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感情のない少女
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私は16年間何の「感情」も持たずに生きてきた。
私には周囲の人々の一挙一動に喜怒哀楽を写す鏡は無く、毎日が平和でただ真っ白な世界を生きてきた。
人々はなぜ争いを始めるのだろうか。私には理解できないが恐らく「感情」と言うものが関係しているのだろう。
私は毎日朝起きて、学校へ行き、そして家へ帰って寝るという規則正しい生活を送っている。
そして学校に行くと、毎日のように数人の男女に囲まれて顔や腹を何度も殴られ、私が倒れるまで繰り返される。
それでも私はどんなに殴られようと何事もなかったように席に着く。それが彼らの癪に障るようでいじめは何度も繰り返される。
私の体はいつも青アザだらけであるが、何のためにこのような破壊的行為が繰り返されるのか理解できない。
そして、私はいつも一人ぼっちで教室の片隅に置かれた席で一日を過ごす。
ある日、私が学校でいじめにあっている時だった。
「お前ら、いい加減にしろ...」
後ろから大きな声が教室に響いた。同じクラスの男子が止めに入った。彼はハルという名前で身長175cm、成績はクラスで10番目の男子という情報は認識している。
しかし彼には為す術もなく、止めに入ったハルも一緒に殴られるはめになった。
その後もしばらく彼への暴力は続いていたがチャイムがなると私は黙って席に戻った。
ハルは暫くそこにうずくまって泣いている。
気がつけばこんなことが何日も続くようになったが、私には解らないことがある。
──なぜハルはいつも泣いているのだろう
そして歳月は流水のように過ぎ、高校3年の冬になる。
私とハルが何時ものようにいじめられていると、ある感覚が私のなかに芽生えていることに気づいた。
ハルは私にとって何かとても大切なことを伝えようとしている気がした。
でも私にはそれが何なのか解らない。
──「感情」とはなに
それから私は「感情」について考えるようになった。毎日毎日考え続けたけれど結局答えを見つけ出すことは出来ない。
それでも人には幾つかの感情が心の中を支配するということは理解できるようになった。
ハルの流している涙は「悲しみ」という感情が心の中に満たされている時、そう悟った。
そして、日々繰り返し感じている「悲しみ」よりも遥かに大きな感情がハルの心の中を支配している。
──
卒業を控え、薄紅梅に冴返るある朝、何の前ぶれもなくハルが学校を辞めることを知った。
何故なのか解らないが、私は居ても経ってもいられなくなっていて、気が付いたら教室を出てハルの後ろ姿を追い掛けていた。
私は周りの景色が見えなくなるくらい夢中で走った。何かが私の心の中を支配していくことが僅かな鼓動の変化から伝わってくる。
そして、それはハルが私に伝えようとしていることと同じことなのではないのだろうか。そう私の心が思った。
弱々しい陽光を浴びながら、校舎の屋上にポツンとハルは立っていた。
私は急いで彼の目の前に駆け寄り、心の中に満たされている「感情」をそのまま伝えようとすると、すかさず彼の言葉が遮った。
「君を、想う」
二人の間にはかすかな息遣いを残して、空白の時が流れている。
私の目蓋から一筋の光が流れ落ちた。
空っぽの空からは、透き通った冬の光が彼の顔を優しく照らしている。
そして、私の心の中は急に波立ち始め、彼と同じ「感情」で満たされていくのが解った。
それと同時に、止めどなく溢れる涙を抑えきれず、ただ泣いた。
私はハルに「なぜ、悲しいのか」と聞きたかったが、言葉が喉に詰まる。
──それが「想う」という感情だよ
私には周囲の人々の一挙一動に喜怒哀楽を写す鏡は無く、毎日が平和でただ真っ白な世界を生きてきた。
人々はなぜ争いを始めるのだろうか。私には理解できないが恐らく「感情」と言うものが関係しているのだろう。
私は毎日朝起きて、学校へ行き、そして家へ帰って寝るという規則正しい生活を送っている。
そして学校に行くと、毎日のように数人の男女に囲まれて顔や腹を何度も殴られ、私が倒れるまで繰り返される。
それでも私はどんなに殴られようと何事もなかったように席に着く。それが彼らの癪に障るようでいじめは何度も繰り返される。
私の体はいつも青アザだらけであるが、何のためにこのような破壊的行為が繰り返されるのか理解できない。
そして、私はいつも一人ぼっちで教室の片隅に置かれた席で一日を過ごす。
ある日、私が学校でいじめにあっている時だった。
「お前ら、いい加減にしろ...」
後ろから大きな声が教室に響いた。同じクラスの男子が止めに入った。彼はハルという名前で身長175cm、成績はクラスで10番目の男子という情報は認識している。
しかし彼には為す術もなく、止めに入ったハルも一緒に殴られるはめになった。
その後もしばらく彼への暴力は続いていたがチャイムがなると私は黙って席に戻った。
ハルは暫くそこにうずくまって泣いている。
気がつけばこんなことが何日も続くようになったが、私には解らないことがある。
──なぜハルはいつも泣いているのだろう
そして歳月は流水のように過ぎ、高校3年の冬になる。
私とハルが何時ものようにいじめられていると、ある感覚が私のなかに芽生えていることに気づいた。
ハルは私にとって何かとても大切なことを伝えようとしている気がした。
でも私にはそれが何なのか解らない。
──「感情」とはなに
それから私は「感情」について考えるようになった。毎日毎日考え続けたけれど結局答えを見つけ出すことは出来ない。
それでも人には幾つかの感情が心の中を支配するということは理解できるようになった。
ハルの流している涙は「悲しみ」という感情が心の中に満たされている時、そう悟った。
そして、日々繰り返し感じている「悲しみ」よりも遥かに大きな感情がハルの心の中を支配している。
──
卒業を控え、薄紅梅に冴返るある朝、何の前ぶれもなくハルが学校を辞めることを知った。
何故なのか解らないが、私は居ても経ってもいられなくなっていて、気が付いたら教室を出てハルの後ろ姿を追い掛けていた。
私は周りの景色が見えなくなるくらい夢中で走った。何かが私の心の中を支配していくことが僅かな鼓動の変化から伝わってくる。
そして、それはハルが私に伝えようとしていることと同じことなのではないのだろうか。そう私の心が思った。
弱々しい陽光を浴びながら、校舎の屋上にポツンとハルは立っていた。
私は急いで彼の目の前に駆け寄り、心の中に満たされている「感情」をそのまま伝えようとすると、すかさず彼の言葉が遮った。
「君を、想う」
二人の間にはかすかな息遣いを残して、空白の時が流れている。
私の目蓋から一筋の光が流れ落ちた。
空っぽの空からは、透き通った冬の光が彼の顔を優しく照らしている。
そして、私の心の中は急に波立ち始め、彼と同じ「感情」で満たされていくのが解った。
それと同時に、止めどなく溢れる涙を抑えきれず、ただ泣いた。
私はハルに「なぜ、悲しいのか」と聞きたかったが、言葉が喉に詰まる。
──それが「想う」という感情だよ
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