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第二章
恐れていた日 1
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平穏な日常は長くは続かない。
恐れていた次の指令はサニの思った以上に早くやってきた。明日の朝、リエイム軍が城を発つ。
今回の相手は二万人のセディシア帝国軍だ。しかも既に、グーロン第一軍が大敗していると聞く。グーロン第一軍はラルーム軍将率いる軍で、数年前一度サニも加護についたことがある。兵士は屈強で鍛錬されており、強かった印象だ。その軍でもまだ勝てないのに、聖舞師なしでたやすく勝てるとは思えない。しかしリエイムはサニが同行を申し出ても決して首を縦には振らなかった。
「大丈夫だと言っただろう? 気にすることはない。サニは城で待っていてくれ」
「でも……」
「心配ない。ちゃんと勝って、戻ってくるから」
「わかりました。ご無事を祈っています」
一旦はそう答えたものの、不安で眠れない夜をサニは過ごした。
一睡もしないまま、朝方ベッドから起き上がり、しばらく仕舞っていた戦闘服に着替えるとリエイムの軍の出発を待つ。堂々と現れても、あれだけ頑なだったリエイムはサニを連れていくことはしないだろう。
軍が発つのを待ってサニはこっそり馬の手綱を引いた。
地図を確認しながらたどり着いたとき、ちょうど軍が出陣するところだった。サニはグラニを木にくくりつけ、外套を脱いでそばに置いた。
クロテールをはめて踊り始める。
しかし、やはりどれだけ舞っても、もはや弱い光すら生まれることはなかった。
サニは自分の無力さに打ちひしがれ、途方に暮れた。
前進する軍を、もうただ呆然と見守るしかできなかった。
遠くから、リエイムが戦う姿が見えた。剣を振り上げ進む様はいつも以上に勇ましい。
しかし、後から後から来る兵たちに四方を囲まれ、苦戦していた。
このままでは軍が危ない。両手を震えるほど強く胸に当て、ひたすら願った。
「父よどうか、お願いです……彼を、彼が率いる軍をお助けくださいっ……!」
膝をついて必死で祈っているさなかに、乱射された矢の一本がこちらに向かって飛んできた。
普段は目視できない聖舞師が現れたとなればセディシア軍にとってまたとない奇襲のチャンスだ。
恐れていた次の指令はサニの思った以上に早くやってきた。明日の朝、リエイム軍が城を発つ。
今回の相手は二万人のセディシア帝国軍だ。しかも既に、グーロン第一軍が大敗していると聞く。グーロン第一軍はラルーム軍将率いる軍で、数年前一度サニも加護についたことがある。兵士は屈強で鍛錬されており、強かった印象だ。その軍でもまだ勝てないのに、聖舞師なしでたやすく勝てるとは思えない。しかしリエイムはサニが同行を申し出ても決して首を縦には振らなかった。
「大丈夫だと言っただろう? 気にすることはない。サニは城で待っていてくれ」
「でも……」
「心配ない。ちゃんと勝って、戻ってくるから」
「わかりました。ご無事を祈っています」
一旦はそう答えたものの、不安で眠れない夜をサニは過ごした。
一睡もしないまま、朝方ベッドから起き上がり、しばらく仕舞っていた戦闘服に着替えるとリエイムの軍の出発を待つ。堂々と現れても、あれだけ頑なだったリエイムはサニを連れていくことはしないだろう。
軍が発つのを待ってサニはこっそり馬の手綱を引いた。
地図を確認しながらたどり着いたとき、ちょうど軍が出陣するところだった。サニはグラニを木にくくりつけ、外套を脱いでそばに置いた。
クロテールをはめて踊り始める。
しかし、やはりどれだけ舞っても、もはや弱い光すら生まれることはなかった。
サニは自分の無力さに打ちひしがれ、途方に暮れた。
前進する軍を、もうただ呆然と見守るしかできなかった。
遠くから、リエイムが戦う姿が見えた。剣を振り上げ進む様はいつも以上に勇ましい。
しかし、後から後から来る兵たちに四方を囲まれ、苦戦していた。
このままでは軍が危ない。両手を震えるほど強く胸に当て、ひたすら願った。
「父よどうか、お願いです……彼を、彼が率いる軍をお助けくださいっ……!」
膝をついて必死で祈っているさなかに、乱射された矢の一本がこちらに向かって飛んできた。
普段は目視できない聖舞師が現れたとなればセディシア軍にとってまたとない奇襲のチャンスだ。
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