軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第三章

社交場 1

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 グラニは最初こそ御者を嫌がっていたが、サニの顔を見るとおとなしくなった。
 他三頭の馬車馬に歩調を合わせて走り出す。
 ちゃんと車体を引けているようで、安心して中に入った。
 一日馬車を走らせると、夕方前には首都があるカダーランド領に到着した。

 城で一番大きいボールルームに案内されると、既に人がわんさか溢れていて、混雑した場所に慣れないサニはくらりとめまいがした。
 リエイムは白いシャツにベストを着込み、光沢のある生地で作られた黒いジャケットを着用している。
 領主公子の証である青い大綬を肩掛けし、胸元には勲章がきらりと栄えている。
 普段の軽装を見慣れているので貴族服は違和感があるかと思いきや、髪の毛一本単位まで調整された型に身を包んだ姿は堂々としていて、少しも違和感がない。
 リエイムが入場すると、会場中の視線が一斉に向けられた。
 色とりどりの扇子があちこちでばさばさ開き、第二公子へのアピールのために仰がれる。サニはすごい、と圧倒されてしまう。
 軍将も務める年頃の第二公子、更に容姿も端麗であるならば、さぞかし人気なのだろうとある程度の予想はしていたものの、実際は遙かに想定を上回っていた。
 社交場をあんなに嫌がっていたリエイムの気持ちもこれならば理解できる。
 毎回こんなあからさまな反応をされているのかと少し気の毒にさえ思えてくる。
 対してサニは見繕ってもらった薄紫色のジャケットを着用しているが、どうにも着せられた感が拭えない。
 気づけば親戚や娘を紹介したい貴族が自分たちの前に列をなしていた。
 同盟国家のクレメントでは貴族階級には割と寛容なのかと思っていたが、こうして集まってみればランクがきっちり敷かれているのだと見受けられる。位の高い公爵子女子息から列に並んでいるからだ。
 格差に対しオーフェルエイデ家がとりわけ寛大なだけだったのだろう。
 リエイムは以前披露した社交場でのお面を貼り付けてにこやかに対応している。
 その様子がおかしくて笑ってしまう。
 それからこの顔の中の本音を知るのは自分だけなのだと一瞬うぬぼれそうになり、すぐに自戒する。
 リエイムといると普段の何倍も思考が頭を駆け巡り、忙しい。
 サニは察してそっと離れると、壁際に寄った。
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