異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第十八話

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 真面目な話を一つ。これからの話。僕の知ってる前世の記憶の話。
 
 
 白百合団の団長になってから二年の間、幾多の戦場を駆け抜け、二つ名をもらいハーデンバーの街で魔王軍の進行を知り、二年間の戦いの後に魔王の首を取る。
 
 これから四年後に魔王を倒して面白いエンディングする事。いや魔王を倒さなくてもいいのかな?    「面白いエンディング」っていう着地点の分からないゴールに向かって進まなければならない。
 
 明日、死んでも面白いエンディングになるのかな?    動くゴールにどうやってシュートを決めればいいのか……
 
 
 
 「どうしたッスか団長?」
 
 真面目な考え事をしてましたよ。新団長の仕事は馬車を走らせ今回の依頼のあったトーワの村に行くこと。プリシラさんは副団長に降格したが荷台でお酒を飲んでる姿はとても降格した人に見えない。  
 
 スッとアラナが僕の左足に手を置いてきた。太ももに感じるアラナの手の暖かさ。荷台ではプリシラさんがお酒を飲み、オリエッタが間延びした口調でクリスティンさんに話しかけ、ルフィナな静かに座っている。
 
 暖かい日の、のどかな馬車の旅。ああ、こんな日が永遠に続けば……   僕の足に刺さったナイフも永遠に刺さったままかな。
 
 「えっ!」
 
 「いちゃラブ禁止です」
 
 「痛いッス!    ソフィア姉さん、痛いッス!」
 
 アラナの手を貫通し僕の足まで深く刺さったナイフを笑顔でえぐり押し込むソフィアさん。
 
 「痛てぇぇぇぇ~!」
 
 えぐるな!   押し込むな!   アラナは動くな余計に痛い。
 
 「ソフィアさん何で……」
 
 「馬車の運転中は危険ですよ。いちゃラブ禁止です、うふっ」
 
 あんたが危険だ!    どっから持って来たんだ、このナイフは!
 
 「ソフィア、そのくらいにしておけ」
 
 偉いぞプリシラ!   出来れば刺す前に止めて欲しかった。残念そうにナイフを引き抜くとスローモーションの様に鮮血が吹き出す。
 
 「ソフィア姉さん、ごめんなさいッス。ごめんなさいッス」
 
 右手から血を吹き出させながらも謝るアラナに背を向けてソフィアさんは荷台に座った。
 
 「ソフィア、治してやれ」
 
 ナイフをルフィナに返してからソフィアさんは面倒くさそうに、荷台に来たアラナの手を魔法で治してやった。
 
 ルフィナ~。お前がナイフを渡したのか!    静かに座っていると思ってたのに。後でチェーンガンの刑に処す。
 
 「ソ、ソフィアさん、僕の足も治して下さい」
 
 アラナの手も大変だけど僕の太ももに深く刺さって出血が凄いんです。
 
 「魔力切れです」
 
 ウソつけ。朝から魔法なんて使ってないだろ!    なんて今のソフィアさんの目を見て言えるヤツなんていません。僕は無理です。
 
 痛みをこらえての馬車の運転。運転と言ってもハンドルがある訳じゃないし曲がり角も馬が勝手に曲がってくれるから、手綱を持って、たまにムチを入れてやるだけ。
 
 片手でムチと手綱、片手で傷口を押さえて出血を塞ぎながらの運転はなかなか厳しい物がある。
 
 「大丈夫であるか?」
 
 ルフィナが優しい言葉を掛けて御者席に座ってきた。お前はチェーンガンの刑なんだよ。罪人なんだよ。刑の執行はベッドの中でね。
 
 「ソフィアは機嫌が悪いである。手を離せ、代わりに押さえて止血するである」
 
 ルフィナ~。いい所があるじゃないか。出血を止めるの手伝ってくれるなんて、手が汚れるのも気にしないのかい?    さっきのナイフを貸した件は忘れてあげるよ。
 
 ルフィナはいいなぁ~。話し方は変でファッションも変わってるけど色白で華奢な感じが守ってあげたくなるタイプだね。
 
 「ふむ、良い血の味である」
 
 前言全部撤回。血を舐めるなんておかしいだろ。なんでそうなるんだよ、こいつら全員おかしいよ。まともなのは僕だけだよ。
 
 「ルフィナ、手が汚れるからタオル……   何か布とかないかな?    それで押さえるよ」
 
 「クククッ。   大丈夫である。ほら指を入れたら簡単に止まるである」
 
 マジ神速を使った。指を入れた瞬間に手で押さえ少し入っただけで引き抜いた。「傷口に塩を塗る」って「ことわざ」はあるけど「指を入れる」なんて聞いた事もねぇよ。
 
 「ルフィナ、大丈夫だから後ろに行ってて」
 
 「分かったである。団長の血は甘美である。二人きりになった時は所望である。クククッ」
 
 そう言い残してルフィナは荷台の方に行った。
 
 こいつは殺しておいた方が身の為の様な気がする。勘違いではないと思う。僕がマトモでいいんだよな?   ここにいると自信が無くなってくるよ。この何時間しかまだ居ないけど僕の知ってる白百合団とは少し違う気がする。
 
 プリシラさんは変わってないかな。相変わらずの狂暴さと機能美とも言える肉体が。クリスティンさんは前より話すかな。叫び声に似た喘ぎ声だったけど。それと心臓麻痺はマジ勘弁。
 
 ソフィアさんは変わった。以前なら団員を刺すなんて事はしなかった。何があっても団員にあんな事をするなんて、嫉妬と性欲の力が強まった感じだ。ただあのスカートは良し。
 
 アラナも少し。僕の足に手を置くなんてする娘じゃなかったのに。いつも明るく活発な女の子でエッチな時もスポーツ気分だったよね。
 
 ルフィナに関しては凶悪さが増してる。こいつ後でマジ鳴かす。ここまで直接的に来るとベッドで安眠は出来なさそうだ。
 
 オリエッタは変わったと言うかトロール達に襲われた時に出したのが白騎士。僕が知ってるのは黒騎士。白騎士なんて聞いた事もない。拷問器具もエムっ気があるところも……
 
 それとトーワの村は殲滅だったはずかトーワの村からの依頼に変わってる。これだとヌーユの存在さえ無い事もありえる。ヌーユで二つ名をもらい白百合団の名前が世に広まる切っ掛けを作った場所。
 
 微妙に違う。それはスゴく不味い。神が望む面白いエンディング、これには団員の協力が必要だと思ってる。なので今まであったこと全てを話して白百合達に手伝ってもらおうと考えていた。
 
 「僕は前世で君たち白百合団の団長で魔王を倒すんです」  ……誰が信じるんだか。いきなり言ったらプリシラさんに切られる。
 
 だからこそ、小さな積み重ねで信用を得て行きたかった。ヌーユの事もそうだけど他にも戦った記憶、笑いあった事、言い争いもしたし、楽しかった事もみんな話したかった。
 
 刺されたり、薬を盛られたり、心臓止められたり、首を閉められ無理矢理ヤられたり、メテオストライクを食らいそうになった事も話したかった。
 
 記憶と微妙な違いは、話をしても信用を無くしてしまう。言った事と違ったら嘘つきになってしまうから。前世での事は言えない。神の面白いエンディングの事も言えない。何も言えないまま白百合達とシュートを決められるのだろうか。
 
 
 今、僕は絶賛血管止血中。少し意識が遠くなって来たので今日はこの辺にしておこう。
 
 もし次があれば………
 
 
 
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