異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第四十三話

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 僕達の戦は終わった。後はお金を貰って貯金しよう。    ……老後の為に。だがその前に、二つ確認したい事がある!
 
 
 「ここに来るまでの道すがら、結構な数の死体を見たのですか……    騎士でも無く、傭兵にも見えないし、もしかして……」
 
 「野盗ですね。暇潰しにはなりましたよね」
 
 何故にそんなウキウキした声で言えるのか知りたい。本当に野盗だったんだよね?    見ず知らずの一般人を巻き込んで殺したりしてないよね、ルフィナ!?
 
 「何故、我を見るであるか?    むしろ我の方から皆に一言、言いたいくらいである」
 
 おぉ、言いたい事があるなら聞いてやる。調書には被告は協力的だったと書いてやるよ。
 
 「まず、クリスティン。野盗どもの心臓を潰したであるな!?    あれではゾンビに出来ないのである!    それとソフィア!    真っ二つにした人間もゾンビになど出来ないのである!    アラナはバラバラにするし、オリエッタは頭を潰すし、もう少し殺り様があるのである!」
 
 被告には精神疾患の疑いがあると書いておこう。誰が、てめぇのゾンビ作りに協力する訳はねぇだろ!    寝言は魔力を使い果たした後のベッドで言え!
 
 「と、取り敢えず、相手は野盗で一般人は居ないなら大丈夫です」
 
 「正当防衛である!」
 
 過剰防衛って言葉は知ってるかな?    まぁ、この世界の命の値段は「エール並み」って言うからね。野盗の皆さん、相手が悪かったよ。でも、運が良かったのかも……
 
 「それで……    もう一つ聞きたいのですが、あそこで珍しい服を着ている女性達は、どちら様でしょうか」
 
 「あれは野盗さんのお仲間です~。団長は目が悪くなったです~」
 
 悪くなってねぇよ。この世界の人に比べれば悪いかもしれないけど、後ろの席から黒板の字は読めるんだぜ。
 
 僕が言いたいのは、あそこに居る女性三人が裸で亀甲縛りにあってる理由なんだよ。オブラートに挟んで聞いてる「気遣い」に気付いて。
 
 「なかなか興味深いのですけど、三人さんとも大変な事になってませんか?    身体中から溢れ出ているあれはなんでしょう?」
 
 目から涙が、口からはヨダレが、蜜壷からは愛液が止めどなく流れ出し、第一印象は「側に行ったらダメな人」になっている。
 
 「野盗は皆殺しにする予定だったんですけど、クリスティンさんがどうしてもって……    だから、オリエッタに頼んで……」
 
 ナニ!?    ナニ!?    ナニ!?    どう考えてもロクな事にならねぇよ。命を助けたのは良かったけど、その後をオリエッタやルフィナに頼んじゃいけねぇよ。
 
 「頼まれたので~。人体実験を~。したのです~」
 
 ストップ!    人体実験!    頼んだのは人体実験じゃなくて、捕縛しておく方法とかだろ。ソフィアさん、言葉が足りな過ぎ。
 
 「何の実験をしたんですか!?    あれは尋常じゃない!」
 
 「簡単です~。催淫剤を原種のまま与えたんです~。本当なら五百倍に薄めて使うのをそのまま使ったらどうなるか、知りたかっただけです~」
 
 あの屋敷を壊滅させた薬か……    あれは空気中に拡散されても、あの威力だったのが薄められずに使われると被害はどれくらいの物か……
 
 被害者は現在、裸で亀甲縛りにされ、ミノムシの様に身体を引きずりながら、ミカエル・シンの方向に進んでおります。周辺住民の皆さんは冷静に避難して下さい。尚、被害者は「おとごぉ!    おどごぉ!」と叫んでる様子です。
 
 五百倍の威力は、今や人を捨てさせてる。見ていて「痛い」を通り越して「怖い」だ。特に男の子が僕一人しか居ないなら尚更だ。

 「ソフィアさん何とかして!」
 
 僕は堂々とソフィアさんの背中に隠れて言った。治療ならソフィアさん以上の人なんて居ない。オリエッタの催淫剤も何とかしてくれよ。
 
 「……え?」
 
 可愛い笑顔で不思議そうに僕に向かって疑問形を投げ掛けるソフィアさんの思考は謎だ?    貴女が治さず誰が治すって言うんだ。
 
 「……オリエッタが団長の為に」
 
 おぉ!    いつの間に僕の後ろに回り込んだんだ。背中を取られたのは、初めてじゃないか!?    ……ナイフとか持って無いよね?
 
