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第五十話
しおりを挟む輪番は大変なんです。特にこの人とは……
「てめぇ、たまには死ね!」
「たまに」も何も命は一つしかないので大事にしたいです。
「遠慮しますよ。謙虚なもので」
何をしているのか!? プリシラさんの戦時報酬支払中なんですよ。僕はショートソードと盾、プリシラさんはバスターソードを振り回して襲い掛かって来ます。
野外での、しかも周りに人毛が無い時、プリシラさんの輪番の時もスタートはこんな感じです。
「速さは大したものだ。まだまだ本気じゃないだろう」
プリシラさんは人型の時でもバスターソードを振り回す速さは人並み以上。並みの騎士でも敵う者はいない。
プリシラさんの討ち降ろしを盾で流し、僕はプリシラさんの首を目掛けて斬り付けるが避けられた。体制を直して一歩下がったプリシラさんに追撃を仕掛ける。
重いはずのバスターソードでショートソードのスピードに打ち合わせで付いて来れるなんて。化け物だろ。
「プリシラさんも凄いですよ。もう少しスピードをあげますよ」
一気に近付き上段から降り下ろされたバスターソードを盾で受け止め、ショートソードを握り直して柄で腹を殴り付けたが腹筋を固めて弾かれた。
二発目の上段を盾で受けたら膝が付くほどのパワーで押し潰され両手で盾を押さえた。
「そのまま死ね!」
五発目を振り上げた時点で隙を付いて逃げ出す。盾がボロボロ、持ち堪える事が出来ないくらい、凄まじい斬擊。
「あっ! 器用に腕だけライカンスロープになってズルいぞ!」
「知らねぇよ。勝てばいいんだよ。勝てば」
唸り声を上げて全身がライカンスロープになっていく。バスターソードを投げ捨て服が破れて特有の黒い剛毛が全身を覆う。
出来れば人型の時に押し倒したかったのに残念だ。僕もボロボロの盾を棄て腰からナイフを引き抜き二刀流。
「僕もこちらが本職で。全速で行きますよ」
「殺す、殺す、殺す!」
え~、僕らは戦時報酬を払い中で殺し合い中です。決して憎み合ってる訳ではありません。この後の事は木々がへし折れ岩さえ砕かれる戦場が造り上げられ、その真ん中で僕はプリシラさんを押さえ付けていた。
出来れば「押さえ付け」じゃなくて「押し倒し」たいんですけどね。
「ギブアップして人型に戻らないと、このまま落としますよ」
「ふざけるな! だれがギブアップなんかするもんか!」
言った瞬間に落としました。だって力比べは勝てないし爪を出されたら首に回したら腕がボロボロになってしまいます。ごめんね。
今回は落としたけれど、関節技でギブアップを迫る時の方が多いかな。落とされて失神するとプリシラさんは人型に戻り、裸の姿。本気の神速が長かったからか!少し疲れたね。僕は時間をおいてからプリシラさんのお尻を叩いて起こした。
「どのくらい寝てた?」
不機嫌そうです。声で分かります。当然ですよね、失神させられたなんて屈辱でしょうから。もちろん顔に落書きとかはしてないし、乳も揉んで……
「一時間くらいですかね」
「何で早く起こさねぇんだ! 時間が少なくなるだろう!」
そっちの方で怒ってたのかよ!? 僕は起き上がった裸のプリシラさんに押し倒された。いきなりは止めて……
「本当の戦いはこれからだぜ! 今度こそ勝つ!」
勝負は止めませんか。
普通にしませんか。
そう言えば……
「プリシラさん! ビッグニュースがあるんですよ!」
「明日は輪番だ! 覚悟しておけ!」
話すの止めようかな……
「プリシラさん、バスターソードの件ですが、どうやら小さく出来るみたいなんです」
「……せっかくデカくなった物を小さくしてどうする?」
デカくなっても、お前以外には使えないんだよ。人型の時にはプリシラさんだって危ないのに、宝の持ち腐れなんだよ。
「皆さんが満足頂ける長さになった方が喜ばれるかと思って……」
「そんなもん、無理矢理ぶち込めばいいんだ!」
女性と思えない言葉に、僕は「お前にはぶち込む」と心に決めた。だが、無理矢理は良くない。それに最後まで刺し込め無いのは根本が寂しい。
「……まぁ、取り敢えずやってみろ」
いや、話すだけで終わりにしたかったのに…… 子供がオモチャを前にして我慢出来ないのと同じか。言うんじゃなかった……
ここで嫌だと言えば間違いなくパンツを切り裂かれる。プリシラさんも毎度、ライカンスロープになる度に服を破いて、白百合団の経済状況を少しは考慮して欲しい。
裸のプリシラさんが胡座を組んで座る目の前で、パンツを降ろす僕って…… いよ! 相棒久しぶり!
