軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第三章

社交場 2

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 遠くから眺めると正装姿のリエイムは、煌びやかな色とりどりのドレスに囲まれているのに、誰よりも気高く咲き誇った売り時の花のようだ。
 この場にいる独身の全員が、公子夫人として横に並ぶのを夢見ているだろう。
 戦争が減ったことにより、リエイムは軍将としてよりも公子としての職務の割合が圧倒的に多くなっている。
 広大な大地を背にし、戦闘服を身に纏い気丈に笑う姿を見ることや、練ったオリザを一緒に食べることは、もう今の自分では叶わない。
 考え出すと悲しくなりそうだったので、平和になって良かったのだ、これをリエイム自身も望んでいたことだと無理矢理考えを停止させる。


 華やかな輪から視線を外してダンスホールで踊る人々をぼんやりと眺めていると、しばらくしてリエイムが戻ってきた。
「サニ、一人にしてすまなかったな」
「私のことはお気になさらずに。ほら、早くファーストダンスに誘わないと」
「そうだったな」
 リエイムはこちらから二歩引いて距離を取るものの、後ろを振り返りはしなかった。
 向き合ったままで左手を後ろに隠しながら右手を胸に当て、目の前で腰を折る。サニは目を見開いた。
「サニ殿。ファーストダンスをお願いできますか?」
「わ、私は踊れませんので……」
「俺もだよ。関係ないさ」
 笑顔で右手を差し出され、パロモに初めて乗せられた場面を思い出した。
 この手を、自分は断れない。
 恐る恐る握ると、ダンスフロアまでエスコートされる。
 前に立つと先ほどから見てもうすっかり覚えてしまったステップを音楽に合わせて踏んだ。
「すごいわね……どちらのご子息?」
「プロじゃないですか?」
「カダーランド公はこの日のためにダンサーまで雇ってるのかしら?」
 疑問と感嘆のささやきがあちこちからひそひそ聞こえる。
 簡単な足踏みの繰り返しなので驚くほどでもない。一曲見ただけで摸倣できる。聖舞の動きはもっと複雑で難解だ。 
「なんだ、踊れないどころか玄人じゃないか」
「見よう見まねです」
 規則的に近づいたり離れたりしながら、手が触れ合う。ダンスとはいえ、リエイムの肌に触れる一瞬一瞬に緊張した。
「綺麗だ」
 近づいたときに耳に顔を寄せられ、つぶやくような一言がささやかれる。まただ。
 初めての戦が始まって、振り返って言っていた表情が脳裏に蘇る。嫌だ、と思った。
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