異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第十話

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 ハールトーク軍がクレスタの街に進行して来ても反撃が無いどころか門まで開いて街のトップたる執政官が出迎えた。
 
 
 ハールトーク伯爵の支配下におかれる事に不満があるかと思えば税金が安くなると喜ばれたらしい。僕達の仕事もここまで、かと思われたが街の警備の依頼が舞い込んできた。
 
 「予想はしてましたけどね。 僕は帰りたいと思ってます」
 
 「何でだよ。警備なんて楽な仕事じゃないか」
 
 「一ヶ月を待たずにクレスタの街を取り返しにきます。ここの領主であるフゲン侯爵を差し置いて国家騎士団が来てましたからね。ハールトーク領を攻めるのはハルモニア王国の意志だったと思いますが、フゲン侯爵が王国に貸しを作るために早めに攻めて来ますよ」
 
 「フゲン侯爵の戦力はどのくらいになるんです~?」
 
 「最大で千は行くでしょう。ハールトーク伯爵は「クレスタを取る事が出来る」という事実を残して撤退してくれたらいいんですけど」
 
 「ハールトーク伯爵からの援軍は来ないッスか?」
 
 「来ても百がいいところですね。ハールトーク領は軍事には遅れてますから」
 
 「ハールトーク伯爵のケイベック王国から増援はないであるか?」
 
 「今回の戦いはハールトーク伯爵の一存で始めましたからね。ハールトーク領が攻められない限り王国軍はでないでしょう」
 
 「……」
 
 クリスティンさんも意見を言った中でソフィアさんだけが沈黙をしていた。
 
 「ソフィアさんも何かありますか?」
 
 「出来ればこのままでいたいのですが……」
 
 このままヤりたいだって!?    聞き違いか!?    最近、ソフィアさんが夢にも出てくる。白百合団が夢に出る事は度々あるが、何もせず「ニヒヒッ」と笑う顔で目が覚める。
 
 ソフィアさんも、ここまで悪い方に話が進んでいるのに、何に拘っているのだろう。ドレスなら間に合うのに。
 
 「あの~  変な話をしてもいいですか?」
 
 「どうぞ、ソフィアさん」
 
 「今まで私はみんなの後ろに付いて行くだけだったんですけど、今回はこのクレスタの街を取った自負があるんです。クレスタの街を取ったというか国家騎士団を倒して取れたって感じなんだけど……   だからこの街を簡単に明け渡したくないんです」
 
 ソフィアさんにしては強い意思を感じた。いつもみんなの後ろにいる事に負い目を感じていたのかな。僕なんか一番後ろの馬車の中で安全にしているけどね。
 
 そこまで言われると「帰ろう」とは言いにくい。だけど「戦おう」とも言いにくいよ。この間にやれる事と言えば……

 「やっちまおう! たかが千人ぐらいじゃねぇか! 皆殺しにすれば零だ!」
 
 スゴイ理論を言ってのける、その前向きな姿勢は見習いたいくらいですよ、プリシラさん。前向きというか……   良く今まで生きて来れましたね。
 
 
 「やりましょうか……」
 
 誰かと違って考えなく言ってる訳じゃないよ。もちろんソフィアさんの気持ちに答えたい事もあるけど、上手く行けばなんとかなるかなって。
 
 「おお!   引きこもり!   早い決断じゃねえか!」
 
 誰が引きこもりですか!  確かに馬車に乗っているだけかもしれませんが、僕は大事な兵站を担っているのですよ!
 
 誰が食料を準備するのですか?!   誰が作戦の立案をするんですか?!   誰が……   もう、いいです。コイツイツカオカス。
 
 「みなさんはどうでしょう。援軍の期待は出来ませんが考えはあります」
 
 「ソフィア姉さんの戦功を無駄にしたくないッス」
 
 アラナはいつも真っ直ぐだね。
 
 「千人死ねば、千人のゾンビを作るのである」
 
 「BC錬金術で軽くひねるのです~」
 
 二人は喋るな。
 
 「……」 
 
 クリスティンさんは喋って。
 
 「やっちまおうぜ、ミカエル」
 
 あっ、名前で呼ばれた。今日はプリシラさんの番だったか。 朝までは辛いなぁ。
 
 
 
 僕達、白百合団はこのクレスタの街で空いてる家を借りて住む事になった。 宿屋に連泊は経費がかかるので男爵の計らいで家を回してもらえた。 兵舎だとプライバシーがなくなるからね。 あくまでもプライバシーね。
 
 「アラナ、フゲン侯爵が軍を用意するとすればクレスタの隣の領都となるハーデンバーになります。そこまで行って情報を集めて下さい。特に補給に関して出来るだけ。ルフィナに作ってもらったゾンビ鳥を持って行って下さい、連絡はそれで。それとこちらの王国では亜人は奴隷扱いが多いので気を付けて下さい」
 
