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第二章
真夜中の訪問者 1
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生気を失った静寂の食卓でろうそくを一本立てると、村長はすぐに話し出した。
「実は私は、セディシア帝国にいたころ、宮殿内である任務の長を任されておりました。……伝説の真珠の探索です」
「……!」
サニがリエイムの方を振り向くと、大きな瞳が刮目している。村長の前職についてはリエイムも知らなかったようだ。
「そして五年前、私たち捜索班はついに真珠の眠る海を見つけ出してしまったのです」
「なんということだ……」
誰も真珠を見つけることはできていないだろうとリエイムは以前言っていた。しかし、セディシアは既に場所を把握していたのだ。
帝国王が、真珠を手にしたときのことを考えると、世にも恐ろしい。
無論龍の力は武力として大きいけれど、それよりも真珠の力は莫大な影響力がある。
なにせ願いを叶える魔法の力があるのだから。
かつて平和をもたらすことができたのならば、当然破滅だってたやすくできるだろう。
龍の力を兵器として使わずとも、クレメントとスーラどころか、世界中の国々を思うままに操れる。
「しかし、我々はその発見を王に正しく報告しなかった。私は王の政治体制に長年疑問をもっておりましたので、報告すれば恐ろしいことになると予感し、言わなかったのです」
「……とても懸命な考えだ」
「嘘の報告を疑われた班のみなは次々殺されました。最後に残った私は大切な地図を持って、どうにか国境を越え逃げ切ったのです。そして、リエイム様が私をかくまってくださいました」
言い終わって、丸められた羊皮紙を食卓の上で開く。世界地図だった。
「真珠の眠る場所が、この海です」
無数にちりばめられたばつ印のなかで、赤いまるが一つだけある。場所は、クレメントの北にある海だ。
「数日前、リエイム様がまさに伝説の龍だと知ってこの地図をお渡ししようと、決心しました。どうか、道しるべとしてお使いください。そして真珠を帝国王より早く、手に入れてください」
「村長……なんとお礼を言ってたらいいかわからない」
「とんでもないです。私は、命を救ってくださったあなた様にいつか恩返しをしたいとずっと思っておりました。こうしてお役に立てて光栄です。リエイム様が、この世をもう一度平和に導いてくださると信じております」
「必ず、セディシアには渡さない。真珠を平和のために使うと誓おう」
村長に礼を言って城を出発すると、地図が指し示していた場所に向かう。
何時間もひたすら北に歩いて、二日かけて海面へとたどり着いた。
夜の海は静かに波を作っていた。
一見穏やかに見えるが、不気味な黒い水面はちゃぷちゃぷと波が立つたび、無数の手が手招きしているように見える。
ひとたび落ちてしまえば、もがく間もなくすぐに海底へと連れ込まれてしまいそうだ。
「実は私は、セディシア帝国にいたころ、宮殿内である任務の長を任されておりました。……伝説の真珠の探索です」
「……!」
サニがリエイムの方を振り向くと、大きな瞳が刮目している。村長の前職についてはリエイムも知らなかったようだ。
「そして五年前、私たち捜索班はついに真珠の眠る海を見つけ出してしまったのです」
「なんということだ……」
誰も真珠を見つけることはできていないだろうとリエイムは以前言っていた。しかし、セディシアは既に場所を把握していたのだ。
帝国王が、真珠を手にしたときのことを考えると、世にも恐ろしい。
無論龍の力は武力として大きいけれど、それよりも真珠の力は莫大な影響力がある。
なにせ願いを叶える魔法の力があるのだから。
かつて平和をもたらすことができたのならば、当然破滅だってたやすくできるだろう。
龍の力を兵器として使わずとも、クレメントとスーラどころか、世界中の国々を思うままに操れる。
「しかし、我々はその発見を王に正しく報告しなかった。私は王の政治体制に長年疑問をもっておりましたので、報告すれば恐ろしいことになると予感し、言わなかったのです」
「……とても懸命な考えだ」
「嘘の報告を疑われた班のみなは次々殺されました。最後に残った私は大切な地図を持って、どうにか国境を越え逃げ切ったのです。そして、リエイム様が私をかくまってくださいました」
言い終わって、丸められた羊皮紙を食卓の上で開く。世界地図だった。
「真珠の眠る場所が、この海です」
無数にちりばめられたばつ印のなかで、赤いまるが一つだけある。場所は、クレメントの北にある海だ。
「数日前、リエイム様がまさに伝説の龍だと知ってこの地図をお渡ししようと、決心しました。どうか、道しるべとしてお使いください。そして真珠を帝国王より早く、手に入れてください」
「村長……なんとお礼を言ってたらいいかわからない」
「とんでもないです。私は、命を救ってくださったあなた様にいつか恩返しをしたいとずっと思っておりました。こうしてお役に立てて光栄です。リエイム様が、この世をもう一度平和に導いてくださると信じております」
「必ず、セディシアには渡さない。真珠を平和のために使うと誓おう」
村長に礼を言って城を出発すると、地図が指し示していた場所に向かう。
何時間もひたすら北に歩いて、二日かけて海面へとたどり着いた。
夜の海は静かに波を作っていた。
一見穏やかに見えるが、不気味な黒い水面はちゃぷちゃぷと波が立つたび、無数の手が手招きしているように見える。
ひとたび落ちてしまえば、もがく間もなくすぐに海底へと連れ込まれてしまいそうだ。
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