軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第一章

雨の中の野営 4

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「俺は友人の無実を訴え、必死で許しを乞うた。一週間経ってようやく牢から出てくると、友人の家族は俺と父上に向かって平伏し謝ったんだ。息子がすみませんでしたと。何から何まで俺が悪いのに、挙げ句の果てに友人本人にまで恥をかかせてしまった。俺は、友人に心底申し訳ない気持ちになった。それで気づいたんだ。自分の行動には、大きな責任が伴っているのだと。それから真面目に勉強するようになって、ちゃんと公子として振る舞うようになったな」
 小さな少年の苦悩にサニは思いを馳せた。村人たちと軽口を言い合うさまや、いつも軽装で平民と変わらないような姿。その奥でリエイムは一人、公子として大きな責任を背負っているのだ。
「私の家族は」
 なんとも言えない気持ちになって、サニは迷いながらも口を開く。
「両親と五つ離れた妹のいる四人家族なんですが、母も父もとても寡黙で、オーフェルエイデ家のように会話にあふれた家庭ではなかったです」
「おふたりの仲は、悪いわけではなかったのだろう?」
「良くも悪くもなかったというか、希薄ですね。強いて言うなら父も母も、信仰心という共通点を持つ同志といった関係でした。向き合ってお互いを見るのではなく、横向きに並び神の方を向いているような」
 初めて自分の家族のことを、詳しく人に話した。個人的な身の上話をするのは普通なら恥ずかしいと思っただろうが、今リエイムにどうしても聞いてほしかった。
「愛の形は、千人いれば千通りあってしかるべきさ」
「両親が悪いとは思いません。ただ、初めてオーフェルエイデのみなさんとお会いしたとき、家庭が違えば会話も雰囲気もこんなにも違うのかと驚きました」
「うちはみんな、おしゃべり好きだからなあ」
「リエイムが最初、両親に九年も会えないことを寂しくないかと聞いてきたとき、私は寂しくないと答えましたよね」
「ああ、覚えているよ」
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