「見てて下さい。■■■■、凝縮。と、ここで魔力の流れに注意して……」
他から見たらバカな男にしか見えないのだろうけど、これでも最強の傭兵団の団長だぞ。 ……おっと、集中しないと。
一度はバスターソードまで伸びる勢いが、少しずつ弱まり長さはペティナイフとの中間くらいのショートソード。
「化けもんだな、てめぇは」
その身体にしたのはオリエッタなんだよ! 僕だってバスターソードは扱い切れないし、大きくて逆に邪魔。
「どうです。これなら満足出来る大きさかと。もちろん練習すれば、大きさは自由自在です」
気を抜くと直ぐにバスターソードまで膨れ上がるが、集中すれば少しの間は今の大きさを維持出来るし、身体の小さなアラナにはペティナイフでも充分だろ。
「ダメだな!」
ダメ出しと共に握られるショートソード。瞬く間にライカンスロープに変身を遂げるプリシラさん。座ってる筈なのに、身長が変わらないくらい大きく黒い剛毛で覆われて行く。
無造作に咥えるショートソードは、ざらつく舌と鋭い牙の口の中へ。思わず腰が引けたが、握られている手に力が入って逃げようもない。
「……んちゅんむ。 ……やっぱり物足りねぇ。元に戻しな!」
せっかく魔力の扱いが出来る様になったのに…… だけど、物足りないなら満足するくらいにしてやるよ。僕は思うがままに凝縮をさせ、バスターソードをプリシラの口に突っ込んでやった。
無理矢理がいいんだったよな! それならバスターソードで無理矢理してやる。喉に詰まって窒息するなよ。
「ぐえっ!」
「うぎゃ!」
片や喉の奥までバスターソードを刺し込まれ、片や無理に押し込んだバスターソードが鋭い牙に当たり、バカが二人でのたうち回る。
こんな感じで帝国までの旅路です。
マクジュルの国境からアシュタールの帝都までの道のりは長く帝国の広大な領土を歩くには何処にでも行けるドアが欲しくなってくる。ドアが無い以上、毎日の輪番もやってくる。
およそ十日の道のりを毎日の輪番と戦時報酬と馬車の運転で疲れきった所でやっと帝都に着いた。ハスハント商会の会頭と会うのに不潔な姿は見せられない。宿を取って風呂に入って服も洗ってから会頭と会いたいところだ。
ハスハント商会から声を掛けられたのはマクジュルがヌーユのステフォン城に進行し殿を受け持つ時に。その前の貴族の屋敷に攻めた時から知っていたらしいけど、あの衆道に巻き込まれてなければいいね。
宿を取ったが僕は当然、個室です。もちろん輪番の為で団長職だからではありません。これから会えるハスハント商会は世界一の会社で僕達はフリーターか派遣社員くらいになるのかな。
同じトップでも比べ物がならないくらい雲の上より上の人。呼んだのはハスハント商会の方だけど会えるのか? それに予約とかアポイントはいるのだろうか。普段の仕事はギルドでやり取りするくらいだからね。
「みなさん明日、ハスハント商会に行って来ます。どのような話になるか分かりませんが、悪い話では無いでしょう」
「一人で行くのか」
「はい。そのつもりですよ」
「ハスハント商会は良い話ばかりでもないですし、護衛に一人付けた方がいいんじゃないですか」
「大丈夫でしょ。いざとなったら全力で逃げます。みなさんは自由行動で構いませんが、次の約束を守って下さい」
「めんどくせぇ」
てめぇだ、てめぇ! 貴方に言ってるんですよ。
「まず、殺さない。他人にケガをさせない。死人を甦らせない。無許可の実験をしない。これを守ってエンジョイして下さい」
大ブーイングの嵐。ですが無視します。ハスハントとの繋がりが欲しいのにハスハントのお膝元、ましてや帝都で暴れるなんて自殺行為にしか考えられない。
「帝都で暴れたら騎士団が出ますよ。帝国騎士はハリヌークやプロメリヤの騎士と比べられない位の強さですよ」
帝国騎士は規模も大きいが個人の強さも秀でている。個人戦でなら負けないけれど数で押されたら勝てる見込みはない。
「約束を守って楽しんで下さい。ここには色んな物がありますし、買い物とかどうですか。マクジュルの報酬が出たばかりで蓄えもあるでしょ」
「仕方がねぇ。団長の為にドレスの一着でも買ってやるか」
おぉぉ! なんて良いアイデア。たまに大正解を出すプリシラさんが大好きだ。
「あ、私も行きます。たまには新調してもいいですよね」
いいですね、いいですよ、ソフィアさん。なんだか他の団員もドレスに興味を持ってくれたみたいで、買い物ツアーになりそうだ。オリエッタもゴスロリ以外も着てみるといいよ。
いいねぇ~。普段は着れないけど、美しい女性に美しいドレス。帝都に来て良かった。宿屋のグレードを上げておけばよかった。
この時、僕の頭からハスハント商会の事はすっかり抜けていた。頭の中は…… ドレス姿の団員をどうやって脱がすかのみでした。
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