軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ

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第三章

落ちたかんざし 3

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 ぎゅっと心臓が絞られた。記憶を消されても、自分が好きだったリエイムの良いところは少しも損なわれていない。サニがありのままでいることを、いつも許してくれる。
 二巡目をたどるのは自分だけという事実が突き刺さる。
 しかしつらい、という思いをすぐに打ち消した。
 リエイムがなるべく龍にならない状況を作ることを最優先させるべきだ。

「あっ」

 結び目が緩んでいたのか、からんと軽い音を立てかんざしが落ち、髪がほどけた。
 気づいたサニはすぐさまグラニから下りる。かんざしはガラス製の繊細な造りなので耐久性に弱い。
 拾い上げ、どこにも欠けがないか綿密に確認する。
「よかった……割れていない」
「サニは会ったときから、ずっとそのかんざしを挿しているな」
「はい。頂き物で」
「大切な人からの?」
「はい」
 青く光るかんざしを胸に押し当て答えた。
「サニに、とても似合っているよ」
 リエイムは少し口を尖らせながら、声を低くして言った。
 なぜかその語感が不服のように感じてしまって、隙あらばうぬぼれたがる思考を諫めた。
 自分に対して嫉妬しているなど、そんなわけない。
 サニは話題を変えようと、声を少し高くする。
「カダーランドの公女様は、とても可愛らしいお方でしたね」
 とたんに大げさなまでに鼻の根元に皺を寄せられる。
「ああ。女性というより、子どもの可愛らしさでな」
「性格は、どんなお方なのですか?」
「典型的な名家の箱入り娘ってかんじだな。まあ、こんな風に二人で馬に乗って散歩などは一生できなさそうだな」
「でも、お似合いに見えましたよ。リエイム様には、それくらいしおらしい方が良いのではないですか」
 なるべく城から出なさそうな、おしとやかな人を好きになって結婚してくれた方が、伴侶が危険な目にさらされて感情が揺れるという確率も減る。
 兵と恋仲になって戦場で龍に変身してしまうより、よっぽど安全な選択だ。
 そしてリエイムを自分に惚れさせるよりも、よっぽど現実的でもある。
 そう思うが、正直な心は痛む。
「見合い結婚から人を好きになれる気がしないんだ」
「でも『皇太子の説得』は、政略結婚が始まりですが、ちゃんと最後には本物の愛に変わるじゃないですか」
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