軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第二章

真夜中の訪問者 2

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 サニは一抹の不安を覚えてリエイムを振り返る。

「龍の姿になると、水の中にどれくらい留まっていられるのですか?」
「どれだけでも。水の中で龍は魚のように呼吸ができるんだ。待っていてくれ」
 言い残すと崖の上で、リエイムは服を脱ぎ、龍に変身する。龍はいったん空に向かうと頭を下にして、深い海にためらいなく落ちていった。
 じいっと帰りを待つと、小さな光が浮き上がってくるのが見えた。
 龍はサニの前にポトリと真珠を落とすと、すっと人型に戻っていく。
「これが……」
 つまみ上げた真珠は想像よりも大きく、手のひらに乗るくらいの鳥の卵ほどの大きさで妖美な何色とも言えない光を放っていた。
「まさか伝説が、なにからなにまで本物だったとはな……」
 真珠を海底から持ってきた本人がまだ信じられないような顔をする。
 サニも、これが全て夢だったらどれだけよかったことかと思う。
 でも、全て現実なのだ。
 リエイムが龍になることも、真珠が実在することも、そして王がこの真珠を欲しがっていることも。
 今日はこのままどこかで野営するのだと予想していたが、ぱらぱらと雨が降ってきた。
 雨ざらしを守る道具は何一つ持ってきていない。
「じき土砂降りになりそうだな」
「どうしますか?」
「クレメントに戻ろう。龍になれば今日のうちに戻れるはずだ。ビュレング州あたりにある適当な宿で、今夜は泊まればいい」
「城に帰ればいいのでは?」
「それはできぬのだ。わけは後で話す」
 リエイムはもう一度龍になると、サニの前で頭を低くして背中を差し出した。夜に光る大きな金の瞳と視線を合わせる。
「まさか、私にそこに乗れと?」
 龍が尻尾を使い、ぱしんと地面を一つ叩いた。
 イエスの意味だ。
「馬ですらあんなに乗るのに苦労したのに……」
 サニのぼやきに、今度は尻尾を左右にゆらゆらと揺らす。
 早くしろ、と言われているようだ。
「わかりました、乗りますから。でも、絶対に落とさないでくださいねっ」
 恐る恐る鱗で覆われた脚にしがみつくと、背中までよじ登る。龍はサニが背中で安定したのを確認して、音もなく高く飛び上がった。
 恐怖で思わず叫びそうになるが、必死でこらえた。
 そしてなるべく下を見ないように、目を瞑った。
 雨雲を抜け、しばらく乗っていると龍が急降下する気配を感じ取る。
 薄目を開いて確認すると、月明かりに照らされた見慣れたクレメントの景色が見えてくる。
 龍は翼を閉じ森の中に入る。龍はサニを抱えながら人の形に戻って、絶妙のタイミングで地面に着地した。
「なかなかうまかったじゃないか。龍の乗りこなし方を心得たのは、サニが人類初なんじゃないか?」
「もう、どんなことがあっても、二度と絶対に龍には乗りらないですからねっ……!」
 サニが抜けそうになる腰に手を当てながらぶるぶると震える声で抗議すると、はははとリエイムはおかしそうに笑った。

 その明るい笑い声を、久々に聞いた気がした。
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