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第一章
出会い・宿屋にて3
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腰を若干回し、ぐるりと店内を見渡すと各テーブルには料理の他に大体何かしらの酒がおいてあって、客たちは笑顔で話に興じている。
敵国セディシアの国境がすぐそこに位置しているにも関わらず、この街には戦争の魔の手は街には忍び寄っていないと感じられた。
同盟軍のおかげで平和が保たれている証拠だ。サニは固かった表情を少しだけ和らげた。
そのとき、不意に男がぶつかってきた。
男の身長が高かったので、腹あたりに額がこつんと当たる。
その反動で男が持っていたワイングラスがぐらりと傾き掛けた。
「っと……」
咄嗟にサニは、舞術で培われた抜群の反射神経でそれを素早く支える。
グラスの液体の揺れが収まるとさっと手を離し軽く会釈すると、ずれた椅子を直しカウンターに向き直った。
「あれ、おかしいな」
目の前で男が首をひねったので、サニも「え?」と聞き返す。
「俺の計算だと、ワインが俺のシャツにこぼれて『あっ汚しちゃいました!』『いいよいいよ、気にしないから。でもこれも何かの縁だし、一杯ご一緒させてくれないか?』って運命的な展開だったのに。その機敏さは、想像していなかった」
活気にあふれた、ハリのある声ではっきりと発音する。
抑揚があるので聞き取りやすいのだが、言っていることがなにしろおかしい。
つまり会話するきっかけを作るため意図的に仕組み、自分からぶつかってきたということだ。
なんだその、はやりの恋愛小説みたいな言い寄り方は。
しかも自らばらしてどうするというのか。
怪訝な表情になりながら、前髪の後ろで垂れていたほつれ毛を後ろに流して思い当たる。
今日の自分は腰まで届く髪を耳の下で緩くシニヨンにまとめ、外套をまとっている。
体型も成人男性と比べると大分華奢だ。もしかして女性と間違えているのではないか。
「あの、私は男ですが」
「ああ、知っている。それが何か問題があるのだろうか? 美しいに男も女もないはずだ」
クレメントは王権制ではなく、七州の領主が円卓を囲み政を執る珍しい制度の国で、他国と比べ自由な法律で知られる。
そういえば同性婚も認められていたな、とこのとき気づく。
そこで初めてサニは顔を上げ、男の頭頂部に目を向けた。
凜々しい眉毛の下の大きな二重の瞳は灰色で柔らかな印象だ。
短髪の黒髪は外側に向かって跳ねていて、見た目はしっかり男らしいのに茶目っ気のある笑顔はどこか少年っぽさが残る。
腰に剣を携えてはいるがかなり軽装だし、歳もまだ二十代半ばといったところだ。
放浪者ではないようだが大方そこら辺の三流騎士かと予想する。
敵国セディシアの国境がすぐそこに位置しているにも関わらず、この街には戦争の魔の手は街には忍び寄っていないと感じられた。
同盟軍のおかげで平和が保たれている証拠だ。サニは固かった表情を少しだけ和らげた。
そのとき、不意に男がぶつかってきた。
男の身長が高かったので、腹あたりに額がこつんと当たる。
その反動で男が持っていたワイングラスがぐらりと傾き掛けた。
「っと……」
咄嗟にサニは、舞術で培われた抜群の反射神経でそれを素早く支える。
グラスの液体の揺れが収まるとさっと手を離し軽く会釈すると、ずれた椅子を直しカウンターに向き直った。
「あれ、おかしいな」
目の前で男が首をひねったので、サニも「え?」と聞き返す。
「俺の計算だと、ワインが俺のシャツにこぼれて『あっ汚しちゃいました!』『いいよいいよ、気にしないから。でもこれも何かの縁だし、一杯ご一緒させてくれないか?』って運命的な展開だったのに。その機敏さは、想像していなかった」
活気にあふれた、ハリのある声ではっきりと発音する。
抑揚があるので聞き取りやすいのだが、言っていることがなにしろおかしい。
つまり会話するきっかけを作るため意図的に仕組み、自分からぶつかってきたということだ。
なんだその、はやりの恋愛小説みたいな言い寄り方は。
しかも自らばらしてどうするというのか。
怪訝な表情になりながら、前髪の後ろで垂れていたほつれ毛を後ろに流して思い当たる。
今日の自分は腰まで届く髪を耳の下で緩くシニヨンにまとめ、外套をまとっている。
体型も成人男性と比べると大分華奢だ。もしかして女性と間違えているのではないか。
「あの、私は男ですが」
「ああ、知っている。それが何か問題があるのだろうか? 美しいに男も女もないはずだ」
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そういえば同性婚も認められていたな、とこのとき気づく。
そこで初めてサニは顔を上げ、男の頭頂部に目を向けた。
凜々しい眉毛の下の大きな二重の瞳は灰色で柔らかな印象だ。
短髪の黒髪は外側に向かって跳ねていて、見た目はしっかり男らしいのに茶目っ気のある笑顔はどこか少年っぽさが残る。
腰に剣を携えてはいるがかなり軽装だし、歳もまだ二十代半ばといったところだ。
放浪者ではないようだが大方そこら辺の三流騎士かと予想する。
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