異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第九十三話

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 男のロマン。これがなければ生きてはいけない、かもしれない。
 
 
 あの後、着エロの完成する毎に事を成し、成せば成すほどワンピースの面積は小さくなり、僕は満足していった。
 
 もちろん、単に面積を小さくしただけでは無い。僕の芸術的な感性が発揮した、最高傑作を作ったと自画自賛しよう。出来る事なら写真を一万枚くらい撮って、パソコンに保存しておきたいくらいだ。
 
 その後、後ろから抱き付かれながら寝るに至って、明日の牛追い祭りの事をやっと思い出した。このまま首の骨を折られるんじゃないかと寝ることが出来なかったが、モデルさんが疲れて眠ってしまったので、事なきを得た。
 
 僕達はアラナの操車でジビル村まで向かった。今日の僕の意気込みは違う。最近、及び昨日の事で大変な寝不足に陥ってはいるが、気分は晴れている。もちろん昨日のプリシラさんのご褒美は特別に僕の士気を上げた。
 
 プリシラさんは正々堂々と戦ってくれるのだろう、朝までドキドキして疑っていた自分が恥ずかしい。こんな事なら普通に、いつも以上に楽しめば良かった。
 
 ジビル村に着く頃に不思議に思った事があったのでアラナに聞いてみた。
 
 「アラナ、牛が追い掛けるコースはどうなってるの?    それらしい柵もないのですが」
 
 「今は牛追いはしてないッス。村が壊されたりして危ないッスから」
 
 「えっ!?」
 
 アラナの話だと牛追い祭りは成人の儀式の一環で、昔は成人を迎える人が勇気を示すために牛に捕まらない様に逃げていたそうな。最後に闘牛場で大人と一緒に牛を倒していたそうだが、今では危険だと言うので牛追いは無しで闘牛場だけになった。
 
 てっきり福男的な一番早い人を決める祭りだと思っていたのに、掲示板を見ておけばよかったよ。そうすれば昨日の夜はとても有意義になったのに。
 
 仕方がないから、せめて闘牛場でカッコいい所を見せよう。なんでも武器の持ち込みは禁止だが武器自体は闘牛場の柵に掛けてあるそうだ。たかが牛ならナイフ一本で充分。ささっと片付けて祝福のキスをもらおう。
 
 頭を切り替えて僕達は受付から闘牛場の控え場所に行った。控え場所には冒険者が百人ほど。これは多過ぎだよ。賞品に牛の魔石があるから冒険者の参加が多いんだろうけど、こんなにいたら僕が倒す分が無くなる。
 
 僕は控え場所を抜け出して牛を見に行く事にした。出来るだけ小さく倒しやすいのを見付けておこうかと。これはズルではない、戦略的情報収集だ。……牛追い祭りの委員の一人だし、アラナに聞いてみよ。
 
 アラナに連れられて牛がいる所に行ったが見当たらず、二人の亜人が水遊びをしているだけ。
 
 「これッス」
 「これが?」
 「牛ッス」
 「あれは?   あそこで草を食べてる角のあるの」
 「ウ・シ、ッス」
 「これは?」
 「牛ッス」
 
 これは牛ではありません。こんな牛はいない!   これはどうみても「サイ」だろ。日本人の百人中、百人がサイって答えるよ。 体長は黒炎竜より無いが体高は三メートルを越えてる。宅配便のトラックに角が着いたものだ。
 
 「あのサイに水をかけている人は……」
 
 「牛ッスよ。こいつは水をかけてやると眠るんッス。本番まで寝かしておいて、始まったら火を付けて起こすんッス。凄いッスよ」
 
 確かに寝起きに火を付けられたら誰だって凄い事になるんだろうね。考えたくもない。
 
 僕は見るものを見たのでアラナと別れて控え場所に戻った。戻りながらも考えた、福男は諦めようと。それにあのサイをここにいる百人で倒せるのか。
 
 武器はあるみたいだけど……   だから皆、鎧を付けて来てたのか!?   なんで重くなる鎧を付けているのか不思議だったけど相手が牛じゃなくてサイなら納得。でも宅配トラックの突撃を鎧程度で防げるだろうか。
 
