異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第八十九話

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 リースさんが見つからない。血の跡だけが森の奥に続いている。傷を治して副隊長とダン隊長が追い付いたが二人とも先に行くのを躊躇っているようだ。無理も無い。視界が悪い薄暗い森の中、レッドキャップは自分より格上なのだから。
 
 僕としては探して助けてあげたい。せっかく知り合った仲間だしリースさんは可愛い。不純な動機を隠して納得する様な動機を探さないと。
 
 それとルフィナ!   レッドキャプの悲鳴が五月蝿いから静かに殺れ!
 
 動機と言えばルフィナか……   このまま探さないで帰った場合、今ごろレッドキャップを皆殺しにしているルフィナは興奮状態、しかも今日の輪番はルフィナだ。間違いなくその場で襲われ沈められる。
 
 リースさんを見捨てて輪番してるなんて、黒歴史のページを増やす事になる。それに白薔薇団に合わせる顔がない。帰れない理由は出来た、話せないけど。行く理由はある、不純だけど。
 
 行くか……   夜の森は怖いんですけど。血の跡を追って森に分け入る僕に「止めろ」と声が掛かるけど僕を突き動かす不純な理由。
 
 リースさんを連れ去ったのはレッドキャップだろうか、それとも別の者か。薄暗い森の中で不自然に光る黒い血の跡を追った。
 
 レッドキャップが連れ去ったのなら引きずる様なたかさで連れていくはずだ。血の跡は時おり高い位置に付いている。リースさんが追いやすい様に付けたのなら、まだ生きてる。
 
 段々と血の跡が下の方ばかり付き始めたころ、森の先の方から聞き覚えの無い低い笑い声が聞こえた。もう聞こえた瞬間、怖くて。暗い森を一人で歩いているから、後ろから幽霊かソフィアさんが出るんじゃないかとビクビクしてた。
 
 生きてる者なら何でもいいと、僕は神速を使って笑い声に会いに行ったんだ。
 
 そこにはリースさんが居たのは勿論の事、レッドキャップが多数、それと人並みに大きなビックレッドキャップがリースさんの首から血を舐め取っていた。
 
 なんて羨ましい。
 
 「なんんだ、お、まえ……」
 
 言葉が分かるのかな。それなら交渉次第でリースさんを返してもらえないだろうか。
 
 「始めまして。白百合団、団長ミカエル・シン……」
 
 「こ、ろせ!」
 
 お前、人に物を尋ねておいてそれか!?   どっかの団員みたいな事をするなよ。皆殺しにしちゃうぞ。
 
 レッドキャップは僕に比べて遥かに小さい。頭が腰より低い高さしかないから、必然的に下半身を重点的に狙ってくる。上から頭を割れば済むのだが、こうまで下の方に鎌を振るわれると数の多さで太刀打ち出来なくなってくる。
 
 太刀打ち出来なくなったら頼みの神速!    数の多さを僕は手数で応戦する。気持ち悪いんだよ、趣味も悪いし臭い汚い早く帰りたい。
 
 半数を倒した時に嫌な感じの打ち合いが一回。目線を敵から離さないように刀身を見る。やっぱり中古のショートソードに無理が来たんだ。うっすらとヒビが入ってる。
 
 このままならビックレッドキャップとは打ち合えない。今でさえ剣が吹き飛びそうだ。こいつに比べれば黒刀は良かった、刃こぼれ一つした事がないから。
 
 しかし困ってばかりもいられない。リースさんを連れて帰らないと。ふっ、と一息入れ体の力を抜く。その後の跳躍、レッドキャップの頭越しに飛び抜けビックレッドキャップに迫る。
 
 喰らえ!   渾身の一刀!
 
 ビックレッドキャップは驚きはしたものの冷静に僕の上段からの斬り下げを、鎌を使って頭の上で押さえた。急激な負荷のかかったショートソードは打ち合った場所から砕けてしまった。
 
 やっぱりダメだったのか……   ダメだろうね中古だし。僕は両手を上段で構えていたビックレッドキャップの懐に飛び込みリースさんを抱き寄せて蹴りを喰らわせてやった。
 
 剣が折れた時点で勝利を確信していたビックレッドキャップは、不意の蹴りに何も出来ずにリースさんを手放し尻餅を付いた。
 
 神速!
 
