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第九十話
しおりを挟む魔石収集五日目。
前夜の事…… あぁ思い出したくないね。骸骨との愛し方のマニュアルが欲しいくらいだ。
僕達はこの収集の最終目的地にしてある森の中の、名も無い池に着いた。周囲が二、三十メートルくらいか、水は透明で底の方で湧いているのが見えるくらいだ。
ここで水を飲みに来た魔物を狩る。池から少し離れるが、池見える位置に陣取り魔物が来るまで交代で見張り、待機する。
見張りも最初はいいが、いつ来ると分からない魔物を待つのも退屈だ。待機の時にはリースさんが昨日のお礼を言いに来た。斬られて意識が無くなりそうな中で必死に血の跡を残したもののビックレッドキャップを見て死を覚悟したそうだ。それを助けたんだ、惚れてくれ。
今はソフィアさんの回復魔法で治り「肩凝りも治った」と言っている。ソフィアさんの魔法って万能なのね。
白薔薇団は団長のローズさんを筆頭に二年くらいパーティーを組んでる様で、女ならではの苦労話も聞けて白百合団も僕が入る前は同じだったのかと考えさせられた。
やっぱり他のパーティーとの交流はいいね。今回はたまたま女性のパーティーだったけど今度は男性のパーティーと組んでみるのも考えよう。
五日目の魔物は夜に来た。重い体を引きずる様な一歩ごとに地響きをたて。
「来たぞ、黒炎竜だ」
嫌な思い出が頭の中を駆け巡る。確か凄く硬くて刃が弾かれた。火も吹くしで、やっとお腹の鱗の無い所を切って殺したんだよな。足の骨は折るし、折っているのにアラナは乗るしで帰りも大変だった。
僕はショートソードが無い。昨日のレッドキャプ戦で折ってしまったから。予備の武器は防音テントを運んだので無い。そんなに必要なのか防音テントは!?
仕方がないけどオリエッタ製のナイフを取りだした。皆も武器を構えていたが白百合団は涼しい顔と退屈そうな顔。
「シン男爵は黒炎竜は初めてですか。あいつは火を吐くのですが水を飲むと当分は吐けんのです。今は水を飲むのを待ちましょう」
ダン隊長は黒炎竜の弱点を知っているようだ。それなら硬い鱗の対策もあるのだろうか。周りが火災になっても持ち堪え、神速で斬りつけても耐えられる鱗はどうする。
「みんな聞いてくれ、黒炎竜が水を飲んだらニコールが水の魔法を使う。ヤツは巣穴に戻るだろうから、そこを水攻めにして狩り取る」
「黒炎竜はかなり硬いと思うのですが」
「それなら大丈夫だ。ヤツの鱗は水に浸されると、途端に柔らかくなる。それで剣も突き立てられる」
そんな裏ワザがあったのか。あの時、知っていればと悔やまれるが、さすが冒険者だ。相手の弱点を熟知してそこを突く。きっとセオリー通りの方法なんだろうけど力任せの傭兵とは違うね。
それだけに残念だ。冒険者は相手に対して弱点を突き、それに対する応用力もある。だが戦争になれば大局的な弱点は有っても集団の前では個人的な弱点など皆無だろう。戦争で必要なのは個人の弱点を突く力よりも集団が生き物の様に動く事。冒険者に出来るのだろうか。
「飲んだぞ。ニコール、魔法だ!」
ダン隊長の指示の元、ニコールはウォーターボールを撃ち込んだ。いきなりの攻撃と水を嫌った黒炎竜は大きな巨体を揺らしながら足早に去っていく。
「追うぞ!」
ダン隊長の号令一下、手に武器を取り黒炎竜を追いかけた。ただし追い付かない様に気取られないように静かに追いかけた。
あれだけの巨体を見失う事も無く、土を掘るような音を最後に森は静けさに包まれる。
「これからどうするんですか」
僕はこれからのハンティングに興味を持っていた。あれだけ苦労した黒炎竜を追い込んでいる。勝つための算段も出来ているのだろう。
