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第九十二話
しおりを挟む魔石収集七日目。
本日、天気晴朗なれど起伏高し。日付の感覚が無くなる寝不足。僕達は魔石の収集を終らせ帰路に付いている。木々の間を抜け岩を飛び越し進む僕は寝ながらでも歩ける事に気づいた。
「このまま森を出るんですか」
勿論、起きている時に聞いた。
「ああ、夕方まで歩けば森を出れる。そのままジビル村まで行って楽しもう。今は牛追い祭りの日だからな」
牛追いとは、もしかして言葉通りに牛に追い掛けられるあれか!? 一度、見てみたかったんだよね。狭い石畳の路地を全力疾走する牛から逃げる人。
確か闘牛場まで逃げるんだったかな。一位に入れば賞金とかあるのかな。今の僕なら神速を使えば一位になれるじゃないか。走って逃げて一位になって福男になろう。
それにジビル村ならアラナの故郷じゃないか。アラナの見ている前でカッコいい所を見せるのも悪くない。よし! 一般参加が出来れば一位を取ってアラナから祝福のキスをもらおう。
不純な動機に目を輝かせ足取りも軽くなった。軽くなった足取りは皆を引っ張り昼を大きく越えるくらいでジビル村に着いた。やる気が体を動かすね。
隊長からは明日の牛追いを見てからコアトテミテスの街に帰る事を告げられ、それまでは自由に祭りを楽しむ事になった。
白百合団は僕とプリシラさんが参加を希望し他の三人は見学する。魔法使いの参加は禁止でクリスティンさんは見てみたいと。確かに魔法で空を飛ぶ人もいるし、クリスティンさんは危険を感じなくても敵意を向けられただけで不幸にも心臓麻痺が発動するから出ない方がいいね。
僕達は参加が出来るか受付に、三人はアラナを探しに行った。村はそれほど大きくはなかったが村の中央には柵が円形に作られて闘牛場らしくなっていた。
賑やかな雰囲気と出店が祭りを盛り上げ、牛追い祭りに参加するであろう冒険者らしき男達も多かった。
「牛を追いかければいいのかぁ」
「いえ、たぶん牛から逃げるだと思いますよ」
「それなら牛逃げ祭りだろ」
確かにそうも取れるけど、牛が追い掛けるから牛追いかと…… 何で逃げなければならないのか、疑問に思いながらも受付に着いた。
「一般参加とかありますか?」
受付の猫の亜人のおじさんが対応してくれた。たぶん「おじさん」、年令不肖と言ったところか。毛並みのいい、でっぷりとした猫の亜人のおじさんは、コロコロとした声で教えてくれた。
「大丈夫ですよ。お二人で参加ですか?」
すまん、「おばさん」だったか。見慣れない猫の亜人は歳も性別も僕には区別が付かなかった。アラナには太らないでもらおう。
僕達は受付を済ませて競技内容の書かれた掲示板を見ようとしたが、「なんか食おうぜ」のプリシラさんの一言で、いい匂いに誘われる事にした。ちょっとしたデートみたいで嬉しいね。
ソフィアさん達は、祭りの委員になっていたアラナを見つけ待ち合わせ場所に先に着いていた。アラナは僕に会えたのが嬉しいのかすぐに抱き付いて来たが、全力で抱き付いてくるのは痛いのでほどほどに。
今日は村から少し離れたアラナの農場に泊まらせてもらう事になり、ご両親様とのご挨拶にガチガチに固まった僕を後ろから笑うのは止めてね。
正直なところ、どう挨拶をしていいのかと迷っていた。「お嬢さんは戦場で大活躍をしています」「お嬢さんとは輪番でお世話になってます」なんて言える訳ねぇじゃん。
輪番はともかく傭兵になった事を知っているアラナの父上は「若いうちに人の五人や十人、殺さないでどうする。ガッハッハッハ」との事に返答に困り、母上は「ふふふっ」と見透かされてる様に笑っていた。
さすがに全員が泊まれる部屋も無く僕達は納屋を貸してもらった。アラナは部屋にと言ってくれたが今日の輪番はプリシラさんですから。
ここまで来て、ヤバい事を思い付いてしまった!? 明日の牛追い祭りにプリシラさんも出る事を。ただ出るならいいんだ。僕の神速を使えば負ける事はない。
そうなると勝てないプリシラさんはどうするか。
