軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第一章

最後の村 1

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 オーフェルエイデ領の民たちが、領主を一心に慕っているのが半日一緒に村を回っているだけでも十分に感じ取れた。
 大きな麻袋を両手で抱えながら馬の背中でバランスをなんとか保とうとするサニに、リエイムが手綱を持ちながら腕の内側で支える。必然的に胸にすっぽり包み込まれるような形になってしまって恥ずかしい。
 両手の荷物に意識を集中させた。
「悪いな、重いだろう? もう少し我慢してくれ」
 穏やかな口調のリエイムはこの体勢を特に意識してはいなさそうだ。
 自分ばかりが一方的に気にしているようで、面白くない。
 サニは跳ねる心臓の音に最大限気にしていないふりで、そっぽを向く。
「私はいいのですが、パロモが私の体重と荷物でとても重そうですよ」
「大丈夫、もう少しで軽くなるさ。あと一つだけ、寄りたい村があるんだ。そこに行ったら城に帰ろう」
「そういえばさっき子供たちにしていた話は、なんという題名なのですか?」
「『赤龍と女』という、古くから伝わるおとぎ話だ。クレメントの人間なら一度は子供の時に親から教わる有名な昔話だな。教訓は特にないけれどな」
「孤独な龍が幸せになる最後が感動的で素敵な伝説ですね」
 光の当たり具合のせいだろうか、リエイムの顔が少しだけ曇った気がした。
「あのラストは、子ども用に改良されたバージョンなんだ。本当の話は、龍の最期が少し違う」
「どんな風に違うんですか?」
「世界が平和になり龍が家に帰るとその家族は、龍のことを少しも覚えていなかった。真珠に一度願いを吹き込むと、他の人間はその者の存在を記憶から消してしまうのだ。龍は女と子供の元を去り、再び孤独になった。しかし愛を知った龍は幸せだった。龍は横たわると、一人で死んで行った。……という終わり方だ」
「そんな、全然違うじゃないですか。龍は死ぬ間際、孤独にまた戻ってしまったということですか? なんか裏切られた気分です」
「だろう? 本当は、けっこう大人向けのストーリーなんだ」
「クレメントにも、こんな悲しい話があるんですね……」
「この伝説は、元はセディシアから伝わった話なのだ。セディシアとクレメントは、太古には一つの国だったからな。嘘か誠か、歴代のセディシア国王たちは代々言い伝えを信じていて、平和に導いてくれる龍の居場所をいまだに探している、なんていう噂もあるのだ」
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