 「クリスティンちゃんが初めです~。女の子がいたら団長が喜ぶって~。だから殺さなかったです~」
 
 僕の為に女の子を生かしておいたって事か!?    僕の戦時報酬か慰労か知らないけど、僕の為に生かしておいたのね。そしてオリエッタの薬付け……
 
 クリスティンさんの方を見ると顔を少し赤らめ目線を落とした。珍しいくらいの感情表現だが、その前段階は全部間違ってるからな!
 
 「面倒臭せぇなぁ!」
 
 短気で知られる我らがプリシラ様は、僕とクリスティンさんから剣を引き抜き、ミノムシ女に突き立て地面と縫い合わせ、三人目の頭を踏み潰している。
 
 お前も全部間違ってるからな!    しかも、動きも早いな!    僕の専売特許なんだからね、速さは。被るから違う方向を目指して進んで、短気な性格も一緒に治してこい!
 
 「おごっ!    おごごっ!    おどごぉ!」
  
 どうしたらいいのか、現状の把握で頭が一杯だ。誰から何を説明して行けばいい?    ミノムシ女は殺してもいいんだっけ?
 
 「そこの女の子は全員、生かしておきます。傷の治療をして薬も抜いて下さい。この事の記憶も消して服も着させる様に。罪人として騎士団に突き出すか、娼館にでも売り飛ばします。これは団長命令!    命令違反は今回の報酬無し!」    
 
 大ブーイングを背に受け、僕は一人、白百合団から離れた。折角、生き残って帰ればこれか……   団長も楽じゃ無いねぇ。

 
 
 出発は二時間が経ってからだった。ソフィアさんとルフィナの魔法があれば怪我人も記憶も容易く終わると思った僕がバカだった。
 
 一時間ほどして、再び皆の前に戻って様子を見ると野盗の三人の女性を亀甲縛りのまま、生き埋めにしようとしていた白百合団を止め、説得に四十分ほど掛かり治療に十分、服を与えて逃がすのに五分、撤退準備に五分ほど。出発まで二時間が掛かった。
 
 幸いにも馬車の運転をアラナが買って出てくれ、僕は荷台の最後尾に座り、プリシラさんとオリエッタは密談中。右手にはソフィアさんが寄りかかり胸に顔を埋め、左手には珍しくクリスティンさんが寄りかかり、両手に花とはこの事で、足にはルフィナが寄りかかり採血中。
 
 「後で貧血になっても困るである」
 
 確かにその通り。クリーゼル男爵の所まで運転免除、輪番免除、いちゃラブ解禁で王様気分だったが、やはり皆さんは戦時報酬が気になるようで、いちゃラブしつつ、採血しつつ、自己申告を待ちつつ、集計した。
 
 白百合団、団長は伊達じゃないんだ。
 オーガ、四十三
 トロール、七
 計七十八ポイント
 
 プリシラさん
 オーガ、三十二
 トロール、二
 計四十二ポイント
 
 クリスティンさん
 オーガ、八
 トロール、一
 計十三ポイント
 
 ソフィアさん
 オーガ二十
 トロール零
 計二十ポイント
 
 アラナ
 オーガ、二十八
 トロール、二
 計五十八ポイント
 
 ルフィナ
 オーガ、十六
 トロール、一
 計二十一ポイント
 
 オリエッタ
 オーガ、十四
 トロール、一
 計十九ポイント
 
 と、なりました。
 
 トップはやはり僕だった、頑張ったからね。プリシラさんはさすがです。クリスティンさんはクリスティン軍団を生け贄にしていたと笑ってた。ソフィアさんは最初以外は後衛に回ってくれたみたいで感謝です。
 
