異世界に来たって楽じゃない

コウ

文字の大きさ
18 / 292

第十八話

しおりを挟む

 真面目な話を一つ。これからの話。僕の知ってる前世の記憶の話。
 
 
 白百合団の団長になってから二年の間、幾多の戦場を駆け抜け、二つ名をもらいハーデンバーの街で魔王軍の進行を知り、二年間の戦いの後に魔王の首を取る。
 
 これから四年後に魔王を倒して面白いエンディングする事。いや魔王を倒さなくてもいいのかな?    「面白いエンディング」っていう着地点の分からないゴールに向かって進まなければならない。
 
 明日、死んでも面白いエンディングになるのかな?    動くゴールにどうやってシュートを決めればいいのか……
 
 
 
 「どうしたッスか団長?」
 
 真面目な考え事をしてましたよ。新団長の仕事は馬車を走らせ今回の依頼のあったトーワの村に行くこと。プリシラさんは副団長に降格したが荷台でお酒を飲んでる姿はとても降格した人に見えない。  
 
 スッとアラナが僕の左足に手を置いてきた。太ももに感じるアラナの手の暖かさ。荷台ではプリシラさんがお酒を飲み、オリエッタが間延びした口調でクリスティンさんに話しかけ、ルフィナな静かに座っている。
 
 暖かい日の、のどかな馬車の旅。ああ、こんな日が永遠に続けば……   僕の足に刺さったナイフも永遠に刺さったままかな。
 
 「えっ!」
 
 「いちゃラブ禁止です」
 
 「痛いッス!    ソフィア姉さん、痛いッス!」
 
 アラナの手を貫通し僕の足まで深く刺さったナイフを笑顔でえぐり押し込むソフィアさん。
 
 「痛てぇぇぇぇ~!」
 
 えぐるな!   押し込むな!   アラナは動くな余計に痛い。
 
 「ソフィアさん何で……」
 
 「馬車の運転中は危険ですよ。いちゃラブ禁止です、うふっ」
 
 あんたが危険だ!    どっから持って来たんだ、このナイフは!
 
 「ソフィア、そのくらいにしておけ」
 
 偉いぞプリシラ!   出来れば刺す前に止めて欲しかった。残念そうにナイフを引き抜くとスローモーションの様に鮮血が吹き出す。
 
 「ソフィア姉さん、ごめんなさいッス。ごめんなさいッス」
 
 右手から血を吹き出させながらも謝るアラナに背を向けてソフィアさんは荷台に座った。
 
 「ソフィア、治してやれ」
 
 ナイフをルフィナに返してからソフィアさんは面倒くさそうに、荷台に来たアラナの手を魔法で治してやった。
 
 ルフィナ~。お前がナイフを渡したのか!    静かに座っていると思ってたのに。後でチェーンガンの刑に処す。
 
 「ソ、ソフィアさん、僕の足も治して下さい」
 
 アラナの手も大変だけど僕の太ももに深く刺さって出血が凄いんです。
 
 「魔力切れです」
 
 ウソつけ。朝から魔法なんて使ってないだろ!    なんて今のソフィアさんの目を見て言えるヤツなんていません。僕は無理です。
 
 痛みをこらえての馬車の運転。運転と言ってもハンドルがある訳じゃないし曲がり角も馬が勝手に曲がってくれるから、手綱を持って、たまにムチを入れてやるだけ。
 
 片手でムチと手綱、片手で傷口を押さえて出血を塞ぎながらの運転はなかなか厳しい物がある。
 
 「大丈夫であるか?」
 
 ルフィナが優しい言葉を掛けて御者席に座ってきた。お前はチェーンガンの刑なんだよ。罪人なんだよ。刑の執行はベッドの中でね。
 
 「ソフィアは機嫌が悪いである。手を離せ、代わりに押さえて止血するである」
 
 ルフィナ~。いい所があるじゃないか。出血を止めるの手伝ってくれるなんて、手が汚れるのも気にしないのかい?    さっきのナイフを貸した件は忘れてあげるよ。
 
 ルフィナはいいなぁ~。話し方は変でファッションも変わってるけど色白で華奢な感じが守ってあげたくなるタイプだね。
 
 「ふむ、良い血の味である」
 
 前言全部撤回。血を舐めるなんておかしいだろ。なんでそうなるんだよ、こいつら全員おかしいよ。まともなのは僕だけだよ。
 
 「ルフィナ、手が汚れるからタオル……   何か布とかないかな?    それで押さえるよ」
 
 「クククッ。   大丈夫である。ほら指を入れたら簡単に止まるである」
 
 マジ神速を使った。指を入れた瞬間に手で押さえ少し入っただけで引き抜いた。「傷口に塩を塗る」って「ことわざ」はあるけど「指を入れる」なんて聞いた事もねぇよ。
 
 「ルフィナ、大丈夫だから後ろに行ってて」
 
 「分かったである。団長の血は甘美である。二人きりになった時は所望である。クククッ」
 
 そう言い残してルフィナは荷台の方に行った。
 
 こいつは殺しておいた方が身の為の様な気がする。勘違いではないと思う。僕がマトモでいいんだよな?   ここにいると自信が無くなってくるよ。この何時間しかまだ居ないけど僕の知ってる白百合団とは少し違う気がする。
 
 プリシラさんは変わってないかな。相変わらずの狂暴さと機能美とも言える肉体が。クリスティンさんは前より話すかな。叫び声に似た喘ぎ声だったけど。それと心臓麻痺はマジ勘弁。
 
 ソフィアさんは変わった。以前なら団員を刺すなんて事はしなかった。何があっても団員にあんな事をするなんて、嫉妬と性欲の力が強まった感じだ。ただあのスカートは良し。
 
 アラナも少し。僕の足に手を置くなんてする娘じゃなかったのに。いつも明るく活発な女の子でエッチな時もスポーツ気分だったよね。
 
 ルフィナに関しては凶悪さが増してる。こいつ後でマジ鳴かす。ここまで直接的に来るとベッドで安眠は出来なさそうだ。
 
 オリエッタは変わったと言うかトロール達に襲われた時に出したのが白騎士。僕が知ってるのは黒騎士。白騎士なんて聞いた事もない。拷問器具もエムっ気があるところも……
 
 それとトーワの村は殲滅だったはずかトーワの村からの依頼に変わってる。これだとヌーユの存在さえ無い事もありえる。ヌーユで二つ名をもらい白百合団の名前が世に広まる切っ掛けを作った場所。
 
 微妙に違う。それはスゴく不味い。神が望む面白いエンディング、これには団員の協力が必要だと思ってる。なので今まであったこと全てを話して白百合達に手伝ってもらおうと考えていた。
 
 「僕は前世で君たち白百合団の団長で魔王を倒すんです」  ……誰が信じるんだか。いきなり言ったらプリシラさんに切られる。
 
 だからこそ、小さな積み重ねで信用を得て行きたかった。ヌーユの事もそうだけど他にも戦った記憶、笑いあった事、言い争いもしたし、楽しかった事もみんな話したかった。
 
 刺されたり、薬を盛られたり、心臓止められたり、首を閉められ無理矢理ヤられたり、メテオストライクを食らいそうになった事も話したかった。
 
 記憶と微妙な違いは、話をしても信用を無くしてしまう。言った事と違ったら嘘つきになってしまうから。前世での事は言えない。神の面白いエンディングの事も言えない。何も言えないまま白百合達とシュートを決められるのだろうか。
 
 
 今、僕は絶賛血管止血中。少し意識が遠くなって来たので今日はこの辺にしておこう。
 
 もし次があれば………
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...