軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第一章

勝利後の帰路 4

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 戦でも暗くなった平原でも、リエイムは常に軍の前を率先して歩いた。
 なぜ軍将なのに後方に行かないのかと訪ねると「適材適所に人を配置しているだけだ。俺は暗闇で人より目が効くからな」と茶目っ気たっぷりに笑う。
 作戦会議ではあんなに部将然としていたのに、貫禄を消したり見せたり、かと思えば思いっきりひょうきんに振る舞ってみせたりする。
 ひとつひとつの精巧なかけらが集まって精密で大きな幾何学模様になる、ステンドガラスのようだ。
 石造りの要塞が見えてきたころ、寝静まった城下町を通り城に入ったのは夜中だった。
 サニは、二階の階段を上った左奥にある広いゲストルームを用意された。
 天井まで届く大きな窓の周りには円形の絨毯が敷かれちょっとした空間がある。
 舞いをするのにちょうどいい広さだった。その脇には水が貯められた桶と目隠し用に衝立まで用意してある。
 夜の儀式を事前に見ていたかのような細やかさだ。

 もしかしてリエイムは、自分の為にこの部屋を選んでくれたのかもしれないと考えながら、服を脱いで念入りに身を清めた。

 身体に付着していた砂を丁寧に落としながら、戦いが始まった時「綺麗だ」と言われたことをふいに思い出した。
 
 あの時彼は、既に勝利を確信していたのだ。
 馬の前に乗っているときは、口を開けば冗談か本当かわからない軽口をたたくばかりだったのに、抜かりなくこちらの要求を満たしてくれる。
 一緒にいればいるほど不思議な男だった。

 サニは邪念を振り払い絨毯の上に立つ。
 身体は疲れていたが、無事戦地から戻ってこれたことに感謝して、いつもより時間を掛けて夜の祈りを捧げた。
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