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第九十一話
しおりを挟む黒炎竜の解体、楽しいな。
真っ二つになった解体、楽しいな。
あぁ、楽しいな、涙が出るくらい……
魔石収集六日目。
呆気に取られた黒炎竜の最後に誰もが静かに見守り、歓喜に包まれる事も無く厳かに解体が始まった。僕も参加した。体を動かして辛いことを忘れるかの様に。
「これで終わりですか? マジックポーチには入り切らなかったですね」
「仕方がないさ。魔石は取ったし高値で売れそうな所も取ったからね。今回は大収穫さ」
ダン隊長は少し顔をしかめながら言った。それは僕達のせいでしょうか。最後のトリをアッサリ、バッサリ取ってしまって、ご免なさい。
僕もあんな風にエンドロールが流れるとは思いませんでしたよ。余りにもあっけなく終わってしまって、それまでの苦労を考えると…… ご免なさい。
僕達の解体は朝方まで続き黒炎竜の肉の大部分を置いていく事にした。この残った肉を狙うのがいるとの事で、多少移動してからの遅い朝食を取った。
皆が疲れている、解体で。少し休みたい、だが白百合団は見張りに立て! お前ら「気持ち悪いぃ」とか言って遊んでただろうが。冒険者は狩れば終わりじゃない、その後の事もしっかりやっての冒険者だ! 少しは見習え。
だが、昨日の輪番がオリエッタで良かった。今日は居ないから。居たら絶対に今からでも輪番になるだろう。今日は輪番の休みだ、僕の日だ。ゆっくりしよう、星を見よう。この大森林の木々の間からでも星が見える。この世界に来て唯一の趣味だから……
そんな事、出来る訳ねぇじゃん。誰だと思ってるの!? 天下の白百合団だよ! 最強、最悪の殲滅旅団だ。僕は狙われていたんだ、白百合団以外の四人の刺客に。
僕の見張り時間が終わる頃に…… ほとんど僕だけが見張りをしていると出発の合図がでた。時間は昼過ぎ、これから日が暮れるまで歩いてキャンプをする予定になっている。
もう何も出ないで欲しい。寝てないんだよ。夜になれば寝れる星も見たいけど寝たい。もう魔石収集も充分で帰るだけだし、夜の見張りはやるとしても少しは寝たい。
夜のキャンプは穏やかな時間だった。みんなが今回の収集で反省や活躍ぶりを話し、隊長や副隊長、白薔薇団や白百合団の事を話あった。食事が終わったら団長の強権を発しても寝るべきだった。
「シン男爵はヌーユで大活躍されたみたいだな」
白薔薇団、団長のローズさんが隣に座って来た。そう言われて悪い気はしない。多少の誇張は仕方がないけど、女の子に言われて悪い気はしない。リースさんの様に可愛ければなお良いのに。
「ヌーユでプリシラと最後まで殿を守ったって。二人で敵地から脱出したって」
「白百合団みんなで守りましたよ。僕達は逃げ遅れただけですよ」
懐かしい話だ。ちょっと前の事のようだけど色々あったからなぁ。ハイダ男爵とアウレリア嬢は元気だろうか。僕は懐かしさをエールと共に飲み込ん……
「ぐぇっふ、い、今なんと……」
衝撃的な言葉に懐かしさもエールも吹き出す。
「あぁ、だからプリシラと脱出してる時もヤりまくったって」
何故にそれをシッテマスカ。白百合団以外は知らないはずなのに…… プリシラ! 喋ったな!
