俺と彼女と彼女と俺の出会いは少し違っている

毛穴翔太

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クリスマス

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 ようやく長い戦いが終わった翌日。
 夜奈と俺は初めてのクリスマスデートの為、街の方へと来ていた。
 夜奈と半年以上前から計画していたデートが遂に実現した事だけでも、嬉しい限りである。
「ねえ、たっくん。やっぱりカップルが多いね」
 夜奈の言う通り、カップルが思っている以上にいるような気がする。
 もちろん、普段と変わらない数なのかも知れないが、クリスマスなだけあってカップルがより目につくからかも知れない。
 と、考えつつも口では、
「確かに多いな」
 などと夜奈の意見に同意した。
 そんな俺たちだが、ある程度のデートプランは完成しており、そのプラン通りに行動するだけである。
 もちろんそのデートプランは、半年前から考えていたものである。
「まずは映画館からだね!」
 これは夜奈が考えたもので、二人で映画を見たい!と提案したものだ。
 タイトルは『鈍感な私の恋』と言う恋愛映画であった。
 軽くあらすじを言うと、恋愛に鈍感な女子高生に、学校で人気の男子高校生が、恋をすると言う今の現代において、とても下手な内容のアニメであった。
 これは一度死ぬ前の世界で夜奈とのデートの時に見たものと同じものである。
 だがしかし、二度見ても面白くはあったので、満足である。
 隣にいる夜奈も満足だったのか、映画館から出ても、楽しそうに映画の話をしてくる。
「また観に来ようね!」
 その時の夜奈の笑顔に俺はドキッとしてしまった。
 何度も見ている笑顔のはずなのだが。
「あ、ああ……。其れはそうと、そろそろお昼にしようか」
「えっ!?もうそんな時間なの!?」
 驚いた様子の夜奈は、腕に着けている時計を見た。
「本当だ……」
「取り敢えず、何が食べたい?」
「うーん……ラーメンかな?」
 ラーメンって!と思うも、夜奈の折角のリクエストに答えてあげたい。
 まあ、ラーメンと言う選択肢、この俺にとっては予想の範囲内である。
 何故なら俺の調査に抜かりは無いからだ。
 ラーメンは勿論、うどん、蕎麦、ハンバーグに豚カツ。ありとあらゆる選択肢を考え、更に評判の良い店を必死に探したのだ。
「了解!さあ、行こう」
 俺は夜奈を引き連れて、ラーメン屋へと向かった。
「………嘘……だろ…」
 俺たちの目の前には、定休日と言うの文字がシャッターに貼られていた。
「完全に閉まっているね……」
 何が抜かりは無いだ!
 一番大事なところを見ずに、完璧だと思っていた事が恥ずかしい。
「すまん。まさか定休日だとは、思っていなかった」
「仕方ないよ。其れより、近くを探そう?」
「ああ……」
 俺は心に傷を負いながら、夜奈と一緒にラーメン屋を探した。
 最悪どの店でもいいかな?と思いながら、あの店から十分程歩いていると、夜奈が急に立ち止まった。
「たっくん。ここにしようか?」
 夜奈がそう言って指を差したのは、創業が数年程では無いと言い切れる程のおんぼろのラーメン屋であった。
 そんなラーメン屋の看板は『ラ メン み び』と掠れて読めず、暖簾は汚れている上に、ボロボロであった。
 そもそもやっているのか、怪しいところだ。
「さあ、入ろっか」
 夜奈はそう言うと、ガラガラと扉をスライドさせた。
 夜奈に続いて中に入ると、漫画とかに出てきそうな年季の入った机に椅子。壁には手で書かれたボロボロのメニューが貼られていた。
「いらっしゃい」
 そう言って出迎えて来たのは、七十歳は超えている白髪のちょっぴり強面のお爺さんだった。
 俺たちは適当に座り、メニュー表を見た。