 「もし奴隷になりそうならどうすればいいッスか?」
 
 「助けに行ける距離ではないので、実力で敵を排除して下さい」
 
 「殺してもいいッスか?」
 
 「構いません。危なくなったら必ず逃げるように」
 
 「派手に行くのは好きだぜ。男爵は何て言ってるんだ?」
 
 「あの方は無能とは言いませんが有能まではいかないようで、守っていればいいと思ってます。フゲン侯爵が攻めて来ないと思ってるくらいですから」
 
 「なんて考えてるんだい?」
 
 「ハルモニア王国が出でくると思ってます。間違ってはいませんが、フゲン侯爵の方が先にくるでしょう、ハルモニアの国家騎士団より先に」
 
 「怖いねぇ~」
 
 何について怖いと言ったのか。これから上官になる男爵か。ハルモニアの国家騎士団か。ソフィアさんか……
 
 「ルフィナ、街の墓場に好きなだけ行って構わないですよ」

 「クククッ。好きなだけ行っていいのである」
 
 「好きなだけです」
 
 「了解である。クククッ」
 
 普通の笑顔は可愛いんだけどね。ネクロマンサーってみんな、こんな感じなのかな?    ゾンビを作るのが趣味みたいだけど、女の子らしく編み物を趣味にすればいいのに。
 
 「オリエッタ、頼んでおいた物をそろそろ欲しいのですが」
 
 「まだまだ時間がかかりますぅ~。もう少しと思いますぅ~」
 
 「どっちですか?    次の輪番までに完成させて下さい。出来なければ輪番飛ばします」
 
 「えぇぇぇぇ!  今からすぐに作ります~」
 
 よほど、輪番を飛ばされるの嫌だったのか、言い終わるとすぐに部屋を出て行った。これがプリシラさんなら、頼み事より輪番が優先されるのだろうね。
 
 「プリシラさんとクリスティンさんは街の警備をお願いします。男爵からの依頼ですしね」
 
 「あたいも「殺してもいいッスか?」」
 
 「ダメに決まってるでしょ。殺してもいいのは敵だけです」
 
 「……」
 
 クリスティンさんの無言は了承と取ってもいいのだろうか?    目線を離さない割には、何も言わない。そうなると目線を外すか、何か言わせてみたい気分になる。
 
 「ソフィアさん、これから服を見に行きましょう。途中で買い物もしたいですしね」
 
 「服はまだ出来てないと思いますが……」
 
 「出来てなかったら急いでもらいましょう。 買い物も行商人など違う街からの来た人から話を聞く様に買い物をして下さい」
 
 「わかりました……」
 
 ちょっと残念そうにしてるけど仕方 がない。クレスタの街に「いつ」、「誰が」攻めて来るか調べておかないと。
 
 ソフィアさんの採寸は滞り有り終わらず、店主が血祭りになってるを僕は慌てて止める一幕もあった。ソフィアさん曰く、触ったとか触らないとかの話で、後の僕の苦労を全く考慮に入れてない。
 
 僕は傭兵として必要も無い高価な櫛をソフィアさんに買ってあげた。高価な物だし店主としてもウィン、ソフィアさんも気に入ってくれた様でウィン、僕の財布から金貨が消えてルーズ。
 
 ウィン・ウィンな関係は聞いた事があるけど、一人負けの場合の言葉も作って欲しいな。みんなが勝てたら傭兵なんていらねぇ。
 
 夜になって輪番の割り込みをさせてもらった。これから少しの間、白百合団と離れ一人で戦うアラナを入れたかった。
 
 「団長、僕と居られなくて寂しいッスか?」
 
 「そうだね、アラナからは元気がもらえるから寂しくなるよ」
 
 「いっぱい元気をあげるッス」
 
 僕達は抱き合った。強く優しく、特にアラナの鋭い爪に気を付けながら。銀灰色の毛並みは美しく、僕の動きに合わせて全身が揺らめく感じは亜人にしか出せない。
 
 「す、すごいッス……    あぁ、こんな……」
 
 普段から鍛えられてますから。爪さえ出さなければアラナも怖くない。僕はアラナの背中に萌える毛を摩りながらペティナイフを突き立てていた。
 
 

 このクレスタの街から領都ハーデンバーまでの大きな穀倉地帯が領主フゲン侯爵を潤してる。だがクレスタを取られた事で潤いも半減してしまった。
 
 「クレスタの街を取り返せ! 集められるだけ集めろ。領軍以外にも傭兵を雇え、王軍より先に取り返せねば王軍が駐屯し奴等のものになってしまう」
 
 ハーデンバー領主、パウリノ・メンへ・フゲン侯爵は激怒しながら部下に指示を出していた。今回の国家騎士団の遠征には自領を通りクレスタの心配は要らぬと我が領軍を他の戦線に回した摂政の言葉を信じた自分の甘さにも腹が立っていた。
 
 「閣下、他の戦線に行っている領軍を戻すのに二週間ほどかかります。休息と準備にもう一週間、この間にも傭兵を集め出立は三週後になります」
 
 フゲン侯爵の腹心、エリヒオ・トルドラは頭を下げ恭しく申し上げた。
 
 「トルドラ、もう少し早くならんのか!   数はどれくらいになる」
 
 「摂政殿が離れた戦線に領軍を投入しましたのでどうしても時間がかかります。 時間がかかりますので、傭兵の用意も出来ます。全軍で九百ほどを予定しております」
 
 「指揮官は誰とする?」
 
 「現在、領軍の指揮を取られているシプリアノ・バルケノ・ピナル子爵がよろしいかと」
 
 「ピナルなら問題はないか……」
 
 「ただ先ほど閣下が言われた通り国家騎士団が出てきた場合はどのようにすればよろしいでしょうか」
 
 「……潰せ」
 
 「御意」
 

  フゲン侯爵の腹心、エリヒオ・トルドラは国家騎士団を相手にどう立ち回るか考えるだけで笑みがこぼれた。
 

 
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