この中で喋る人なんて、お前しかいないんだよ。ルフィナは話そうだけど、お前だろ。こっちを見ろ、目線を外してんじゃねぇ。
「そ、それは少し誤解が混ざってるかもしれません…… ヤりまくったと言うのは語弊があるのでは……」
「プリシラが言ってたぞ。最高だったって」
いつか殺す! ヤりまくって殺す! こういう事は人様に言うもんじゃないんだよ。何で言った! 恥ずかしいだろうが。
「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」
減るんだよプライドが! 減らなきゃ何をしてもいいのか!? それなら乳を揉ませろ減るどころか増やしてやる。
僕の事を察して言った言葉だろうがいつかヤってやる。ヤってやるぞーと、それは、置いといて。いきなり戦いの話から飛ぶんだね。やっぱり興味ありかな。でもこんな話しは女の子だけでするものかと。
「物は試しに、うちらとヤってみないか」
こいつ、クリスティンか! 僕の心臓を止める気か! 話がどこまで飛ぶんだよ。何が「試し」だよ。プリシラさんに殺されるぞ。
「頑張ってこい!」
プリシラさんが言いました。
プリシラさんが頑張ってこいと、言いました。
何を頑張るんだよ。頑張る意味が分かってんのか!? 白薔薇団を相手にバスターソードを振るうって事だぞ。いや、別にバスターソードじゃなくてもいいんだけど、そういう事だぞ!
「プリシラさんどうしたんですか」
聞きたくなるだろ。おかしいだろ。変だろ。これはテストか!? 「イエス」と答えたら殺すんだろ。分かったぞ! 騙されるものか!
「まぁ、なんだ…… あたいもミカエルが来るまではこんな問題が白百合団にもあったんだよ。団長も楽じゃないぜ」
ローズさんが言うには、女だけのパーティーもそれなりに処理をするらしい。男を見つければ容易く解決するけれど、言い寄る男はロクデナシが多くて大変だと言う。それに女だけでもねぇ、と……
「それで僕に白羽の矢がブスっと刺さったと……」
「まぁ、頑張ってこい」
確かに初日に手を切り落とされた残念君の様な人は勘弁したいだろうが、僕ならいいのか。僕の様な色男はそうそう居ないけど。
この手の問題で一番最初に斬りかかるのはプリシラさんだと思っていたのに何故だ…… って分かった気がする。この白薔薇団と一緒に戦って戦士と認めたんでしょ。それに同じ団長だった時の苦労話なんかして意気投合したとかだろ。
しかし残念だったねプリシラさん。この手の問題でダークエルフに手を出そうとしただけで撃ってきた人がいるんですよ。さあ、ソフィアさんその凶悪さを張り切ってどうぞ。
「頑張ってきて下さいね。バスターソードはほどほどに」
お前もかソフィア! お前も丸め込まれたのか。黒炎竜の様にバッサリか!
まだだ! まだ諦めんぞ!
「血さえ抜かなければ好きにするである」
いい加減にそこから離れろ!
「……」
はい。
満場一致でバッサリです。異論の余地無し、弁護の余地無し。僕の意見を聞く人も無し。
このままでも良いのだろうか。段々とそれが正しいように思えてきた。そうだ正しいんだ! 僕の力が必要とされているんだ。さぁ一歩踏み出そう恐れる事はない。許可済みだしね。
ただ、もう一つ。もう一つだけ、最後の切り札を。
「隊長、副隊長もご一緒しませんか」
若い女を抱けるなんてお金を払わなければ出来ないだろう。それを今、抱けるんだぞ。男なら躊躇うな。いけ! 「イエス」と答えるんだ。
「お、俺達か……」
二人とも急に話を振られて驚いて顔を見合わせているけど、考えちゃうダメだ。流れに身を任せろ。貴方達はそんなに悪くない。嫌、いい男と言ってもいい。来い! 女体の楽園が待ってるぞ。
「俺達は俺達でやってるから気にしなくていいぞ。そうだろう」
「若い者どうしで頑張ってきてね」
……お二人はそういう関係ですか。
「じゃあ、いいなプリシラ」
「あぁ、死んで来いローズ」
バスターソードでも倒しきれなかったのは、僕が疲れていたからか。それとも彼女達が……
見えた星は明けの明星。
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