 アラナは予想以上にポイントを上げていた。プリシラさんを抜いて二番手とはアラナの努力の成果が実ったのだろう。
 
 「ちょっと、貸してみろ」
 
 乱暴に集計用紙を取り上げるプリシラさんは、アラナに抜かれたのが悔しかったのだろう。穴が空くほど紙を睨んでいる。
 
 「何で五十八になるんだよ!    オーガが二十八とトロール二なら、三十八だろ!    ちゃんと計算しろ!」
 
 「僕は紙を受け取っただけ」との意見は「僕は」まで聞いて、プリシラさんは僕の真ん中の足を蹴り上げた。いくら神速持ちでも両手に女の子を抱えていたら守れません。
 
 「……ぐっ!」
 
 そんなに違いないだろうに。アラナが数字に弱いのは前世だけじゃ無かったのか……    今度、生徒とと生徒の個人授業のシチュエーションで勉強を教えてあげよう。
 
 ソフィアさんは保健の先生だね。プリシラさんは体育かな。ルフィナ、オリエッタは生徒として、問題はクリスティンさんか……    英語、数学、そんな知的な感じ。それとも音楽や美術、そんな……
 
 「てめぇ……    戦時報酬を誤魔化したら細切れにして喰っちまうぞ」
 
 僕の顔面に、スタンプを押す如く足の裏を押し付けてるプリシラさん。高く無い鼻がこれ以上、低くなったらどうするんだよ。足を払いたいが、両腕から離れないクリスティンさんとソフィアさん。もしかして拷問の一種なのだろうか。
 
 力での理解は一方的に行われ、何故にお前はミニスカートでは無いかとの異世界特有の「お約束」を破るプリシラさんに腹を立てた。
 
 「こっちも起てるであるか?」
 
 心の中を読むんじゃねぇ。腹は立てても、そっちは起て無いよ。お前は魔法で記憶を読むんだろ。読まれた心は、日頃の行いからか……    気を付けよう。
 
 「そうしましょうか……」
 
 そうしません!    公道を走る車の中でヤるなんてアダルトビデオでしか見た事がねぇよ。まぁ、馬車だし、荷台にいるけど、この馬車はオープントップで周りからは見られるんだからね。人は居ないけど……
  
 
 今回の殿の戦いは、オーガだけならプリシラさんと同じ数のアラナだけど、悪い癖が出たみたいだ。ルフィナ、オリエッタもトロールがいればポイントを稼げただろう。
 
 問題はポイント数だね。プリシラさんの四十二ポイントは気が遠くなりそうだ。クリスティンさんの十三ポイントはどう使うのか決めて無いので不安だ。
 
 ソフィアさんの二十ポイント、終わりは来るのだろうか。アラナの二十八ポイントはどうしましょう。武器を二十八個も要らないだろうし考えないと。
 
 ルフィナの二十一ポイントはそのまま二十一リットルだからレバーを食べて血を増やさないと死にますね。オリエッタの十四ポイントは十四回分の記憶になるのでプライベートには気を付けて頂きたい。
 
 二つ名もアラナの「騎兵殺しのアラナ」、クリスティンさんの「翼賛の女神」、ソフィアさんもに付いて「プラチナのソフィア」と凄い名前が付いて僕達も「殲滅旅団」の二つ名を頂いた。
 
 もちろんプリシラさんは「何で、あたいに付かないんだ!」と言ってたが、誰も見てない所で戦ったので付きようがないですね。僕も付いてませんし。
 
 
 クリーゼル男爵も生き残った事で未来は変えられる事が分かり、これからは記憶に頼らずに戦います。神様の面白いエンディングに向かって。
 
 あっ、そこは気持ちいい…… 

 
 
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