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第八十八話
しおりを挟む魔石収集三日目。
昨日は遅くまで、落ちているハーピィを探しては解体の繰り返し。やっぱり顔が人間だから解体は無理。顔が無くても体が女体で無理。僕は冒険者になれそうもない。唐揚げにはしてません。理由? 無理だろ!
ハーピィの素材はマジックポーチに積め込み、僕達は更に奥に進む。隊列は変わらず。白薔薇団の魔法使いの人とは結局話す事も無く、ウォーターウォールがとても役に立ったとお礼も言えなかった。
だだ食事の時にやっとローブを取ってくれたので焚き火越しに顔を見る事が出来たが、心の中のガッツポーズは隠せない。
火系魔法使いのノーラ、水系魔法使いのニコール。ノーラは小麦色の肌が自前魔法の炎で焼いたかの様に黒く白い歯が健康的に見せている。眉が太く何だか意思の強そうな女性だ。ニコールは対照的に存在感の無いような色白で水の様な冷たさを感じる。表情が顔に出ないような冷たい目をしていた。
火系はともかく水系の冒険者が活躍出来るとは傭兵とはやっぱり違う。水も自前で長期間を運んだりするのに水系の魔法使いが必要なんだろうか。
三日目の移動はたいした事は無い、見上げるほどの大きな熊が出ただけだから
「ジャイアントベアだ! 下がれ!」
先頭を行く副隊長様の言葉を聞こえなかった様に無視する我らがプリシラさんと白薔薇団のローズさん。ローズさん、プリシラさんと争うのは止めた方がいいですよ。
僕も見たいと草木をかき分けて前に出たが、熊ちゃんの姿を見て止めた。僕は来た道を戻り熊ちゃんはプリシラさんに任せてノーラとニコール、ソフィアさん、ルフィナと僕で魔法に付いての談義に華を咲かせた。
二人の冒険者、ノーラとニコールの魔法使いはメイスを持っていた。冒険者では魔法使いと言えども接近戦の戦闘能力を必要とされるみたいだ。
戦争の魔法使いは皆が素手で何かを持っていたとしても杖くらいか。ソフィアさんもルフィナも素手だからね。たまに投げナイフ。
僕は水系の魔法に興味があった。いったい役に立つのか? それが役に立つらしい。水系の魔法の中には回復の魔法も含まれておりソフィアさんの様に回復専門の人が居なくてもパーティーとしての機能が落ちることが無いそうだ。
むしろ攻撃、防御、回復、兵站もこなせる職種に捉えられている。場所が変われば何が重要になるか分からないものだ。
僕達が話で盛り上がっている所にジャイアントベアが倒れ込んできた。土煙と断末魔をあげて倒したジャイアントベアに馬乗りになってプリシラさんは止めを刺していた。
良くやったぞプリシラさん! 後で誉めてやる。
「ハァ、ハァ、てめぇは、何をしてやがんだ!」
何ってコミュニケーションですよ。随分と息が切れてますけど、大丈夫ですか? 一緒にお茶でも飲みませんか。火系と水系の魔法使いと茶葉があればお茶は飲み放題ですよ。
「あたいらが死ぬ気で戦って、てめぇは「茶」か!」
死ぬ気だなんて大袈裟な。ちょっと大きいだけの小熊じゃないですな。それよりもっと大事な情報があるんですよ、プリシラさん。この四人組の冒険者、全員フリーの彼氏無しなんですよ。こんな仕事に付いてると出会いはあるけどロクなのが居ないそうですよ。
冒険者はお互い命を掛けるのは当たり前なんです。だから、プリシラさんがローズさんと助け合って敵を倒すのは当然とも言えるんです。
「や、やっぱり、あたいは…… あたいは……」
何ですか? みんなの前で愛の告白ですか。プリシラさんからなら絶賛受付中ですよ。さぁ、言ってご覧なさい。僕を愛していると、そして我が前に平伏すがいい。 ……神速!
