異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第十九話

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 おはようございます。こんにちは。こんばんわ。挨拶は大切だ。白百合団の団則に入れたいね。幸にも生きてたよ。幸いなのか分からないけど。
 
 
 僕たち白百合団は一名を除いて無事にトーワの村に着き、一名を除いて村長と依頼の話をし、一名を除いて村の祝賀会に呼ばれた。その馬車に残された一名に祝賀会のご飯を持ってきてくれたのはプリシラさんだった。
 
 「怪我はどうだ。これは上手かったぞ、食え」
 
 「ありがとうございます、プリシラさん。怪我はなんとか……   でも魔法は便利ですね。ソフィアさんは傷口は治してくれなかったけど流れた血液は補充してくれたみたいで……」
 
 「ルフィナが欲しがってたぞ、いったい何に使うのやら」
 
 絶対に悪い事です。呪いとか、間違いないく死人が関係する様な人に迷惑をふんだんに掛けるに違いないよ。
 
 「それでこれからの事なんだが……」
 
 そうだよなぁ、考えないと。今の場所は前世と同じなら、ここは帝国の西にあるトワルソルヤ王国のはず。 ここで領主を殺してしまって隣の国のハーベマー王国で反乱貴族の鎮圧に参加してからヌーユに行くことになってる。
 
 「とりあえず脱げ」
 
 「へっ?!」
 
 「へっ?! じゃねえよ。団則読んでないのかよ。渡したろ!」
 
 そう言えば馬車に乗る時にもらいましたね。僕は右手にムチ、左手で止血をしてたので読めるわけないだろう!
 
 「すみません、読んでません」
 
 読んだのは前世で規則。確か怪我をした場合は免除させるんだったよね。 僕は後方で馬車に乗って安全な所にいたから怪我をした事なかったけど、他の人は何回かあったよね。
 
 「まぁ、怪我しちまってるからな」
 
 そうです。僕は怪我人です。ナイフで刺された重病人です。全治に二週間は欲しいです。清潔なシーツとグラマーなナース付きでお願いしたい。
 
 「ライカンスロープにはならねえでやるよ。あっちの方がいいんだけどな」
 
 却下です!     僕の意見が。きしむベッドでは無く、固い荷馬車の上で優しさ持ちより、きつく体、抱き締めあえば。      ……死ねる。
 
 三十分ぐらいだったが、人型のプリシラさんは情熱的で馬車が壊れるかと思った。ずっと僕の上に乗って腰を振っていたのは、僕の怪我を労ってくれていたのか。
 
 「後でソフィアに言っておいてやるよ。毎度、血だらけじゃあな」
 
 「お願いします。    ……ちょっと聞いてもいいですか?」
 
 「ん?    なんだ?」
 
 プリシラさんと一つの毛布を掛け合ってピッタリとくっつきながら寝るのは最高だ。プリシラさんは僕より大きくて筋肉もあるけどマッチョでは無くて褐色の肌に赤い髪。例えるなら水泳選手の様な肉付きの機能美。抱き心地は最高ですよ。
 
 プリシラさんがライカンスロープになると僕よりもかなり大きく筋肉も黒毛で隠れて着ている服が破れるくらい。例えるならゴリラと狼を足して狂暴にした感じ。抱き心地は命懸けですよ。
 
 「村長にも話をしたし明日には戻って報告ですか?」
 
 「そうだな。戻って領主に報告したら、次の仕事を探すかな」
 
 「他の国まで行ったりするんですか?」
 
 「そうだなぁ~、行ってもいいかな。マクジュルなら近いしな」
 
 マクジュル?    聞いた事がない名前だ。白百合団意外は神様の悪戯が効いてるのか?    悪戯ぐらいで国の名前が変わるのとか有りなのか?
 
 「ここはどの辺りになります?」
 
 「お前、旅をしてたのにそんな事も知らないのかよ。ここはプロメリヤの端っこだぞ。マクジュルはすぐ隣だ」
 
 やっぱり聞いた事がない。マクジュルとプロメリヤ。どちらも前世では無い名前だ。これだとヌーユも無いのか。神様は送った所を間違ってるんじゃないの?    ちゃんと配達しないなら判子は押せねぇ。
 
 「色々な所に行くと場所がわからなくなって……」
 
 「方向音痴の旅人なんて聞いた事がねえよ。だいたいどっから来たんだ?   東の帝国か?」
 
 帝国と言えば僕の記憶ではアシュタール帝国になる。大陸で最大、最強の国家になるんだけど、この世界にもあるのかな?
 
 「いえ、もっと北の方からきました」
 
 「ケイベックかロースファー?   まさかハルモニアか?」
 
 この三つはある!    これは前世と同じだ、帝国の名前が分からないのと帝国より西にあるはずの国の名前が違う。やっぱり神様の汚い罠があって、迂闊に前世を話すと墓穴を掘りそうだ。
 
 「ハルモニアです。ハルモニアの東の方から来たんです」
 
 「ハルモニアだぁ!?    こんな遠い所までご苦労なこったな。   ……それで団には慣れそうか?」
 
 「まだ分からない事もありますが精一杯、がんばります」
 
 「そうか、それならもう少し頑張ってくれ!」
 
 そう言うとプリシラさんはライカンスロープになった。   ……ならないって言ったのに。
 
 
 
 領主様の所までは場所で二日あまり。馬車にゆられた旅はこの上なく順調で、隣の席に座ったアラナは緊張が抜けなかった様だ。
 
 馬車に乗ってアラナが隣に座ったら開口一番ソフィアさんが「今度やったら心臓刺す」なんて聞いた事も無いドスの効いた声で話すもんだからアラナなんか漏らしてやがんの。笑っちゃうね。
 
 笑っちゃうよ、僕だってチビったもん。本当に怖かった。プリシラさんとは違う怖さ、ソフィアさんてこんなに怖かったかな?
 
