6 / 39
6、エグジット・サテライト
しおりを挟む
西暦2199年10月24日
その日、ラリー・グラントは、高い保険に切り替えておけば良かったと思う事になる。
地球の重力圏を越える約50万キロ。月からは約10万キロの宇宙空間で活動を続けるワームホールの実験観測船“アルゴノーツ”。
グラントが、それに乗り込んで90日を越えようとしていた。
彼は、高額な日給を魅力的に感じ、契約を延し続け、地球にも戻らず、月面都市にも降りる事はなく観測船での生活を続けていた。
グラントの仕事は“エグジット・サテライト”と呼ばれる二基の衛星のコントロールとメンテナンスだ。
エグジット・サテライト
この衛星は、火星で建造中のワームホール型ワープ発生装置アビスゲート・ワンの地球側の空間跳躍出口を作り出す為のものだ。
外宇宙開発のために植民地となる惑星の衛星軌道上にエグジット・サテライトを配置させ予定だった。
ただしこのシステムはエグジット・サテライトからワームホールを発生させる事はできないので一方通行のワープ跳躍だ。
いずれは各植民地惑星の衛星軌道上にワームホール型ワープ発生装置を建造すれば相互跳躍が可能な星間ネットワークが構築されることだろう。
実験観測船“アルゴノーツ”では星間跳躍の実験を頻繁におこなっていた。
いずれ正式運航するであろうアビスゲート・ワンの安全性を確認する為だ。
今日は、その104回目となる運用テストだったが、今回は何かが違っていた。
発生している空間の出口から流れ込んでくるエネルギーの増加量が予想値より高かったのだ。
その数値を見てラルー・グラントは益々、不安になっていた。
目の前のワームホールが開き始めた。
歪んだ空間が七色に光り始めている。まるで水に浮かぶオイルの様だった。
「おかしい。放射線量がいつもより高すぎる」
隣に座る相棒のジョン・ノアがモニターを見て言う。
「アビスゲート側からの出力を上げたんじゃないのか?」
グラントは怪訝な顔をして言い返した。
「そんなの予定にない」
「どうする? 続行するか?」
「そうだな……多いと言っても既定値を上回ったわけじゃないしな。このまま行こう」
「ユニット到着します」
宇宙空間を回転する二基のエグジット・サテライトの周回中心点が輝き始めた。
それに呼応するかの様にエネルギー発生装置の温度は上昇し始めていた。
「発生装置の温度が急激に上昇中」
エグジット・サテライトの冷却装置の限界点に達しようとした時だった。
数秒後に歪んだ空間の穴からテスト用の輸送ユニットが姿を現した。
エネルギー発生装置の温度も下がり始め、グラントも安堵したが、それも束の間、輸送ユニットを吐き出した空間の穴から“何か”のエネルギーが噴出した!
同時にアルゴノーツ号の船体が大きく傾く。
船のバランスをコントロールしていたメインコンピュータがシャットダウンしたのだ。
人工重力装置も作動を停止し、グラントたち乗組員たちの身体が無重力状態で浮き始めてしまう。
やはり、保険の掛け金を高くしておくべきだった
グラントはシステム再起動の操作をしながらそう思う。
再起動が功を奏したのか、すぐに機能は戻り、人工重力も元に戻っていった。
「何だった? あれは」
「さあな。電磁フレアの影響に似ていたが……コンピュータは無事か?」
「チェック中。今のところ正常」
「エグジットは?」
「消失した。データでは一時的にすごい重力の数値を示していた。こんなのは初めてだ」
「急激な重力の収縮拡大があったのかもしれない。してはまずい空間位置で……」
「それって大問題ではないじゃないのか?」
「かもな。おい、輸送ユニットは無事か?」
「モニター状態正常。データ受信も正常に開始してる。いい感じだ」
輸送ユニットが空間転移が成功したことにグラントたちも安心する。
それからモニター機器のリモート操作を始める。
「外壁温度正常。船内機器正常……待って、少しおかしい。報告を受けている重量と違うぞ」
「違う、慌てるな、ジョン。お前の受けてる報告は古いみたいだぞ。急遽、予定外の荷物を乗せてるだけだ」
データベースから記録を再確認しながらグラントは言った。
「予定外の荷物?」
「本社の命令で急遽、“火星人”を積んできてる」
グラントの言葉にジョンは眉をしかめる。
「今、“火星人”って言ったか?」
ジョンを納得させようとグラントが輸送ユニットの船内カメラを操作して貨物室の映像を映し出す。
「おいおい、嘘だろ……?」
ジョン・ノアは映像を見て驚いた。
そこには厳重な保存装置の中に保管された“火星人”が寝かされていたのだ。
それは火星の古代遺跡で発見された“巨人”たちのひとりであった。
その日の同時刻、月の多くの施設、周辺宙域の艦船、そして地球の北半球で一部の電子機器に問題が生じた。
幸い大きな事故も怒らず、深刻な事態にはならなかったものの影響は広範囲で起きた。
間を置かずに宇宙航空管理機関は電磁フレアが原因であったと発表する。
事実は、アビスゲート・ワンの実験中に発生した未知のエネルギーが引き起こした可能性が高かったが、その情報は何故か削除されていた。
何者かが情報を操作したのだ。
誰にも知られずに。
