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第五十二話
しおりを挟む宿屋に帰って来てビックリです、そしてガッカリです。
「ドレスってドレスじゃないんですか!? スカートでヒラヒラが付いてたり胸元が開いてたりするドレス!」
「ドレスはドレスだろ。団長の記憶と間違っちゃいないぜ。なんだぁ、あたいに着て欲しかったのかぁ」
「当たり前じゃないですか! それを楽しみにしていたのに!」
「まぁ、なんだ…… こ、今度な……」
赤くなるなよ。こっちも恥ずかしくなるだろ。ルフィナもニタニタ笑うなよ。
「それで、皆さんも買わなかったんですか」
「私とクリスティンさんは買いに行ったんですけど、なかなか決められなくて……」
「我は師匠に会いに行ったである」
「ルフィナに師匠なんていたの!?」
「お主もそう言うであるか」
「オリちゃんは朝からプリちゃんの事やアラナちゃんの事で忙しかったです~」
「みんな忙しかったみたいでね。急ですけど明日の朝からハスハントの仕事なんですよ。出れそうにも無いですね……」
「キャンセルしとけ」
出来るかボケ! こっちは中小零細企業だぞ。もう受けるってマノン・ギーユさんには言ったし。てっきり今日のうちに、ドレスを決めるか採寸をして受け取るだけと思っていたのに予定が狂ったよ。
プリシラさんの服や鎧は時間が掛かるみたいだし、クリスティンさんとソフィアさんに「ドレスを諦めて」なんて恐くて言えない。ルフィナは重要な事で師匠に会いに行くって言うし、オリエッタはプリシラさんにくっついているし……
アラナなら武器の制作で時間は取れそうだけどドレスも作ってやりたい。まさか護衛を一人でやれる訳もないからどうしよう。断ろうか。
「僕で良かったら行くッス」
アラナ、すまん。この礼は必ずするよ。もちろんベット以外でね。
「構わないかい。仕事は大した事の無い護衛と討伐だよ。帰ったらちゃんとドレスを作る時間も取るからね」
「ドレスはいいッス。武器があれば……」
「それはダメ。なぜなら僕が見たいから」
赤くなるなよ。今日は赤面する人が多いな。ただ助かる。ハスハントの初めての仕事を断るのは印象が悪くなるから。アラナは本当にいい娘だ。それに比べてプリ……
「明日からのハスハント商会の仕事は僕とアラナで行って来ます。一週間くらいで帰れると思うので、それまで皆さんのの事を進めておいて下さい。ドレスも買っていいですからね。特にオリエッタは帰るまでに必ずアラナの武器を作りあげるように。それと誰も怪我をさせない、殺さないで、お願いします」
「死ぬような味方はおらんのである」
「敵も味方も男も女もゴブリンも兎に角、殺しはダメ」
「ちっ!」
舌打ちしたなコノヤロー。団長だぞ、僕は。お前は後でドレスひんむきの刑に処す。今から楽しみだ。
「アラナ、一週間も独り占めだな。楽しんでこいよ」
指を固めて人差し指と中指の間から親指を出す。下品ですよプリシラさん。ずいぶんと古典的な事に顔を赤らめるアラナ。
「アラナ、一週間もあるからって羽目を外してはいけませんよ」
何かを刺す仕草をするソフィアさん。怖いなぁ。顔が青いよアラナ。
「それでは皆さんも羽目を外さないで楽しんで下さい、では解散で部屋に戻って下さい」
「各自、部屋に戻ったら着替えて団長の部屋に集合。お別れ会をやる」
何言ってんのプリシラさん。朝一で仕事って言ったじゃん。それに別れないよ離れるだけ。
だっ、と別れてすぐに着替えて戻ってきた。パジャマパーティーみたいで楽しかった。パジャマと言ってもスウェットに近い服になるかな。オリエッタだけはネグリジェだったけど、クリスティンさんの分は是非とも作ってもらわないと。
朝一の仕事で朝まで騒いでたら世話が無いよ。
「おはようございます、団長さん」
清々しい朝に清々しい声のマノン・ギーユさん。何でいるの?
