軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第三章

二年後 3

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 こらえていたものが急に堰を切ってあふれ出た。サニは慌てて下を向き、涙を拭った。
 バーに居合わせただけの男が急に隣で泣き出したとなれば当然びっくりするだろう。案の定リエイムは驚いた表情を見せ、どう声を掛けたらいいものか困っている。
「えっと……どうかされましたか? 俺が何か不快な思いをさせてしまっただろうか?」
「すみません、そうではなくて……。飲み物がとても美味しかったので。教えていただきありがとうございました」
 羞恥と混乱と焦燥で、サニは今にも倒れそうだった。ぐるぐるとめまいが襲ってくる。これ以上話していたら気が持たない。
 代金を置いて立ち上がろうとすると、呼び止められる。
「あ、せめて名前を……」
 会釈をひとつ返し、そそくさとバーを後にした。
 会えてうれしい、びっくりした、元気そうで良かった。
 様々な感情が渦巻きながら、部屋に駆け戻った。
 しばらく一人で興奮していたのだが、少し経つと自分のやってしまったことをひどく後悔しはじめた。
 改めて考えてみれば相手からしたら自分は初対面。なのに数回会話しただけでいきなりぼろぼろ泣き出すなんて、不審者以外の何者でもなかった。
 きっと印象は最悪だったことだろう。
 普段は会う機会のないリエイムに、せっかく再会できたのに。
 以前告白されたとき、リエイムはサニを一目惚れだと言っていた。
 それが本当なら、今日自分は大失態をやらかしてしまったことになる。
 一目惚れしてくれるせっかくの機会を、突然の号泣で逃してしまったのだ。
 リエイムは最後、記憶のなくした自分をまた惚れさせるために、どういう計画があったのだろう。
 あの日に戻って聞いてみたい。
 そこまで考えてから、己の考えがとんでもなくおごっていることにも気づいた。
 リエイムに会うついさっき前まで、この状態に不足ないと思っていたくせに、愚かだ。
 それにもし第一印象が良かったとして、すんなり惚れてくれるとでも思っているのか?
 そう思ってから深く落ち込んだ。
 もう考えるのはやめようとサニは立ち上がる。
 夜の祈りを終えるとベッドに入る前、何百回も開いた本の一ページをまためくった。
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