 「プリシラさん、驚きの事実が判明したんです!」
 
 「ん?    どうした」
 
 「なんと相手がサイなんですよ!」
 
 「サイってなんだ?   相手は牛だろ」
 
 そうだった、この世界にサイなんているのかな。僕は見て来た事を全て話すとプリシラさんは呆れてた。
 
 「牛追い祭りなんだから当たり前だろ」
 
 そうですよね。いつも見慣れて牛乳や乳製品を作るのは「ウ・シ」で僕にとってサイなのが「牛」でしものね。神のヤロー、動物図鑑を書き換えやがった。
 
 僕達は程なくして闘牛場と言う名の死刑場に連れ出された。柵には沢山の武器があった。小さなナイフから槍やバスターソードまで。その中に大鎌があったが、あれは取らないでおこう。
 
 やがてフラフラと寝ぼけているように牛と言う名のサイが……   角の付いた宅配トラックが入ってくる。百人も入る闘牛場が一気に狭くなった。
 
 最後に水を大量にかけるとバタリと前足を折り曲げて寝てしまった宅配トラックは、寝息をたてて僕達と一緒に開会式にいた。
 
 開会式に何を話たかなんて聞いてない。僕はそいつから目を離せなかったからだ。隣のプリシラさんはアクビをしてるのを見て、少しだけ周りを見渡すゆとりが出たよ。
 
 周りの人を見ると僕と同じように牛を見いっている人や武器を取ろうとしている人、もう逃げ出す準備をしている人と様々だった。
 
 どうすればいいのか。逃げたりしたらアラナになんて思われるだろう。祝福のキスをもらうには倒すしかない。心の奥底に野望を抱き僕はこの闘牛の前に立った。もちろん後ろの方でね。前は怖いし。
 
 最後にかけたのは油だったらしくスタートの合図と共に闘牛が燃え上がり、起き出した闘牛は激しく体を地面に擦り付け火を消そうとしている。
 
 火だるまになって暴れる闘牛には誰も近寄れず、火が消え地響きを立てながら起き上がった闘牛は僕達を敵と認識したのだろう、激しく足で地面を蹴り今にも襲いかかろうと……    来た!
 
 前にいた者は押さえ付けようと考えていたのか武器を持たず後ろの方は武器を取りに行った。反応が遅かったな者から飛ばされ、角で串刺しになった者さえいる。
 
 観客からの大歓声が闘牛場を包むが、これは洒落にならないですよ。串刺しになった者は闘牛の頭を真っ赤に染めるほど血を流し、今だに串刺しのままだ。
 
 闘牛がブルッと頭を振ると串刺し男が柵の方まで飛ばされ体をピクピクさせて、観客が興奮の雄叫びをあげている。これって変じゃないのか?   ここはコロシアムか!?    殺られる側の。
 
 観客の興奮の中を見てみるとソフィアさん達が見えた。ソフィアさんもこちらに気付いたのか、大きく手を振りルフィナは血まみれの男を見ている。そんな男の血よりこっちを見てくれよ。クリスティンさんの側には男が二人倒れている。殺さないでね。
 
 闘牛場の男達は手に手に武器を持ち闘牛を襲い始めた。闘牛も暴れる様に駆け回り冒険者達を吹き飛ばし、踏みつけ、串刺しにしていった。
 
 プリシラさんは今だに頭の後ろで手を組んで面白くなさそうにしている。これマジにやんないと死にますよ。
 
 僕は何か武器は無いかと柵の方を見てみるが残っている物も無く、足元に落ちている子供用のフォークを拾った。これで何をしろと……
 
 
 僕は子供用のフォークを手に闘牛の前に躍り出る。アラナにカッコいい所を見せないと。
 
 それとあれは「牛」じゃない!   絶対に「サイ」だ!
 
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