「これからニコールには巣穴の上から水を撒いてもらう。土を浸透し黒炎竜が濡れるまでだ。弱った黒炎竜は火も吹けんだろうから出てきた所を一気に殺る」
段取りも決まってニコールは巣穴の上で水を撒いてる。撒いてるって言い方は優しいが、黒炎竜を弱体化させる重要な仕事で水の魔法を使える人はニコールしかいない。
巣穴を水で崩さない様にゆっくりと、ただし人がいるのを気付かせない様に早く。外から巣穴の中が雨のように滴るまで一時間を要した。ダン隊長がニコールを呼び戻して僕達は最後の狩りの段取りを打ち合わせる。
「この後、ニコールが巣穴に直接ウォーターボールを放つ。これで黒炎竜が巣穴から出て来るだろう。そこを全員で狩る。先頭は俺、白百合は右翼、白薔薇は左翼だ。ニコールはポーションを飲んでおけ、飲み終わったら行くぞ!」
ここからは僕達の出番だ。ニコールの頑張りに報わないと。武器がナイフなのが心許ないがオリエッタ製だ。耐久力なら黒刀にも負けない。
ニコールがポーションを飲み終わり、魔力が充実したのか顔付きまで変わって来ている様に見える。巨大なウォーターボールを黒炎竜の巣穴に放つとヤツは鼓膜が破れそうな程の唸り声を上げてやって来た。
黒炎竜の鱗は見た目では変わったように見えない。本当に剣が鱗を貫通して肉まで届くのだろうか。プリシラさんやローズさんのバスターソードならかなり深いところまで突き立てられるし、プリシラさんのパワーなら足の一本くらい斬れるか。
時間を掛ければクリスティンさんの心臓爆破も出来るはずだ。これだけの人がいるんだ、負ける要素は無い!
「うるさい唸り声ですね。■■■■、プラチナレーザー」
僕を狙ったのじゃないかと思えるくらいの近距離を通り過ぎるプラチナ色のソフィアさんのレーザー。その一撃が黒炎竜を意図も容易く真っ二つにした。
「えっ!?」
おい!おい!おい!おい!
ちょっと待てー! いきなりの事にみんな呆けてしまったじゃないか!?
ちょっと待てよ! いきなりの撃ってアッサリ片付けて、それで終わり!? それはダメだろ。この空気どうするの?
時間を掛けて弱点を付いて、やっとこれから戦おうとしている皆の気持ちはどうするの。皆で頑張ろー的な気持ちは。
勿論、ソフィアさんが黒炎竜を真っ二つにした事は凄い事で称賛に価する事だよ。誰にだって出来る事じゃない。
だけど、だけど、この後の展開として「もう無理だー」、「諦めるなー」とか「もうポーションがない」、「これが最後のポーションだ、大事に使え」的なのが待っていたと思うんだよね。
これは僕の想像で本当にあるかは分からないけど……
分からないけど、考えちゃうでしょ。皆で苦しみを乗り越えて的な…… 隊長か誰が黒炎竜の頭に剣を突き立て「仕留めたぞー」、「やったー」的な、考えたでしょ。
勿論、早く片付けて怪我人が居ないのはいい事だよ。いい事なんだけと、少しくらいの怪我はいいんじゃない。「この傷じゃ無理だな」、「諦めるなー」的なドラマ。
もう真っ二つにしてしまったて今更なんだけどもう少し何かあったんじゃないでしょうか。
「簡単でしたね」
ソフィアさん、それを言っちゃダメ。こっち見ないで、相槌なんか打てないよ。
「ソ、ソウデスネ」
「つまんねー」
おい、プリシラ! それも言っちゃダメなヤツだ! お前は黙ってろ!
「ミンナ、みんな怪我が無くて何よりです」
もう僕はどうしたらいいの?
「……団長、大丈夫ですか? 泣いていませんか?」
ありがとうクリスティンさん、僕は泣いていましたか。きっと汗ですよ、何もしてないけど……
「大丈夫ですよ。終わってホッとしているだけですから」
「……そうですか。でも黒炎竜はかなり弱っていたみたいです、私も後十分もあれば殺れたのに」
お前もか……
僕はただ涙を堪えるのに天を仰いだ。
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