 「アラナ、大丈夫?」
 
 「話しかけないで欲しいッス。まだ死にたくないッス」
 
 こんな感じの二日間で旅は順調に進んだ。夜も順調です。やっぱり順番があってクリスティンさんソフィアさんが夜の輪番の相手だった。
 
 クリスティンさんは発作を起こされる前に、ソフィアさんは最初から、神速のチェーンガンの威力は絶大だったけど、「エッチした」より「戦った感」が多かった。
 
 領主様の所には夕方に着き挨拶は明日にしようとした意見はプリシラさんに却下された僕は団長です。依頼は成功したので、プリシラさんが領主様を切る前世の記憶の事はないだろうけど念のため。
 
 「プリシラさん、初団長の仕事をやらせて下さい。領主様に依頼の報告をしたいのですが…… 」
 
 「いいぜ。固い仕事はこれから全部、団長の仕事だ。頑張ってきな」
 
 丸投げされた様にも聞こえるけど、これで領主様を殺すことは無くなったね。一人だと淋しいのでクリスティンさんに付き合ってもらった。
 
 依頼の時に会ってるらしいし、何より美人を連れていって覚えが良ければ仕事を回してもらえるかも知れない打算と美人が隣にいるのは男として気分がいいね。
 
 屋敷の前庭に馬車を止め二人で入って行った。屋敷の中は思いの外、豪華でさすが伯爵になると違う物だと思ったけれど、僕の記憶では帝国の西の三か国は戦争ばかりして裕福では無かった筈だが今は違うようだ。
 
 お陰で僕たちは仕事にあぶれる事もなく過ごせているけど、平和ならこの後の仕事があるか心配だ。今は傭兵より魔物退治がメインなのだろうか。
 
 「ご苦労だったな。貴様が新しい団長なのか?」
 
 「はい、ミカエル・シンと申します」
 
 「ふんっ、まぁ良いか。今、下で確認をしておる。しばらく待っておれ」
 
 ん!?    なんか嫌な予感。何で待たせるんだ?    この人の態度からあまり居て欲しくない様に思えたんだけど。
 
 「パパ~、来たよ~。この娘がそうなの~?」
 
 人の事は言えないけど、「バカっぽいヤツが来たなぁ~」が、第一印象の男がドアを開けて入ってきた。
 
 「遅かったな。この女が話していた者だ」
 
 「へぇ~、かなり可愛いじゃない。僕の妾にしてあげるよ~ん」
 
 アンタダレ、ナニイッテルノ?   シニタイノ?
 
 「領主様、この方はどちら様でしょうか?」
 
 「わしの息子だ。その女を息子の妾にでもと思ってな。待っていたぞ」
 
 ナニイッテルノ?    シニタイノ?
 
 「申し訳ありません、領主様。この女性は白百合団の貴重な戦力でありますので、お譲りする事は出来ません」
 
 「安心せい。白百合団ごと雇ってやるわ。お前達は、わしの領土を守っておればよい」
 
 「パパ~。そんな話しはいいよ。見て見て、この娘の肌。透き通る様な肌だよ」
 
 クリスティンさんに、その汚い手で触らないで欲しい。それに勝手に話を進めるのも止めて。クリスティンさんを渡すわけないでしょ。
 
 「ご子息様、お止め下さい。この女性は白百合団にとって大切な人なのです」
 
 ちょっとムカついたので肩をつかんで引き離そうとしたら逆に両手で押されて尻餅をついてしまった。僕、カッコ悪いです。
 
 シニタイノ?
 
 「ボンッ!!」
 
 子息の胸が一瞬だが膨らみ膝から倒れて行く。賢明な読者ならってやつだろうね。こんな事が自然と発生してたら大変だよ。
 
 「フィル!」
 
 おそらく息子の名前だろう。領主が側に寄ると、ご子息様は口から血を流し動かなくなっていた。    ……南無。
 
 「クリスティンさん?」
 
 思わず呼んでしまったけれど、これはクリスティンさんの「不幸にも心臓発作」以上のものだ。胸があんなに膨らむなんて、心臓が爆発したんだと思う。
 
 「……団長に危害を加えました」
 
 静かに美しく、ただそれだけを言った。
 
 「貴様!   何をした?!」
 
 「ボンッ!!」
 
 クリスティンさんの足元に崩れ落ちる領主。第二の犠牲者。この人は何もしていないよ。
 
 「……証人も」
 
 クリスティンさんにとって僕に危害を加える者は全て敵の様だ。敵は殺せ。邪魔する者も全て殺せ。そんなのが団則にあったような。
 
 表情一つ変えないクリスティンさん。僕から顔を背けた時に見えた眼に光った涙の様な物はなぜ?    美人を泣かすのは男としてどうだろか?    どうすれば良かったんだろう?    クリスティンさんを連れてきたのは僕だ。良かれと思っていたのに……
 
 これで記憶通りに領主を殺してしまったのだから、僕達は逃げる。領主を殺した事で記憶通りに成るのなら、隣のマクジュル王国で反乱貴族の鎮圧に参加してヌーユを目指す。
 
 
 この二人を殺すことは何とも思わないけど、クリスティンさんの涙は心に痛い。
 
 「……寝不足です」
 
 ああ、そうかい!
 
 
 
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