答は簡単でしたね。「邪魔する者は殲滅する」が団則であるくらいだから、勝つのに邪魔する僕は殲滅される。
ヤバいぞ。本当にヤバいぞ。あの人は簡単に鎖骨を折ったりする人だ。明日の勝利の為なら僕を殺しかねない。さすがに殺す事は無いだろうけど足の骨くらいは覚悟しないと。
プリシラさんはあえて防音テントで待ってると言っていた。あの狭さでは僕の神速は殺される。行くのを止めてアラナの部屋に潜り込もうか…… ダメだ、部屋まで乗り込んでくるのは必定。
野宿はどうだ。でも寝込みを襲われたら…… どうする。どうすればいい。このピンチを打開する方法は……
僕はあえて防音テントなの進む道を選んだ。無謀だって? そんな事は無い、殺られる前に殺ってやる。僕は覚悟を決めてテントの前まで来た。
別に入るのが怖い訳じゃない。ここで少し息を整えて呼吸をする。入ったらチャンスを見て殺る。入ったらチャンスを見てヤる。
「プリシラさん入りますよ」
だぁー! 防音テントが外からの音が聞こえる訳ねぇじゃん。焦るな、焦るなと自分に言い聞かせる。呼吸を整えて「フッー」と最後に息を吐く。
行くぞ! 勝負だ。覚悟を決めろ。
僕が防音テントのファスナーを開けて中に入ると、そこには衝撃的ものが目に飛び込んで来た!
「おう、遅かったな早く入れよ」
プリシラさんです。プリシラさんなんですけど! 違うんです。着ている服が! プリシラさんは上等とは言えないけれど木綿の薄手の生地で作られたワンピースだった!
あのドレス姿の時よりの衝撃が目に入った。ワンピースの色は白く、少し薄手で体のラインが分かるほどピッタリと肌についていた。
僕は思わず殺るが、ヤるに変わってしまった事を反省し警戒を怠らずにプリシラさんの側に座った。ヤバいくらいのいい香り。
騙されるな! これはプリシラの戦略に違いない。僕を油断させておいて後から刺すつもりなんだ。足を守れ。骨を守れ。明日は福男になってアラナからの祝福のキスをもらうんだ。
「お前、今回は頑張っていたからな。褒美だよ」
褒美だと! これが褒美だと! なんでもっと頑張らなかったんだ、悔やんでも悔やみきれない。
悔しさのあまり目を離した。その隙を突くようにプリシラはナイフを降り下ろす。ヤバい殺られる!? 僕は思わず目を閉じ歯をくいしばって神速を出す事も出来なかった。
……あれ、痛くない。即死すると痛みもないのか。それに、何だこの音。ビリビリ?
僕はゆっくりと怖いから片方づつ目を開けるとプリシラさんがワンピースの足首まであった裾を切り裂いていた。
リカイデキマセン。
「プリシラさん……」
「お前、こんなのが好きだったよな。チャクマロとか言ったか。まあ、褒美だよ。後は好きにしな」
チャクマロ? それは「着エロ」の事か。どういう事だ? それに斬られる事も刺される事も無く、僕の手に渡されたこのナイフは。
こ、これはもしかして…… 切っていいのか……
着エロの為に防音テントやワンピースやナイフを用意してくれたのか…… いや、待てよ。ナイフはヤバそうだろ。正当防衛で反撃されても文句は言えない。
プリシラさんは両腕を後ろで立て、胸を強調する様に足を伸ばして座っている。無防備だ。このまま刺すも切るも着エロにするのも僕の自由だ。
さっきプリシラさんは裾を切っていた。それではダメだ。縦にスリットが入るように切らなければ。しかし深く入れてもダメだ。この微妙な切り口がプリシラさんの足の魅力をアップするんだ。
……ヤバい、いつの間にか切ってたぞ。プリシラさんはポーズを取ったままか。危ないところだった。こっちを見詰めている、隙を探しているのか。
危ないところだったぜ。鎖骨を折られたりしたら…… もう少し鎖骨が見えた方がいい。ここを少し切って…… 切りすぎたか。バランスが悪い。反対側を切るも一つの手だが……
……ヤバい、また引っかかるところだったか。
「終わったのか」
まだだよ。まだもう少し……
その後、一時間を掛けて完成したアート作品に僕は大満足をした。次の日の牛追い祭りで衝撃な事実も知らずに。
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