異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第五十九話

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 不死の王との従属化の契約。ネクロマンサーの最大の望み。
 
 
 簡単に言えば呼び出した者が、強さや賢さを証明させれば従属化が出来る。
 
 問題は証明させる方法。賢さなら大学に受かるくらいあればいいのかな。それは僕には向いてないね。強さならチート持ちの高速剣で薙ぎ倒す。
 
 物理攻撃の効かない不死の王には? 
 
 「契約をする時には術者の他にもう一人だけ魔方陣の中に入れる。本当なら俺が入るハズだったのにルフィナは一人でやっちまったんだ」
 
 なんてアホな事を。最強のネクロマンサーが一緒なら勝率も高くなるだろうに。功を焦ったか、親に頼りたくなかったか……
 
 「それで失敗……   ルフィナを魔方陣から出すのに俺の命を半分、不死の女王を冥界に帰すのに残りの殆どの命を使ったよ」
 
 ラトランド侯爵も不死では無いようだ。だいたい不死って本当に死なないのか?
 
 「不死の女王って言うのは……」
 
 「それは性別によって召喚、従属が出来るのが違うのだよ。男なら王、女のルフィナなら女王を召喚が出来るのだ。ちなみに俺は不死の王を従属させているよ」
 
 「それでルフィナの怪我はどうなんですか」
 
 「あれは女王の症気にやられている。もって後三日だろう」
 
 ……思考が停止する。三日でルフィナが死ぬのか。あの可愛くて邪悪なルフィナが居なくなる。考えられん。
 
 「……どうすれば治りますか」
 
 「方法はある。極めて簡単な方法だよ。不死の女王を殺すか従属化させれば良い。女王の浄化の魔法でルフィナは助かる」
 
 なんだよ、驚かせるなよ。殺せばいいなら簡単な事だろ。なにせ世界最強のネクロマンサーが不死の王付きでいるんだから。
 
 「ラトランド侯爵がやるのですよね」
 
 「それは無理だ。俺は魔方陣を破る時に契約も破ってしまっている。だから魔方陣の中には入れない。本当ならルフィナと代理人を立て、代理には俺の力を譲渡する形でやりたかったが、君達が俺の用意していたアンデッド達を倒してしまってね。少し困っている」
 
 僕のせいか!   無策に飛び込んだばかりにラトランド侯爵の策を潰してしまったのか。
 
 「気に病む事はない。あの程度しか用意出来ない俺のせいだよ。あれだけでは不死の女王には勝てん」
 
 「いったいどうすれば……」
 
 しばらくの沈黙の後、ラトランド侯爵が切り出した。
 
 「君がやってみてくれんか。君の常人を逸した能力と君の持っている黒刀があれば何とかなるやもしれん」
 
 「僕ですか!?   やらせてもらえるなら喜んでやります!」
 
 「なら決まりだな。明日、魔方陣を使って不死の女王を召喚する。それまでこの屋敷で休んでいたまえ」
 
 「はい、お願いします。……それと、この黒刀は役に立つのでしょうか?」
 
 「無論だ。知らずに使っていたのか?   それは名のある魔剣と見たのだが」
 
 これは魔剣だったのか。無料でもらった良く斬れる在庫品だと思っていたけど、アラナには見る目があったのかな。話が終わり僕達はルフィナの所に案内された。
 
 「話しはついたのか」
 
 「はい。明日、不死の女王を召喚して殺します」
 
 「いきなり訳のわからん話だな。ルフィナはうなされて眠っているし、何がどうなった?」
 
 僕はルフィナに付き合っていたプシリラさんとソフィアさんに有りのままを話した。ルフィナが不死の女王と一人で戦った事もラトランド侯爵が用意したアンデッドを僕達が倒してしまった事も。
 