「死ね!」
プリシラさんの剣は僕が座っていた木を簡単に切り裂き地面にめり込む。予測済みですよプリシラさん、貴方のすることなら。
「ソフィアさん、今日の輪番はアラナでしたね。居ないので繰り上げになりますが、プリシラさんを割り込ませますね」
「あんまり遠くまで行かないで下さい」
ソフィアさんの微笑みに送られて僕達は森の中に入って行った。木々を切り裂きながら。
「おたくの団長って、いつもあんな感じなのか」
大熊を仕留めたローズが皆の所に戻ってきた。
「そうですね、最高の団長です」
そんな会話を知らずに僕はプリシラさんの愛の剣を絶賛回避中。
魔石収集四日目。
僕達が戻って来たのは朝になってから。腕を組んで戻ってきたが、歩きにくいし鎧が痛い。白薔薇団のみんなは呆けた顔で見ていたが白百合団には普通の事。夜に野獣の遠吠えがあって怖かったと言っていたが、それも白百合団には普通の事。
今日は何事も無く、小熊に襲われくらいで「てめぇが、行け!」とのプリシラさんの声援を背中に受けて、茶々っと片付けたら「ズリぃ」と称賛の声を頂きました。ありがとう。
夜になってキャンプを設営し夜食を取っていると隊長から「今回は大収穫だよ」とお褒めの言葉をもらい白薔薇団からも羨望の眼差しで見られた頃、そいつらがやって来た。
「なんだこいつら!」
不意討ちに副隊長が斬られ白薔薇団はパニックに白百合団は夕御飯を続けている。今日の見張りは白薔薇団から出ていたのにリースさんだったかな?
「こいつらはレッドキャップだ。気を付けろ速いぞ!」
まだ夕御飯が終わってないのに。しかしこいつらは見た目がシワだらけの小さなお爺さんだな。赤い帽子がお洒落アイテムなんだろうけど趣味が悪いね。
「この妖精は鎌で首を落として血を啜るんです。怖いですね、んぐっ」
ソフィアさん、食べながら話すのは良くないと思いますよ。しかし血を啜るって近くにいたなぁ、そんな人が。
「血を啜るとは許せんのである。この血は我の物である」
僕の袖を掴みながら所有物宣言するのは止めて下さい。僕と血は僕のものですから。レッドキャップの数は多いな。白百合団はともかくもう一人くらい犠牲者がでるかな。とりあえず手を離してもらっていいですか。
「許せん、許せんのである。この血は全て我の物である。■■■■、薔薇の蔦」
だから僕の血は僕のですって。ルフィナが詠唱を唱えるとレッドキャップの足元から薔薇の蔦が伸びて体にまとわりつき動きを止めた。
まるで鉄条網が絡み合ってレッドキャップに巻き付いた薔薇の蔦は暴れれば暴れるほどトゲが突き刺さり体を絞める。
「勝負あったね。僕はリースさんを探して来ますので後はよろしく」
「貴様らなんぞに血の一滴でもくれる訳がないのである。ロッサ!」
「イエス、マイ・ロード。■■■■、腐れの沼」
二人とも返事をしようね、団長が話をしてるんだから。それと僕の前では肉を付けて来てね。ロッサが唱えた詠唱はレッドキャップの一人一人の足元に、見るも不快な小さな沼を出現させた。
「簡単に死ねると思わぬである。一人づつ沈めて体を腐るのを身をもって知るのである」
ルフィナが出した薔薇の蔦が、ゆっくりと沼の中に引きずり込んでいく。レッドキャップは「ぐぎゃー」だか「わぎゃー」だか声に出来ない叫びを上げながら足元の水溜まりと言って良いような沼に腐りながら沈んで行った。
レッドキャップが消えてなくなると蔦も沼も消えて無くなり腐敗臭と魔石だけが残った。てっきり二足歩行だから魔石収集は無いと思ったのにラッキーだ。ルフィナは次を沈めようとしているが、見るのに耐えかねないので僕はリースさんを探しに行こう。
リースさんが居たと思われる所に、血の跡が森の奥に続いていた。
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