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第一章
出会い・宿屋にて4
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「申し遅れました、私はリエイムといいます。趣味は読書、好きな色はあなたの瞳のような水色。っというわけで一緒に飲みませんか?」
とはいえ容姿が整っていることに間違いはないので、普通の女性だったらまだ唐突な誘いにもおそらく嬉しがったかもしれない。
ただし自分は男。
そしてここへは遊びに来たわけじゃない。
面倒くさい酔っ払いに絡まれてしまったと目を細める。
立ち去ることも考えたが、既に料理を注文してしまっていた。
「お断りします。お酒は嗜みませんので」
拒絶オーラを存分に放つものの、男はへこたれることなく胸に手を当てながら腰を折った。
「では代わりにお茶だけでも」
にかっと歯列を奥歯まで見せる必殺スマイルを向けられ、サニはいよいよはばからず、眉間に皺を寄せる。
「結構です」
「ガード堅いなー」
男は参ったようにこめかみをぽりぽりと掻くものの、隣の椅子になおも腰掛けた。驚くべき図太さだ。そこへタイミング悪く料理が運ばれてきた。
両手を膝の上で合わせ目を瞑ると、感謝の祈りを捧げた。
そして様々な会話が飛び交う店内で男を視界に入れず、黙々と郷土料理の煮込みを食べ始める。
カウンターの中にいた中年の雇い人が気さくに話しかけてきた。
「おにいちゃん、ここら辺の人じゃないね。見ない顔だ。それに、エルデンスープも真っ白だし」
卓上に置かれた唐辛子の調味料をスプーン三杯ほどたっぷり溶かし、真っ赤にして食べるのが地元本来の食べ方だ。
「はい。クレメントには四年いますが、香辛料がまだ苦手で」
「どこから来たんだい?」
「スーラです」
「ああ、そうなのか。俺はこの街から出たことがないから、スーラ人を初めて見たよ」
需要と供給をほとんど自国でまかなっているため、スーラ人をスーラ国以外で見かけるのは確かにかなり珍しいことだと言えた。
しかし、クレメントも元々多民族が集まって建国した経緯があるので、さして好奇な視線を向けるでもなく男は納得して仕事に戻っていった。
「その美しい容姿に銀の髪、やっぱりご出身はスーラでしたか」
リエイムが横から抜かりなく、終わったはずの会話を引き継いだ。
しまった。
いらぬ情報を与えてしまったと後悔してももう遅い。
サニは「まあ」と曖昧に頷いた。
「では、モントペリエールを飲んだことは?」
「モントペリエール?」
「南部の山脈から湧き出る炭酸硬水にハーブシロップを加えた、この国名産の飲み物のことです。まだなら、是非飲んでみてくれ」
「あ、え、でも……」
「おやじ、モントペリエースひとつ」
断る隙を与えず、早速手を上げリエイムは注文した。目の前に現れた液体は、宝石のように濃い緑色をしていた。一口口に含むと、爽やかなハーブの香りと甘いシロップが口全体に広がると共に泡がシュワシュワとはじけていく。サニは炭酸水が喉を通る初めての感覚に目を白黒させながらも、ちゅるちゅると新しい感覚を味わった。
「美味しいだろう?」
「……はい」
「それはよかった」
リエイムが、今度は自然な表情でにっこりと笑った。もしかして、初めに予想したほどやっかいな人間ではないのかもしれない。サニは少しだけ防御を解く。
とはいえ容姿が整っていることに間違いはないので、普通の女性だったらまだ唐突な誘いにもおそらく嬉しがったかもしれない。
ただし自分は男。
そしてここへは遊びに来たわけじゃない。
面倒くさい酔っ払いに絡まれてしまったと目を細める。
立ち去ることも考えたが、既に料理を注文してしまっていた。
「お断りします。お酒は嗜みませんので」
拒絶オーラを存分に放つものの、男はへこたれることなく胸に手を当てながら腰を折った。
「では代わりにお茶だけでも」
にかっと歯列を奥歯まで見せる必殺スマイルを向けられ、サニはいよいよはばからず、眉間に皺を寄せる。
「結構です」
「ガード堅いなー」
男は参ったようにこめかみをぽりぽりと掻くものの、隣の椅子になおも腰掛けた。驚くべき図太さだ。そこへタイミング悪く料理が運ばれてきた。
両手を膝の上で合わせ目を瞑ると、感謝の祈りを捧げた。
そして様々な会話が飛び交う店内で男を視界に入れず、黙々と郷土料理の煮込みを食べ始める。
カウンターの中にいた中年の雇い人が気さくに話しかけてきた。
「おにいちゃん、ここら辺の人じゃないね。見ない顔だ。それに、エルデンスープも真っ白だし」
卓上に置かれた唐辛子の調味料をスプーン三杯ほどたっぷり溶かし、真っ赤にして食べるのが地元本来の食べ方だ。
「はい。クレメントには四年いますが、香辛料がまだ苦手で」
「どこから来たんだい?」
「スーラです」
「ああ、そうなのか。俺はこの街から出たことがないから、スーラ人を初めて見たよ」
需要と供給をほとんど自国でまかなっているため、スーラ人をスーラ国以外で見かけるのは確かにかなり珍しいことだと言えた。
しかし、クレメントも元々多民族が集まって建国した経緯があるので、さして好奇な視線を向けるでもなく男は納得して仕事に戻っていった。
「その美しい容姿に銀の髪、やっぱりご出身はスーラでしたか」
リエイムが横から抜かりなく、終わったはずの会話を引き継いだ。
しまった。
いらぬ情報を与えてしまったと後悔してももう遅い。
サニは「まあ」と曖昧に頷いた。
「では、モントペリエールを飲んだことは?」
「モントペリエール?」
「南部の山脈から湧き出る炭酸硬水にハーブシロップを加えた、この国名産の飲み物のことです。まだなら、是非飲んでみてくれ」
「あ、え、でも……」
「おやじ、モントペリエースひとつ」
断る隙を与えず、早速手を上げリエイムは注文した。目の前に現れた液体は、宝石のように濃い緑色をしていた。一口口に含むと、爽やかなハーブの香りと甘いシロップが口全体に広がると共に泡がシュワシュワとはじけていく。サニは炭酸水が喉を通る初めての感覚に目を白黒させながらも、ちゅるちゅると新しい感覚を味わった。
「美味しいだろう?」
「……はい」
「それはよかった」
リエイムが、今度は自然な表情でにっこりと笑った。もしかして、初めに予想したほどやっかいな人間ではないのかもしれない。サニは少しだけ防御を解く。
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