異世界に来たって楽じゃない

コウ

文字の大きさ
81 / 292

第八十一話

しおりを挟む
 
 戦闘が終ったのは白百合団の四人だけ。イザベル嬢が率いる第六騎士団はリザードマンと絶賛戦闘中。
 
 
 「二人とも落ち着いて下さい。戦時報酬は後でしましょう。まだイザベル様が戦ってるんですよ。救援に向かわないと」
 
 「いらねぇ……」
 
 要らないって戦時報酬の話じゃないよな。お前、馬鹿じゃないの。突撃したの知ってるだろ。防護柵に五十、伏兵で五十、こちらは騎士の五十と騎兵の百だぞ。勝つには森に入った騎士達が早く合流するか僕達が行かないと全滅さえしかねない。
 
 「ミカエルが何でイザベルと寝ていても文句を言わねぇのは何故だと思う」
 
 何でそっちの話になるの?   でも、そう言われてみれば……    むしろ寝て来いって言われたぐらいだ。ありがたい話だけど考えてみたら不思議だ。特にソフィアさんからは何も言われて無いし、レーザーも飛んで来てない。
 
 「イザベルは戦士だからだよ。あたいらが認めた戦士だ。戦士である以上、死ぬのは覚悟の上だ」
 
 まったく。プリシラさんの思っている事は一言違いますよ。「死ぬ」では無く「怪我」じゃないんですか。演習場で見せたイザベル嬢に対するサムナー家の命懸けの忠誠。あれを見て無かったら助けに行ったかな?    もしかして自分の欲望を優先させたとかじゃ無いでしょうね。
 
 「クリスティン!」
 
 プリシラさんが叫ぶと、来た来た心臓発作、今回も中々の強さで。これで組伏せられてる僕は神速もまともに出せないのよ。
 
 「……団長」
 
 「ご、ごふっ。クリスティンさん、も、もう少し緩めてくれると助かるのですが……」
 
 今までの心臓発作より強い。心臓が破裂しそうだ。爆破に近いくらいだけど、レベルアップとかあるのか。
 
 「……団長、今この手の中に団長の心臓を感じます。こうやってほら……」
 
 クリスティンさんが両手の中で何かを揉んで押し潰す様な仕草をすると僕の心臓が圧縮される様な締め付けを感じたんだ。爆破の逆、クリスティンは心臓圧縮を覚えた……   って、ゲームじゃねぇよ。
 
 爆破は押さえ付けての心臓マッサージだったけど今度は心臓を広げてのマッサージ。簡単に対応出来るもんじゃない。
 
 「ぐっ、ぐぅぅ」
 
 「……あら、ごめんなさい」
 
 ゴメンじゃねぇよ、死ぬだろマジで!    だが、ヒーローがピンチの時に助けがやって来るのはお約束だ。
 
 「ソフィアさん助けて……」
 
 ドロンの操作の為に残しておいたソフィアさんがやって来た。こちらのリザードマンを心配しての事だろう。安心して下さい、片付けましたから。僕が伸ばした左手をソフィアさんは手を取ってプラチナレーザーで切り落とした。
 
 「えっ?」
 
 「この左手は悪戯な左手ですからね。少しお邪魔です」
 
 ニコッと笑うソフィアさんの笑顔は天使にだって負けはしない。その笑顔と共に左手から血が吹き出す。生身まで切らないで。
 
 「あらあら、大変。■■■■、癒し」
 
 たちまち血が止まり欠けた肉も無くした所まで再生した。これ以上、短くしないで下さい。出来れば折られた、あばら骨と口の中も……   白百合団のお約束ってこんなもんだ。
 
 「さあ、始めようぜ!」
 
 最近、僕に対する扱いが雑になってる気がする。もう少し愛を感じる様にしませんか。僕は皆さんを愛してますよ。心から……    誰よりも……
 
 
 
 戦時報酬を払い終わったのはイザベル嬢の戦闘の音が静かになってから、暫くたってからだった。疲れた……    
 
 少し遠くを見渡せばリザードマンの死体の山。良くこんな中で報酬を払ったものだ。生きているリザードマンさんはいませんか?    ソフィアさんの火葬を免れて生きているリザードマンは?
 