その日、ラリー・グラントは、高い保険に切り替えておけば良かったと思う事になる。
地球の重力圏を越える約50万キロ。月からは約10万キロの宇宙空間で活動を続けるワームホールの実験観測船“アルゴノーツ”。
グラントが、それに乗り込んで90日を越えようとしていた。
彼は、高額な日給を魅力的に感じ、契約を延し続け、地球にも戻らず、月面都市にも降りる事はなく観測船での生活を続けていた。
グラントの仕事は“エグジット・サテライト”と呼ばれる二基の衛星のコントロールとメンテナンスだ。
エグジット・サテライト
この衛星は、火星で建造中のワームホール型ワープ発生装置アビスゲート・ワンの地球側の空間跳躍出口を作り出す為のものだ。
外宇宙開発のために植民地となる惑星の衛星軌道上にエグジット・サテライトを配置させ予定だった。
ただしこのシステムはエグジット・サテライトからワームホールを発生させる事はできないので一方通行のワープ跳躍だ。
いずれは各植民地惑星の衛星軌道上にワームホール型ワープ発生装置を建造すれば相互跳躍が可能な星間ネットワークが構築されることだろう。
実験観測船“アルゴノーツ”では星間跳躍の実験を頻繁におこなっていた。
いずれ正式運航するであろうアビスゲート・ワンの安全性を確認する為だ。
今日は、その104回目となる運用テストだったが、今回は何かが違っていた。
発生している空間の出口から流れ込んでくるエネルギーの増加量が予想値より高かったのだ。
その数値を見てラルー・グラントは益々、不安になっていた。
目の前のワームホールが開き始めた。
歪んだ空間が七色に光り始めている。まるで水に浮かぶオイルの様だった。
「おかしい。放射線量がいつもより高すぎる」
隣に座る相棒のジョン・ノアがモニターを見て言う。
「アビスゲート側からの出力を上げたんじゃないのか?」
グラントは怪訝な顔をして言い返した。
「そんなの予定にない」
「どうする? 続行するか?」
「そうだな……多いと言っても既定値を上回ったわけじゃないしな。このまま行こう」
「ユニット到着します」
宇宙空間を回転する二基のエグジット・サテライトの周回中心点が輝き始めた。
それに呼応するかの様にエネルギー発生装置の温度は上昇し始めていた。
「発生装置の温度が急激に上昇中」
エグジット・サテライトの冷却装置の限界点に達しようとした時だった。
数秒後に歪んだ空間の穴からテスト用の輸送ユニットが姿を現した。
エネルギー発生装置の温度も下がり始め、グラントも安堵したが、それも束の間、輸送ユニットを吐き出した空間の穴から“何か”のエネルギーが噴出した!
同時にアルゴノーツ号の船体が大きく傾く。
船のバランスをコントロールしていたメインコンピュータがシャットダウンしたのだ。
人工重力装置も作動を停止し、グラントたち乗組員たちの身体が無重力状態で浮き始めてしまう。
やはり、保険の掛け金を高くしておくべきだった
グラントはシステム再起動の操作をしながらそう思う。
再起動が功を奏したのか、すぐに機能は戻り、人工重力も元に戻っていった。
「何だった? あれは」
「さあな。電磁フレアの影響に似ていたが……コンピュータは無事か?」
「チェック中。今のところ正常」
「エグジットは?」
「消失した。データでは一時的にすごい重力の数値を示していた。こんなのは初めてだ」
「急激な重力の収縮拡大があったのかもしれない。してはまずい空間位置で……」
「それって大問題ではないじゃないのか?」
「かもな。おい、輸送ユニットは無事か?」
「モニター状態正常。データ受信も正常に開始してる。いい感じだ」
輸送ユニットが空間転移が成功したことにグラントたちも安心する。
それからモニター機器のリモート操作を始める。
「外壁温度正常。船内機器正常……待って、少しおかしい。報告を受けている重量と違うぞ」
「違う、慌てるな、ジョン。お前の受けてる報告は古いみたいだぞ。急遽、予定外の荷物を乗せてるだけだ」
データベースから記録を再確認しながらグラントは言った。
「予定外の荷物?」
「本社の命令で急遽、“火星人”を積んできてる」
グラントの言葉にジョンは眉をしかめる。
「今、“火星人”って言ったか?」
ジョンを納得させようとグラントが輸送ユニットの船内カメラを操作して貨物室の映像を映し出す。
「おいおい、嘘だろ……?」
ジョン・ノアは映像を見て驚いた。
そこには厳重な保存装置の中に保管された“火星人”が寝かされていたのだ。
それは火星の古代遺跡で発見された“巨人”たちのひとりであった。
その日の同時刻、月の多くの施設、周辺宙域の艦船、そして地球の北半球で一部の電子機器に問題が生じた。
幸い大きな事故も怒らず、深刻な事態にはならなかったものの影響は広範囲で起きた。
間を置かずに宇宙航空管理機関は電磁フレアが原因であったと発表する。
事実は、アビスゲート・ワンの実験中に発生した未知のエネルギーが引き起こした可能性が高かったが、その情報は何故か削除されていた。
何者かが情報を操作したのだ。
誰にも知られずに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる