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第五十一話
しおりを挟む世界最大の商会、ハスハント。大陸七か国、全てに支社をもち商品は農民の服から食事、貴族の宝石や騎士の武器、自前の傭兵団まで持ち国政にも口を出せる大陸の影の支配者。
そんな影の支配者に呼ばれたからって本当に本人からなのか分からない。まして会えるなんて思ってもいない。今は信用を上げて少しでも近付いて進言できる立場に。
さて、僕としては呼ばれたんだから堂々と正面から行きたいね。もちろん商会の店舗の方じゃなくハスハントの屋敷の方へ。
帝都は三重の壁に囲まれている。城に一番壁、その周りを囲む様に貴族や騎士達の屋敷を守る壁が二番壁、そして外周とも言える三番壁は商家や職人、街の人が暮らしている。
ハスハントの屋敷なら貴族と同じ二番壁の中にいると考えていが、あるのは三番壁の中。不思議と思っていたが、行ってみて分かったのは「デカ過ぎて入らない」だ。
二番壁から三番壁の間が屋敷の敷地になっていて、屋敷の向こう側に行くには一度、壁の外に出ないと行けないくらい、大きく場所を取っている。
正面玄関に回ると詰所には武装した護衛が十人ほど在中していた。約束があると事情を話すば「担当者を呼んでくる」と一人走った。追い払われる覚悟で来たのに、末端まで情報が行き届いているとは、教育がいいのか大したものだ。
「白百合団の方ですね」
護衛達と暇潰しに話し込んでいたら不意に透き通る様な声で話しかけられた。そこにはエメラルド色の瞳に金色の髪、白い肌に尖った耳。初めて見たが、これがエルフか。
「初めまして。白百合団、団長のミカエル・シンです」
「私はマノン・ギーユと申します。宜しくお願いします。立ち話もあれですから、中にご案内いたします」
僕は黙ってギーユさんの後に付いて行く。なかなかのお尻をお持ちで。心の声は聞こえませんからね。詰所のある門から屋敷までかなり歩き、所々には護衛らしき傭兵もいた。
さすがは世界一。護衛の装備にも金が掛かってる。この中でどう這い上がろうか、どこまでハスハントに近づけるか。
会議室であろう広い部屋で待たされる事になったが大きな机に何十人も座れる数の椅子が用意され、そこに一人だけいるのはとても寂しい。誰か連れて来ればよかった。
ドアのノックと共にマノン・ギーユと武装した傭兵が二人入って来た。もしかして、悪い方の話かな。
「お待たせいたしました。改めましてハスハント商会の行動部、部長のマノン・ギーユです」
差し出された綺麗な手を取り握り返すと思った通り華奢な手をしている。
「白百合団、団長のミカエル・シンです。この度はお呼び頂きありがとうございます」
さて、お仕事しますか。
「団長は上手くやっているであるか」
「大丈夫だろ。下手したら逃げ帰ればいいだけ。逃げ足なら誰にも負けねえだろ」
「でも少し心配です。それに本当にドレスを買うんですか。私もつられて言ってしまいましたけど」
「あぁ、買うぜ。いつもライカンスロープになったら服を破って裸になっちまうからな」
「?」
「ドレスってどんな……」
「びーでぃーゆー、ってヤツだ。そうだろオリエッタ」
「そうです~。団長の記憶から戦闘時に着る服の事を言うんです~。バトル・ドレス・ユニフォーム、略して「ビー・ディー・ユー」です~。おそらく鎧の下に着ける服の事だと思います~」
「緑色を主に使っていた服である」
「だからドレスって言ってたんですか。てっきり社交界的なドレスかと思ってました」
「なんで、あたいがヒラヒラの着いた服を着なきゃならねぇんだ。あんなのはクリスティンが着てればいいだろ」
「……団長の為なら」
「…………」
「まぁ、なんだ、あたいは帝都で破れないドレスとライカンスロープになっても外れない鎧を作るつもりだ」
「そんなの出来るんですか」
「大丈夫です~。団長の記憶と錬金術とここの縫製技術で何とかなります~」
「み、みなさんはどうするんですか、ドレスを作るんですか」
「オリちゃんは今の服が気に入ってます~。それに団長から装甲服を着る時に着る服を作る様に言われてます~。プリちゃんの服と同じに作るです~」
「僕は戦時報酬の武器が欲しいッス」
「それなら団長に言われて作ってます~。試作でナイフにしたのを団長にあげるです~」
「見せてもらっていいッスか」
「■■■■、召喚。これです~。今は厚みがあって長さが短いです~。アラナちゃんには、もう少し薄くて長いのを考えてます~」
「そうなんッスか。楽しみッス」
「ルフィナはどうするんですか。ドレスは作らないんですか」
「我はせっかく帝都に来たのであるから師匠に会うのである」
「おまえに師匠なんていたのかよ」
「プリシラは我をどう思っていたのであるか。我にも師匠はある」
「どんな師匠か会ってみてえな。それならドレスを作るのはクリスティンとソフィアだな」
「あの~、私は今のローブがあればいいです」
「あぁん、ドレスとローブとは贅沢な野郎だ」
「いえ、今ので……」
「クリスティン一人で買いに行かせたら死人が出るぞ」
「せ、せっかくですので、ドレスを作ります」
「何だかんだで、みんな忙しくなりそうだな。これで団長が仕事を持ってこれたらオーケーだ」
僕はお仕事をしてます。ゴツく武装した傭兵が後ろに立ち、上から「つむじ」を見られているかと思うと、お尻の穴が閉まる感じで緊張感が高まるのを感じ、目の前のマノン・ギーユさんの開いた服の谷間を見れるのは幸せの極み。
「ヌーユでの殿の件、伺っております。たいへんな活躍をされて「殲滅旅団」の二つ名も頂いたとか」
「団員の奮闘に助けられました」
「それだけではないですよね。プロメリヤは魔物の部隊まで出して、それを撃退。オーガだけでは無くトロールまでも個人戦で倒す。攻城戦においては第七部隊で先陣を切り後退時にも活躍。「凄い」を通り越して「凄まじい」戦果ですね」
「恐縮です」
調べられてる。当然か。調べられて呼ばれたなら、いい話になりそう。 ……目算、九十二は越えてそうだ。
「九…… それで今回、呼ばれた件は一体なんでしょう」
「ハスハント商会は白百合団の力を必要としています。我々、ハスハント商会の傭兵部門に入りませんか」
「お断りします」
「と、言うと思ってました」
即答に速答で返された。前にもあったような……
「白百合団に首輪を付けられるとは思っておりません。また、個人別にも無い事も調べはついています」
「では何故……」
「言ってみただけです。白百合団は個人の戦闘能力が高過ぎます。異常なくらいの高さです。それを組み込んだら第七部隊の様に突出してしまいますからね。それに個人を押さえているのはミカエルさんの個別指導の賜物かと」
本当に良く調べている。個人別にも無いとは、個別指導の輪番の事か。ちょっと恥ずかしい。貴女も指導しましょうか、なんて冗談で言ったらメテオ喰らうかな。
「呼ばれた理由をそろそろお願いします」
「仕事を任せようと思いましてお呼びいたしました」
「ずいぶんと前置きの長い依頼ですね」
「趣味です。依頼は荷馬車の護衛と魔物の討伐です。詳しくはこちらをお読み下さい」
差し出された上質な紙を読めば、大した事の無い仕事。今さら力試しも無いと思うけどね。しかしハスハント商会の情報収集能力は凄いね。これだけの能力があればダン・ラッセルの言っていた様に出来るかもしれない。
「微力ながらお受けいたします」
「謙虚なのですね。荷馬車は明日の朝一番で東門から出ます。遅れないように」
彼女はそう言って立ち上がり部屋を出ていった。結局、会頭とは会えず仕舞いか。マノンさんも、もう少し胸元を見せてくれてもいいのに。
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