 倒れている僕に手を貸してくれたのはダークエルフの影、レイナちゃんだ。細い腕に似使わない革鎧。こんなにも優しい娘を影にしてしまったなんて……    ラッキー!
 
 僕をご主人様と慕うだけあって心配してくれたのだろう。僕の見る目が潤んでいる。やっぱりこれだよなぁ、これ。他の皆は報酬もらったらさっさと帰って行った。最後のクリスティンさんには「……後で」と、言って打ち捨てられてしまいました。
 
 それを拾ってくれたのがレイナちゃん。優しいわ~、影にしておくのが勿体ない。    ……もしかして戦時報酬が欲しいからじゃないよね。
 
 僕を棄てていったヤツらの所に行くと、僕の心配よりレイナちゃんの品定めが始まった。と、言うより罵詈雑言。「クソ」だの「死ね」だの僕を殺そうとした事が余程、気に入らなかったみたいだ。
 
 まあ、ほとんど一人の発言だったけどね。最後にはレイナちゃんから「それでもミカエル様を愛しているんです」と爆弾発言に場が凍りついて火を吹いた。僕の方へ。
 
 「どういう事だ!   腐れ野郎!」
 
 それはこっちが聞きたい。奴隷にするって話で愛人とかじゃない。手だって出して無い!    ……いや、ちょっと助けてもらった時に手が滑ったけれど、それだけだ!    愛人の話は、ルフィナやオリエッタに聞いてくれ。
 
 「まだまだ元気そうだな」
 
 天の助け、イザベル様。    ……助けてくれるんですよね?    油を注ぎに来たなら帰って下さい。
 
 「後にしな、イザベル」
 
 「いや、こちらを先にしてもらう。殺されてからでは話も出来ん」
 
 僕は死ぬ前提ですか。何はともあれ怪我で済んで良かったです。イザベル嬢が突撃したリザードマン達は重騎兵を止めるだけの力を持っていた。第六騎士団は止められた突撃を自分の命を省みずイザベル嬢を守る為に槍を振う。重騎兵の大半は敗れ、軽騎兵でさえも戦線に加わり多数の死傷者を出した。
 
 それを見ていた防護柵の騎士達も持ち場を離れイザベル嬢を助ける為に湖側に反転。こちらもかなりの死傷者が出ている。乱戦になった頃、森を進軍していた騎士が参戦しリザードマンを鎮圧する事が出来た。
 
 多数の死傷者を出したが、リザードマンの討伐には成功と言えるだろう。怪我人は魔法で癒えるものが多数を占め、それでも駄目な者は帝都に送られ高位魔法で治るだろう。
 
 死者も出ているが無傷で済むとは誰も思っていない。戦争してるのだから当然だ。逃げ出したリザードマンもいつか帰って来るかもしれないが、働き手である男が戦死した今は生活もままならないはずだ。
 
 後でハスハント商会に言って食料でも別けてやろう。そのまま遠くに行ってくれたら更にいい。水質の汚染も時間をかければ元に戻るみたいだ。
 
 第六騎士団は今後、教導団に組み換えが決まっている。今日の戦闘が活かされれば屈強な帝国騎士団が出来上がるだろう。
 
 イザベル嬢の戦争は終わった。教導団の団長として帝国騎士団を教え導く生き方に満足はしてないだろうが、武門のサムナー家の名前は消える事はない。
 
 これほどの激戦を生き抜いて、得る物があっただろうか。だが、僕はイザベル嬢が女としての幸せを掴み取って欲しいと願わずにはいられない。
 
 
 「話は終わったな、次は……」
 
 僕の戦争はまだ終わらない様です。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...