向かって広がっていくんじゃないですかね? ほら、拡散ってやつです」
そう言ってヒンクリーは手を広げてみせた。
「確かにそうだ……こいつは、中心に向かっているように見える」
「まるで狩りだな」
「はあ?」
「狩りですよ。獲物を取り囲んで追い立てていくんです。大昔の日本では”巻狩り”と呼んでいたそうです。シャチなんかも似たような狩りをする」
「お前、意外と博識だな」
「昨夜、BBCのドキュメンタリー番組でやってました」
「これが、仮にお前の言う通り、狩り”だとすると、この正体不明のハンターたちは、何を追い立てていると思う?」
「人間狩り(マンハント)じゃないですかね。冗談ですけどね」
話に飽きたのか、そう言ってヒンクリーは部屋から出ていった。その後姿をシトリー警部は、睨みつけながら思う。
もしかしたら……こいつ、事件性は信じていないのに、本質を突いているんじゃないか?
シトリーは、何かを思いついて、ボールペンを持って地図に近づいた。
そして、包囲網の中心に線を引く。
「中心は、ロンドン塔か……」
シトリーは、そうつぶやいた。
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