 そのメニュー表も当然の事ながら、文字が掠れ、写真も薄くなっている。
「何にしやす?」
 伝票を持って出てきたお爺さんが問いかけてくる。
「私は味玉ラーメン」
「俺はチャーハンセット」
「味玉とチャーハンセットね。少々お待ちを」
 お爺さんはそう言うと厨房へと戻っていく。
「ねえねえ、たっくん。次は、何処に行くんだったけ?」
「一応ボーリング場って決めていたんだが、食べてすぐに動くと思うと、違うところに行ってみるのもありなのかな?と思っているんだが……。どう思う?」
「確かにそうだね。……じゃあ、ゲーセンに行ってみたい。私、ゲーセンに行った事が無いの!」
「え!?一緒に……」
 いや、違う。
 俺が生き返る前に夜奈がそう言うのでゲーセンに行ったが、生き返った後の夜奈とは行ってない。
 故に、夜奈の行っていないと言う言葉は正しいとされる。
「楽しみだなー」
「計画していたプランとは違うけどな」
「そうだね。けど、楽しめれば其れでいいじゃん!」
 ニコッと笑う夜奈を見て、俺は再びドキッとしてしまった。
 そんな中、ようやくラーメンが届いた。
「味玉ラーメンとチャーハンセットになります」
 お爺さんはそう言うと、テーブルにラーメンを置いていく。
 ラーメンを置き終わったお爺さんは、厨房へと戻り、器具の洗い始めた。
「ねえ、たっくん。なんだか、凄いラーメンが出てきたね」
「え!?」
 夜奈にそう言われ、ラーメンを見て驚いた。
 まずのりが三枚ほど入っており、半切りにされた味玉が二つ。そして何より驚いたのが、麺が見えない程のチャーシューである。
 夜奈に関しては、味玉が更に二つ入っていた。
「すごいな……」
「私、食べきれるかな?」
「俺もチャーハンを頼まなければ良かったかも……」
 俺と夜奈は意を決して、ラーメンを食べた。
「ありがとうございましたー」
 暖簾をくぐり外へ出た俺たちは、数秒程店の前で止まった。
 結論から言うと、とても美味しかった。しかし、量が思っていた以上に多く、途轍も無くお腹が苦しい。
「取り敢えず、行こうか」
「う、うん…」
 俺たちはゆっくり次の目的地のゲームセンターへと向かった。
「着いたね」
「着いたな」
 先程のラーメン屋から徒歩十分程の所にゲームセンターがあり、俺たちはその入り口の前で立ち止まっている。
 もちろん、十分程歩いてお腹が落ち着く筈もなく、苦しいままである。
「ちょっと休憩しようか」
「そうだね」
 俺たちは近くにあった休憩用の椅子に座り、暫し休憩する事に。
 休憩する事三十分。ようやく少し動けるようになり、ゲームセンターの中へと入って行った。
「さて、どれを遊ぶ?」
「まずは軽めの奴からがいいかな?」
「其れには同意見だ。じゃあ、手始めにクレーンゲームでもしてみるか?」
「うん!」
 これも死ぬ前の世界で、夜奈とのデートでやったものだ。
 あの時のように夜奈が上手く取れないでいる姿を見て、少し笑ってしまった。
「あー!笑った!」
「ごめん、ごめん。下手だから笑ったんじゃ無いんだよ」
「じゃあ何で笑ったの?」
 起こり気味で聞いてくる夜奈に俺はこう答えた。
「いや、死ぬ前の世界で夜奈とゲームセンターに行った時に、同じようにクレーンゲームをやった事があってな、その時も同じように取れてなかったのを思い出して、つい笑ってしまったんだよ」
「其れって、結局下手で笑ってたって事だよね?」
「………すみません。お詫びに取ってやるからさ」
 俺はあの時と同じように距離を目測で測り、そこへアームを持って行く。
 勿論、取るのはあの時と同じクマのストラップである。
 俺はカチッとボタンを押し、アームを動かした。
 寸分の狂いも無く目的の場所までアームを動かすと、操作しているボタンを離した。
 開きながらゆっくりと降りて行くアームをじっと見つめて、その時を待つ。
 下まで降りたアームは、ゆっくりと閉じ、クマのストラップの紐にアーム引っ掛けた。