 「意識があるなら口を閉じて、喋るな」
 
 リースさんをお姫さま抱っこして森を駆ける。武器が無いんだ、逃がしてくれよ、怒れるルフィナの下へ。
 
 「ルフィナ、お土産物を連れて来たんだよぉ」
 
 やっとの事でキャンプ地までリースさんを運んだ僕は、ルフィナにリースさんが流している血を分けてあげた。満足そうに舐め終わるとルフィナの目の輝きが増して今にも襲われそうだ。
 
 「ルフィナぁ、ルフィナぁ!   僕の血を狙って来るヤツらがいるんだよぉ。もうすぐ来るんだよぉ」
 
 「なにぃぃぃ!」
 
 ルフィナの目が増悪に歪む。見るもの全てを腐らすがの如く。もう誰がルフィナを押さえる事が出来るであろうか。僕は無理ッス、自信無いッス。
 
 「おのれ!   おのれ!   我が血を狙っている者は全て滅びるがよいのである。■■■■、滅びの大風」
 
 ルフィナの口から吐き出された無色透明な息は前方三百メートルに渡って全ての動植物を一瞬にして塵に帰らせ存在を消した。ちょっとやり過ぎかな。ルフィナを調子づかせるのは止めよう。
 
 「おのれ!   何処にいったのである。ロッサ!   探し出して皆殺しにするである。全て滅ぼせ!    手段は問わんである」
 
 今、貴方が全滅させましたよ。一際大きい魔石が転がっていますからね。一時間ほどロッサを自由に森林破壊させてからルフィナは戻る様に言った。
 
 リースさんのケガは大した事は無い。ソフィアさんに頼めば直ぐに治してくれる。それよりも一人で森の中を連れ回され、あんな気持ちの悪い者に血を吸われた方が心に傷が付く。
 
 冒険者もなかなか大変な稼業だ。身体の傷は癒せるが、心の傷は僕が癒してあげよう。    ……なんで撃つんだよぉ、痛いんだよぉぉ。
 
 
 三十分も休めただろうか。魔法での治療は詠唱時間で終ったのに、ソフィアさんが離してくれなかった。治療の度に、服を脱がされるのは大変なんだよと、咥えながら上目遣いのソフィアさんには言えなかった。
 
 夜になってルフィナが輪番を求めてやって来たが、珍しく外に連れ出された。さっきみたいなのは出さないでね、疲れてるんだから。
 
 「団長は最近ロッサに冷たいであるな」
 
 冷たく無いよう。ロッサなんか肉が付いてても冷たいよう。僕の前では肉を付けていて欲しいだけだよう。骨の間から心臓を捕まれるのがいいって言われても困るのですよ。
 
 「そこで、である。少しロッサの自由にさせてみたいのである」
 
 ……神速!
 
 遅かった。力を出しきる前に既に回りは蔦が囲っていた。僕の足に絡み付くまで一秒と掛からなかっただろう。爪先から顔の方まで蔦は絡み付き、口には猿ぐつわを嵌められ横倒しにされ一言も話せない。
 
 「ふむ、これくらいで良いであるな。ロッサ、後は自由にして構わないである」
 
 「ありがとうございます、マイ・ロード」
 
 僕は猿ぐつわを噛み千切ろうとしたがカルシウム不足の様で噛みきれない。僕の目が何かを訴えていると感じたルフィナは一言だけを許して蔦を緩めてくれた。
 
 「ルフィナ、お前……ぐぅぅぅ」
 
 「我ながら二言も許すとは寛大である」
 
 「イエス、マイ・ロード。「ルフィナ」と「お前」の二言も許すとは寛大であります」
 
 馬鹿だろ。一言ってのは違うよ。一言ってのは会話だよ。この場合は聴きたい事の疑問系だったりするんだよ。誰が名前で一言を言った事になるんだ。
 
 
 こいつらには会話の勉強をさせた方がいい。 
 
 
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