みんなが寝ている中、僕とアラナは抜け出して馬車を操車して来てみればマノン・ギーユさんが待ち構えていた。
「おはようございます、ギーユさん。荷物の点検か何かですか」
「マノンとお呼び下さい。点検は終わっています。私も行くんですよ」
軽い衝撃。大企業の部長が派遣社員の仕事を見る感じだと、やりにくい。僕らだって実戦経験は豊富だし討伐はともかくも護衛だって楽勝だよ。なにせ帝都の近くに野盗なんていないからね。
「お二人だけですか? 白百合団は七人と聞いてますが」
「申し訳ありません。他のメンバーに重要な仕事を任せてしまっていましたので」
まさか僕好みのドレスを買いに言ってるとは言えない。マノンさんなら、敢えて胸元を隠して背中を出す様なドレスが……
「それなら仕方がありませんね。それなら白百合団の馬車に余裕がありませんか。少し荷物を乗せて頂きたいのですが」
頼むから最後まで妄想させてくれ。
「構いませんよ。場所はありますから」
荷物の場所まで彼女に後ろに付いて歩く。やっぱり背中が空いていて胸を強調するように首の後ろで結ぶ様な……
「妄想禁止ッス」
あぁ、誰か…… 心の自由を我に!
後を付いて歩くと荷物のある所に連れて行かれた。食料や日曜雑貨は当たり前として、それ以上にあるのが大量の武器。剣や槍、弓や矢筒、高価な物より実戦に使うような物ばかり。軍事物資と言うのが正しいか。
「戦争でもするのですか」
「いえ、在庫処分です。倉庫で眠っていた物ばかりなんですよ」
「後でショートソードと盾を分けてもらえませんか、格安で」
「仕事しだいです。ふふふっ」
イタズラっぽく笑うなよ。返す言葉に詰まるだろう。もしかして、いい仕事を受けたかも。
「妄想禁止ッス」
爪で刺すなよ。外套に穴が空くだろう。大丈夫だよ。アラナが一番、可愛いから。
荷物を詰め込み僕達の馬車を先頭にして、キャラバンは帝都を出発した。東門を越え、草原を越え、目的地の街マウガナまで二日、アラナと二人、楽しい旅になりそうだ。
「なんで隣に座ってるんですか?」
「さぁ~、何ででしょ。ふふふっ」
出発から隣を占領している。アラナが座ると思って気にもしてなかった。本当なら出発して少したったらアラナに操車を任せて、荷台の武器と一緒に仮眠を取るつもりだったのに。睡眠時間、一時間だよ。こっちの都合も考えて欲しい。
「後ろに行きませんか。横になるスペースはありますよ」
「大丈夫です。お気になさらずに」
僕が気になるの。気を使うでしょ、雇い主なんだから。当たりか外れか分からない仕事を引いたのかも。
途中でさすがにアラナに操車を代わってもらったけど、寝不足と気の使いでキャンプ地まで寝てしまったよ。これってマイナス評価になるんだろうか。
キャンプでの食事は本当に美味しかった。さすがハスハントのキャラバンだけあって、使っている食材から違う。普通に宿屋で出る食事と代わらないし温かい物を食べるとホッとするね。
アラナをテントに押し込んで僕が夜警はやらないと。マノンさんもハスハントのテントで寝てくれたし星は綺麗だ。
夜も更けて来たころ、野盗は来なかったが魔物は来た。キャラバンの後方の見張りが声をあげ、マノンさんが起きる前に、僕は全てを一人で始末した。
朝からのストレスで八つ当たりをしてしまった。相手がゴブリンかオークか気にもしなかったけど、最初から全力で力を入れすぎてしまってショートソードを折ってしまった。明日にでも一本譲ってもらおう。
皆が寝たら、星空の下で束の間の妄想を。ぐひひっ。
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