 その数、あの時と同じ二つであった。
「ほら、あげるよ」
「あ、ありがとう」
「さて、次行くか。今度は夜奈が得意なゲームだ」
「私が得意な?」
 俺は夜奈の手を取り、次のゲーム機へと向かった。
「これは?」
「ガンシューティングゲームさ。手元にある銃の形をしたものを持って、画面に出てくるゾンビを倒すんだよ。まあ、やってみれば分かるさ」
「う、うん…」
 俺はお金を入れ、構えた。
 夜奈も同じように構え、その時を待った。
 画面にカウントダウンが行われ、ゼロの表示と共にゲームが始まった。
 画面に出てくるゾンビは、右から左からとありとあらゆる場所から出て来て、プレイヤーを襲ってくる。
 だが、あの時のように夜奈は、次々とヘッドショットで倒していく。
 そんな夜奈に俺も負けてはいられない。
 俺も夜奈と同じように、ヘッドショットで倒す。
 お互いに次々とスコアを上げていき、そしてゲームが終了し、最終スコアが表示された。
 一位、プレイヤー1(夜奈)
 二位、プレイヤー2(俺)
「やったー!私の勝ち!」
「くそっ!また負けたか……」
「フフフ。まだまだだね!」
「うるせえ。今度は勝つからな!」
「うん!またやろうね」
「さてと、次は何がやりたい?」
「私、小っちゃい頃からずっとやってみたいのが、あったんだ」
「ずっとやってみたい事?」
「うん!」
 そんな事、前の世界では言っていなかった筈だ。
 一体何がやりたいのだろうか。
「私、プリクラを撮りたいの!」
 目をキラキラさせてそう言う夜奈に、俺は優しく微笑んだ。
「ああ。撮ろう!」
 俺たちはプリクラの所へ向かい、中に入った。
「ワクワクするね!」
 久しぶりに入るプリクラの所為なのか、其れとも夜奈と同じ空間に居る所為なのか、ワクワクどころか俺は、ドキドキしていた。
『とるよ~』
 機械から流れてくる女性の声。
 ノリノリの夜奈にドキドキの俺。
 果たして、俺は今笑えているのだろうか?
 数回のポーズを取り、最後にデコレーションをし、撮った写真が出てきた。
 夜奈はその写真を取ると、ニコッと微笑んだ。
「私これ、大切にするね!」
「俺には来れないのか?」
「ダ~メ!これはあげられない。けど、次に来たときは、たっくんにあげる!」
 と言う夜奈の言葉に、其れは遠回しに、もう一回プリクラを撮りたいって事を言っているのだろう。
「そろそろ行こうか」
「もうそんな時間?」
 夜奈は俺にそう言われ、腕に付いている可愛らしい時計を見た。
「本当だ。じゃああとは、ご飯を食べて、寂しいけど帰ろうか」
 俺たちは晩ご飯を食べに行く為、ゲームセンターを抜けた。
「寒っ!」
「寒いねー」
 吐いた息は白く、見た目だけで寒いのが分かる。
「で、どこに行くの?」
「お寿司屋さんだ」
「お寿司!?でも大丈夫?」
「だ、大丈夫。そもそもそんな高いとこには行かないから!普通にあるチェーン店だから!」
「まあ、私たち学生だからね…」
「さあ、行こうか」
 いつか、夜奈に高いお寿司を食べさせる事を心に誓い、お店に向かった。
 店に着くと、クリスマスの所為なのか、人の数が物凄いことになっていた。
 家でチキンでも食べとけよ!と思いながら、並ぶ事に。
「一体、どれくらい待てばいいんだろうね?」
「分からん」
 結局、一時間弱くらいで席につけた。

「お腹いっぱいだね!」
「其れは良かった」
 二人で三十皿近く食べ、(そのうち夜奈が半分以上食べた)帰宅しようと駅にむかっていると、夜奈があるお店の前で立ち止まった。
「どうした?」
 立ち止まった夜奈に問いかける。
「まだお金ってある?」
「あるが……」
「ねえ、少し入っていい?」
「ああ。構わないが…」
 夜奈にそう言われ、夜奈と共に店へと入った。
 その瞬間カランカランと、ドアに付いた鈴が鳴り響く。
