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第三章
公子の職務 2
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「なぜですか?」
「なぜだって?『おお、良いところに。紹介しましょう、こっちは私の弟で第二公子のリエイムです』『まあ、以前晩餐会でお会いしたことがございましてよ』『おお、それはなにより。ではお二人で改めて話しでも』って展開になるに決まってる」
急に始まった迫真の一人芝居にくすっと笑ってしまう。リエイムは反対にむっと口を尖らせている。
「笑い事じゃないぞ? あちらは満を持して社交界デビューした公女をどこに嫁がせるかぎんぎんに目を見開いて厳選中なのだから。ああ恐ろしい」
両腕を抱きしめるようにして大げさにさすってみせる。
「それでオーフェルエイデ領第二公子様に、白羽の矢が当たりそうなのですね」
「勘弁してほしい。俺はまだ自由の身でいたいのだ。という理由で今日の夕食会はパスさせてもらう」
「でも、オーフェルエイデ公はご子息の望まぬ婚約はさせなさそうなお方……にお見受けしますが。正直な心情を打ち明けたらどうですか?」
「父上ではない、問題は兄上だ。ああ見えて策士なんだよ。じゃなけりゃ金の計算など趣味にならない」
平和になったことで、人々は戦争以外に向ける心の余裕が出てくる。オーフェルエイデ家では第二公子の結婚相手引き合わせに着目している真っ只中のようだった。今年で二十二歳ともなれば、当然婚姻の話も上がって当然だろう。いいことのはずなのに、気持ちは浮かばれなかった。
「そういう君は、どうなのだ?」
「私、ですか?」
「見たところ、俺の歳ほどだろう。お相手はいないのか? それとも、もう結婚しているとか」
「いいえ、私は、今年二十三になりますが独り身です。……一生愛し抜くと誓い、心を捧げた人がいますので」
リエイムはパロモの毛並みを整えていた手を止め、つかの間硬直した。
「なんですか」
「いや、情熱的な言葉がするりと出たから、驚いて。サニは淡々としているというか、冷静に見えるから」
「人を好きになどならないと?」
「そこまでは思わないが、身を焦がすような恋をしている姿は想像できないな」
サニは曖昧に笑う。自分だって、かつてはそう思っていた。
「なぜ添い遂げないのだ?」
「……事情がありましたので」
「報われぬ恋か。一途なのだな。サニに愛される人は、幸せ者だ」
心臓が、ぎしぎしと音を立てて痛んだ。
今、自分たちに起きた過去を全部を洗いざらい話せたらどんなに楽かと思う。
一生を捧げたのは、お慕いしているのはあなたなのです、と。でも絶対に話してはいけない。
「なぜだって?『おお、良いところに。紹介しましょう、こっちは私の弟で第二公子のリエイムです』『まあ、以前晩餐会でお会いしたことがございましてよ』『おお、それはなにより。ではお二人で改めて話しでも』って展開になるに決まってる」
急に始まった迫真の一人芝居にくすっと笑ってしまう。リエイムは反対にむっと口を尖らせている。
「笑い事じゃないぞ? あちらは満を持して社交界デビューした公女をどこに嫁がせるかぎんぎんに目を見開いて厳選中なのだから。ああ恐ろしい」
両腕を抱きしめるようにして大げさにさすってみせる。
「それでオーフェルエイデ領第二公子様に、白羽の矢が当たりそうなのですね」
「勘弁してほしい。俺はまだ自由の身でいたいのだ。という理由で今日の夕食会はパスさせてもらう」
「でも、オーフェルエイデ公はご子息の望まぬ婚約はさせなさそうなお方……にお見受けしますが。正直な心情を打ち明けたらどうですか?」
「父上ではない、問題は兄上だ。ああ見えて策士なんだよ。じゃなけりゃ金の計算など趣味にならない」
平和になったことで、人々は戦争以外に向ける心の余裕が出てくる。オーフェルエイデ家では第二公子の結婚相手引き合わせに着目している真っ只中のようだった。今年で二十二歳ともなれば、当然婚姻の話も上がって当然だろう。いいことのはずなのに、気持ちは浮かばれなかった。
「そういう君は、どうなのだ?」
「私、ですか?」
「見たところ、俺の歳ほどだろう。お相手はいないのか? それとも、もう結婚しているとか」
「いいえ、私は、今年二十三になりますが独り身です。……一生愛し抜くと誓い、心を捧げた人がいますので」
リエイムはパロモの毛並みを整えていた手を止め、つかの間硬直した。
「なんですか」
「いや、情熱的な言葉がするりと出たから、驚いて。サニは淡々としているというか、冷静に見えるから」
「人を好きになどならないと?」
「そこまでは思わないが、身を焦がすような恋をしている姿は想像できないな」
サニは曖昧に笑う。自分だって、かつてはそう思っていた。
「なぜ添い遂げないのだ?」
「……事情がありましたので」
「報われぬ恋か。一途なのだな。サニに愛される人は、幸せ者だ」
心臓が、ぎしぎしと音を立てて痛んだ。
今、自分たちに起きた過去を全部を洗いざらい話せたらどんなに楽かと思う。
一生を捧げたのは、お慕いしているのはあなたなのです、と。でも絶対に話してはいけない。
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