軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

文字の大きさ
70 / 104
第二章

真珠の使い道 5

しおりを挟む
「赤い龍と女の伝説をただ消すだけでは味気ないと思ってな。代わりに白紙のページを埋める感動的な話を思いついたのだ。題名は、『軍将と青い魔法使い』という」
 サニは三ページに渡りびっしり書かれた、癖のある字を読む。
 ある一国の軍将が、通りがかった青い瞳の魔法使いに戦を助けられる。
 その魔法があまりに強く、美しかったので魅了された軍将は契約を申し出た。
 魔法使いはしぶしぶながらも申し出を承諾する。二人は戦を勝ち抜く中で距離を縮めていく。
 軍将は真面目で芯の通った魔法使いに、魔法使いは強く優しい軍将にやがて恋をする。
 そこには、自分たちの話が書かれていた。
「これ、……リエイムが考えたのですか?」
 移動に費やした二日間だったが、合間で何かを熱心に書きためているとは思っていた。
「どうだ、なかなか素敵な話だろう? 恋愛小説好きが、こんなところで役立つとはな」
「強く優しい軍将って」
「登場人物には魅力が必要だろう? 不満は今だけ受け付けるが」
「いいえ、合ってますよ」
「同意されるとそれはそれで恥ずかしいのだが」
「最後はどうなるのです?」
「もちろん、最強の二人は国を平和にして、結ばれるさ」
「とてもいいお話ですね」
 サニは素直に笑った。
 赤い龍の伝説に代わり、ドラマティックな展開もない平凡な二人の話が、今後語り継がれると思うと視界が少し曇った。
 リエイムについての記憶が自分の中から消されてしまえば、付随する全てのことも一緒に消えてしまうのだろうか。
 オーフェルエイデの家族と笑い合った食卓は、二人で見た湖の景色は、勧められた恋愛小説のストーリーは、覚えているのだろうか。
「記憶が消えて、もう一度会ったら……モントペリエールを、また勧めてくれますか」
「当たり前だろう。サニの一番好きな飲み物だからな」
「そしたら、えくぼを作って大きく笑ってくださいよ。初めにすると、うさんくさいと私は思うので、きっと嫌な顔をするでしょう」
「ひどいな、あの時そんなことを思っていたのか?」
「でも、そのうち段々魅力的に感じてくるはずです。何度もめげずにやってください。会話では、あなた自身の話も忘れずに聞かせてください。そうすればそのうち、あなたの表情で私が一番好きな顔になるはずです」
「なるほど。予行演習でやっておよう。こうか?」
 鼻が触れあいそうに近い距離で、リエイムは笑ってみせる。

 神々しくて力強い、太陽のような笑顔。
 この顔に、自分は幾度救われてきただろうか。
 走馬灯のように、リエイムと過ごした日々や様々な場面がサニの脳裏をよぎっていった。
 サニは涙を流しながらも、強い引力にひかれるようにつられて笑顔になってしまう。

 そして、一つ大きな決断を心の中でした。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

処理中です...