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第二章
蚤の市 5
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服は寒さや暑さをしのぐもの、食事は腹を満たすべき行為。
なるべく節制を心がけ、生きるために必要なことだけを最低限を選んできた。
舞術の才を認められ、晴れて聖舞院に入学できたときは両親も喜んでくれ、誇らしい気持ちだった。
努力の甲斐あったのだと思った。
それからも神に対する信仰心は変わらず、熱心に舞術の習得にいそしんだ後、院をその年の主席で卒業できた。
聖舞師として神に仕えることはすなわち、自分にとって生きる意味だった。それだけで、満足だったはずなのに。
かんざしが欲しいという欲求は生活に何ら関わりなく、紛れもないひとりよがりな欲望だ。
今まで一度も、物欲など持ったことがなかったはずのに、自分はどうしてしまったのだろう。
時間も忘れ無心で踊っていると、気づけば窓の外は赤く染まっていて、蚤の市が終わっていた。外から戸を叩く音ではっと我に返る。
「サニ……。体調はどうだ?」
リエイムの声は心配そうだった。
「まだ戻らなくて。夕食は取らず、このまま寝ます」
声のする方に近づいたものの、扉を開けず、中から答えた。
「……そうか。回復するまでゆっくり寝るといい。夕食を置いておく。何かあったら教えてくれ」
そっと耳を押し当て、足音が去ったのを聞き届けると、サニは指数本だけ扉を薄く開いた。
足下には盆の他に、おすすめらしい恋愛小説数冊と昼に見たかんざしが手紙と共に置いてあった。
取り上げて二つ折りの中を開くと『プレゼントならば、問題ないだろう?』と右上がりの癖のある筆跡で書かれていた。
とんちを利かせただろう、とでも言いたげな、してやったりのリエイムの顔が浮かんでまた胸が苦しくなる。
心がきりきりと痛むのに、綺麗な青いかんざしを見ていると同時になぜか心臓の奥が暖かくなる。
この不可解な感情をどうにかして押さえたかった。
「……こんなものがあるからっ……!」
忌まわしい私欲の塊を、何度も捨てようと試みるが、結局できなかった。
かんざしを、そっと机の引き出しに入れる。
「父よ、罪深い私をどうかお許しください」
サニは静かに祈りを続けた。
夜が更けても胸の痛みは治まらなかった。
なるべく節制を心がけ、生きるために必要なことだけを最低限を選んできた。
舞術の才を認められ、晴れて聖舞院に入学できたときは両親も喜んでくれ、誇らしい気持ちだった。
努力の甲斐あったのだと思った。
それからも神に対する信仰心は変わらず、熱心に舞術の習得にいそしんだ後、院をその年の主席で卒業できた。
聖舞師として神に仕えることはすなわち、自分にとって生きる意味だった。それだけで、満足だったはずなのに。
かんざしが欲しいという欲求は生活に何ら関わりなく、紛れもないひとりよがりな欲望だ。
今まで一度も、物欲など持ったことがなかったはずのに、自分はどうしてしまったのだろう。
時間も忘れ無心で踊っていると、気づけば窓の外は赤く染まっていて、蚤の市が終わっていた。外から戸を叩く音ではっと我に返る。
「サニ……。体調はどうだ?」
リエイムの声は心配そうだった。
「まだ戻らなくて。夕食は取らず、このまま寝ます」
声のする方に近づいたものの、扉を開けず、中から答えた。
「……そうか。回復するまでゆっくり寝るといい。夕食を置いておく。何かあったら教えてくれ」
そっと耳を押し当て、足音が去ったのを聞き届けると、サニは指数本だけ扉を薄く開いた。
足下には盆の他に、おすすめらしい恋愛小説数冊と昼に見たかんざしが手紙と共に置いてあった。
取り上げて二つ折りの中を開くと『プレゼントならば、問題ないだろう?』と右上がりの癖のある筆跡で書かれていた。
とんちを利かせただろう、とでも言いたげな、してやったりのリエイムの顔が浮かんでまた胸が苦しくなる。
心がきりきりと痛むのに、綺麗な青いかんざしを見ていると同時になぜか心臓の奥が暖かくなる。
この不可解な感情をどうにかして押さえたかった。
「……こんなものがあるからっ……!」
忌まわしい私欲の塊を、何度も捨てようと試みるが、結局できなかった。
かんざしを、そっと机の引き出しに入れる。
「父よ、罪深い私をどうかお許しください」
サニは静かに祈りを続けた。
夜が更けても胸の痛みは治まらなかった。
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