「いらっしゃいませ」
 ドアに付いた鈴に気づいた三十代ほどの男性が店の奥から出てきた。
「なあ、ここって……」
「アクセサリーショップだよ。もちろん、アクセサリーだけじゃなくて、ちょっとした骨董品も売っているんだけどね。で、私が欲しいのは……」
 夜奈はそう言うと、あるコーナーに向かった。
 そこは、指輪が売っているコーナーであった。
「良かったー!まだ売れてなかった」
 そう言った夜奈が見ていたのは、銀色に輝く指輪が二つ、大きさの少し違う指輪がショーケースに入った状態で置かれていた。
「お前が欲しいのって、指輪のことか!」
 と問いかけると、夜奈は嬉しそうに頷いた。
「うん!小さい頃から憧れていたんだよ!其れに思った以上に安いし!」
 値段を見ると確かに思っていた以上に安く、今残っているお金でも十分なお釣りが来る。
「ねえ、いいでしょう?」
 多分故意でやってはいないと思うのだが、(そもそも、俺と夜奈とでは勿論俺の方が大きい為必然的にそうなる事が分かっているのだが)反則級の上目使いで俺に訴えてくる。
 まあ、反対すると言う選択肢が今の俺には無い為、勿論賛成する。
「よし!買うか!」
「うん!」
 俺と夜奈はすぐ近くにいた店員さんに声をかけ、銀色に輝く指輪を一つずつ買った。
 夜奈は嬉しそうに買った指輪を受け取り、すぐさま左薬指に指輪を嵌めた。
「ねえ、どうかな?」
「良いんじゃ無いか?」
「もっと他の感想は無いの!」
 他に感想は?と問いかけられても、それ以上の感想は、俺の脳では答えが出なかった。
「それよりたっくんも!」
 夜奈にそう言われて、俺は右手の人差し指に指輪を嵌めた。その瞬間、
「たっくん。間違えているよ?」
 隣にいた夜奈の表情が笑いながら、内心めっちゃ怒っていた。
「じょ、冗談だよ!」
 俺はすぐさま左薬指に指輪を嵌めた。
「たっくん。ずっと付けていてね!学校でも、家でも!分かった?」
 憧れが強かったのだろう。夜奈が魔物以外で本気になるところを見た事が無い。
 流石の俺でも少し怖かったので、「うん、分かった」と少し引き気味で軽く返事をした。
「さあ、帰ろうか」
 カランカランと鳴る店のドアを開け、外に出た俺たちの目の前で起きている現象に暫し心を奪われた。
 そんな二人だが、先に口を開いたのは夜奈であった。
「寒い、寒いと思っていたけど、雪が降るなんて……」
 今年は例年以上に寒いのか、既に山手の方では雪が積もっており、雪が降る事に関しては珍しいものでもない。だが、今回に関しては俺も夜奈と同意見で、今朝の天気予報ではそんな雪が降るなんて予報は無かったのだ。
 勿論予報なので、確実では無いにせよ、これは雰囲気的に嬉しい限りである。
「ホワイトクリスマスだね」
「そうだな」
「……ねえ、たっくん…」
 俺の服の袖を持ちながらそう言う夜奈は、顔を赤らめながら、こちらを見ている。
 そんな夜奈を見た俺は、こんなに寒いのに急に顔が熱くなっていた。
 そして夜奈は顔を赤らめながらゆっくりと目蓋を閉じ、唇を少し突き出した。
 こ、こ、こ、これって!?
 それだと分かった瞬間、ドクン、ドクンと心臓が激しく鼓動する。
 落ち着け!落ち着け!
 夜奈にバレないようにゆっくりと深呼吸をする。
 すると、激しく鳴っていた鼓動は少し和らぎ、気持ちを少しだけ落ち着かせた。
 そして俺は、唇と唇を合わせた。
「……………」
「……………」
 嬉しさ半分。恥ずかしさ半分。そんな気分の中、俺は呟くようにこう言った。
「か、帰ろうか」
「……うん……。そう……だね…」
 俺たちは無意識に手を繋ぎ、ようやく訪れた、この十二月二十五日に喜びを感じながら、家へと向かった。
 恐らく今日と言う日を俺たちは忘れないだろう。




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