 「話しは分かった。それで勝てるのか。相手は不死の女王だろ。世界最強のネクロマンサーが助太刀して倒すくらいの」
 
 「……倒します」
 
 「お前に出来るのかよ!?    自惚れるな!」
 
 「この黒刀は魔剣だそうです。不死の女王にも有効らしい。……必ず倒します」
 
 「そんなんじゃねぇ!   そんなんじゃねぇんだ!」
 
 プシリラさんは自分の座っていた椅子を壁に投げつけて部屋を出て行った。
 
 「プシリラさんは怒ってる訳では無いですよ。心配しているだけです。あの人はそういうのが苦手な人ですからね」
 
 「ソフィアさんは反対ですか?」
 
 「反対では無いです。反対では無いですけど……」
 
 おそらくアラナもオリエッタも同じ気持ちでいるんだろう。不死の女王を倒さなければルフィナが死ぬ。不死の女王を倒す為には世界最強のネクロマンサーの助っ人がいる。
 
 ルフィナ自身は戦えないだろう。僕が一人で不死の女王を相手にしなければならない。誰だって負けるのをイメージするよね。
 
 不死の女王には黒刀は有効だ。魔剣とは言え物理攻撃だ。どのくらい殺ればいいんだ。何回、殺せばいい。そこまで速さのチートは持つのだろうか。
 
 考えれば考えるほど不安になる。逃げる選択肢は無い。ルフィナを見捨てて逃げ出すなんて事は出来ないよ。
 
 部屋にはお香が炊かれていた。甘い香りの上等な物なのだろう。その隙間を縫うように時おり香る腐敗臭。ルフィナの体が……
 
 あの白くて冷たい肌。形の整った可愛げな胸。今は包帯の下に隠れてしまっているがルフィナをこのままに出来ないよ。
 
 「だ、団長……」
 
 不意にルフィナの声にに皆がベットの方に目を向けた。起き上がる事も無く、ただ天井を見上げている。
 
 「起こしてしまいましたか。もう少しゆっくり眠って下さい」
 
 「……話しは聞いていたである。明日、やるのであるな」
 
 「やります。ルフィナには明日、もう少し頑張ってもらいますね」
 
 「……止めてもいいである。相手は不死の女王、これは自分で撒いた種である。こうなる事も覚悟の上である」
 
 「その覚悟は明日見せて下さい。不死の女王だか知りませんが、人の女に手を出したらどうなるか思い知らせてやりますよ」
 
 「分かってないである!   父上と戦ったのなら分かるであろう。父上は死なん。それは不死の王と同一化しているからである。不死の女王とて同じである。死なんのだ団長の剣では!」
 
 少し興奮気味で話したルフィナは咳き込み、ソフィアさんが心配そうに背中をさすっていた。
 
 「ヴィンセント・ラトランド侯爵は一回殺しましたよ。殺せない事は無いんですよ。明日も同じです。任せておいて下さい」
 
 ルフィナは何も言わず背を向けて眠ってしまった。今はゆっくり休んで。
 
 

 
 夜になると僕達は部屋を割り当てられ、ソフィアさんは少しでも役に立とうとルフィナの部屋に残った。そして、僕の部屋にはノックもせず、裸の……    完全装備のプシリラさんが入って来た。
 
 「表に出な……」

 僕は黙って黒刀を持ってプシリラさんの後に続く。庭らしい広い場所に着くとプシリラさんは鞘からバスターソードを取り出した。
 
 分かってるよプシリラさん。明日の事を考えているんだろう。明日、僕が戦えば死ぬかもしれない。戦えなければルフィナが死ぬ。天秤にかけたんだね。
 
 僕に怪我でも負わせて戦えない様にしたいんだろう。それはルフィナを諦めるって事だ。僕を生かす為にルフィナを殺す。どちらに対しても裏切りに取られる。僕を生かそうとしてもだ。
 
 「プシリラさん、必要は無いですよ。明日は僕達が勝って終わり……」
 
 「喋るな!   ……これしか思いつかなかったんだ」
 
 不器用で、ただ不器用なプシリラさん。せめて剣で答えよう。

 黒刀を抜く。
 安物の在庫品だと思っていたのに……
 
 黒刀を構える。
 こうしてプシリラさんと打ち合うのは何回目だろう……
 
 プシリラを斬る。
 プシリラさんに僕の姿は見えただろうか。
 
 
 プシリラさんの横を通り抜け首を斬る寸前で返した黒刀。プシリラさんには自分の首が落ちたと思った事だろう。
 
 「必ず生きて帰って来いよ……」
 
 
 僕は黙って黒刀を納めた。
 
 
 
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