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第八十七話
しおりを挟む魔石収集二日目。
朝から騒がしい。防音テントの中でも無く外でも無く、上の方から鳥の鳴き声の様なのが複数聞こえる。ダン隊長が言うにはハーピィに目を付けられたそうだ。朝も早くから仕事熱心だね、ハーピィなら知ってるよ。
亜人の分類には入らないけれど顔は人間、腕は翼で足は鳥。知性は鳥並み? こんな森林の中に降りて来れるほど小さくない。遥か上空で指をくわえて見てればいい。
「奴等を始末する。川まで移動するぞ」
今、僕は指をくわえてろって言ったのにね。どうも、ずっと頭上を旋回して威嚇するものだから魔物が逃げてしまって魔石の収集どころでは無い。ハーピィ自体も素材として売れる場所があるので一石二鳥を狙う。
作戦は簡単。囮を出して近付いてきたら魔法で攻撃。二~三匹も倒せば、他のハーピィも逃げ出すだろうとの事だ。
問題は囮だけど、僕だよね。僕がハーピィだったらプリシラさんを襲いたくなるけど僕は男の子だからね。こんな時ばかり「男」を言われるのはどうだろうか。
エサは不味そうな僕で迎撃には白薔薇団の魔法使いの二人とリースさんの弓ご担当する。ソフィアさんのプラチナレーザーにも期待したかったが、防音テントの為にポーションを置いてきたんじゃ節約してもらわないと。
エサでもいいよ、楽勝だし。木の高さはそれなりにある川までやって来た。エサの僕は川岸の目立つくらい大きな岩の上で踊ってやった。木の高さから来るとしたら川沿いの上流か下流。前後どちらかしか来れないし、あのハーピィの大きさなら見失う事も無い。僕が始末してもいいかもしれないね。
大岩の上で踊ること数分、持ちネタも終わり、こちらの配置も終わった頃にハーピィが上空を旋回し始めた。夕ご飯は鳥の唐揚げに決定。
唐揚げに期待しつつ、上流から爆撃コースに乗ったハーピィは羽ばたくのを止めて滑空するかの様に羽根を広げて迫って来た。
馬鹿め! 自分から羽ばたきを止めて、スピードを落とすなんて的になりたいのか。僕はショートソードを抜き盾を前面に出して待ち構えた。
このまま切りつけて落としてもいいか。でも魔法も見てみたいし、これを切っ掛けに白薔薇の魔法使いと仲良くなって、ベッドに誘うのも悪くない。これだ!
「だぁぁっ!」
これは僕の叫び声です。ハーピィの野郎、滑空体制から加速しやがった。いや、加速なんて優しいもんじゃない。足元の大岩に傷を付けるくらいだ。直撃は痛いぞ。
速さでは負けてないけど足場がわるい。大小様々な岩を飛び渡るなんてアラナなら得意そうだ。足元の……
「うおぉっ!」
二発目の爆撃も避けてバランスを崩す。弓はどうした、魔法はどうなった!? 弓を構えていたリースさんは、こっちを見て肩をすくめてる。速くて当てられないのか。魔法使いは…… オロオロするばかり。
上空を旋回するハーピィの数が増えてる。一匹、二匹くらい大丈夫だ、対応は出来る。ローズさんの激が飛んだのがリーサさんは弓を引き絞り魔法使いは手を前に立ち詠唱を開始する。
今度は頼むよ、当ててくれよ。上流からの爆撃機は二機に増えこちらの対空迎撃は頼りない。僕は大岩の上で華麗なステップを踏む。
対空迎撃、一撃目。リースの矢、何処を狙っているんだか。対空迎撃、二撃目。魔法使いの一人の目のファイヤーボール。ある程度の追尾はあるがハーピィの速さに追い付けず。対空迎撃、三発目。ウォーターウォール、水の壁。
巨大な水の壁がハーピィの進路に立ち塞がる。高速で飛べても回避する事は出来ずに壁にぶち当たり体制を崩して地面に激突。僕は慌てて吹き出した血を押さえてハーピィ二匹の首を落とした。
目の前に壁が出来て驚いたのは僕も同じだ。神速を出していたけれど、目の前のハーピィの予測進路が分からなくなった。壁を抜けて地面との衝突コースの間には僕の左足があった。
何事も無く、地面に激突して死んでくれたら良かったのだけど、足に鋭い爪を引っ掻けて行ってくれた。人に迷惑を掛けるのは良く無いと思うぞ。
これで二匹のハーピィを倒したのだから、怖がって逃げてくれたら僕の足の傷も救われる。ソフィアさんに足の傷を診てもらうと、あっさり治してくれた。防音テントで使う魔力より、治してでも輪番を進める事に魔力を使いたいんだとさ。
輪番の為とは言え治してもらったのは有りがたいが、ハーピィは散ると思ったのに離れる気配が無く上空を旋回している。
「隊長、ハーピィが離れませんね」
「あぁ困った。もう少し狩れば離れるかもしれんな……」
そうだよな。魔物がいなくなったら収集なんて出来ないし、ハーピィ二匹では、割に合わない。もう少し続けてハーピィを追い散らすしかないのか。
あのウォーターウォールはハーピィには効くね。いきなり目の前に水の壁が出現して飛行能力を奪い地面に激突、楽して勝つには有効だよ。ただしエサの死ぬ確率が高い。釣りなんてエサが死ぬ物だから仕方がないけど、それはエサになってないから言えるんだ。
全速力で向かってくるハーピィは僕の目の前、五、六メートルの所に水の壁が出来て失速墜落。僕は一瞬見えなくなったハーピィがどこに飛んでくるかを神速と反射神経で乗り切る。
反射神経は自信があるけど五メートルの距離から全速力で走ってくる新幹線を避けられるだろうか。仕方がないけど、この中で一番生き残れる可能性が高いのは僕だ。可能性が高いからってやりたい訳じゃない。
殲滅旅団の名前を出すとハードルが上がるから言いたくなかったんだ。みんなの期待と不安を背に僕は大岩に立つ。悔しいから今度は「阿波おどり」だ。
「……団長、狭いです」
「おぉっ! ビックリした。クリスティンさん、もうすぐハーピィが降りてきて危ないですから皆の所に行って下さい」
「……クソッが! 鳥の分際でミカエルに傷を付けるなんて……」
おぉっ! 初めてミカエルって呼ばれた。いつも団長って呼ぶのに。って、それどころじゃない。ハーピィ、三匹が爆撃コースに乗って加速してきた!
「クリスティンさん、降りて。いや、間に合わないか……」
一匹だったらクリスティンさんを抱いて逃げる。三匹だと何処に墜ちてくるか分からない。来い! 僕が全て撃ち落とす!
魔法のウォーターウォールが五メートル前に張られたらどこまで対応出来るんだ。反射神経も神速に出来るのだろうか? とにかく意識を集中して……
「……死ね」
集中していた意識を引きずり込む様な黒い声。怖い。怖くて後ろを見れないよ。目の前から突っ込んでくるハーピィより何倍も怖い。
だがハーピィはウォーターウォールまで届く事も無く、上空で旋回していた十を越えるハーピィも尽く落下していった。
クリスティンさんの不幸にも心臓発作は心臓を持つ者、全てに発揮される。嫌な汗が流れている。僕は剣と盾を構えたまま動けないでいた。
「……あの能無し隊長達も殺しておきますか」
クリスティンさんが僕の背中に顔をうずめならが言ったんだ。僕の心臓も圧縮しながら。
「役に立ちそうなんで止めておきましょう」
僕が剣を納めながら言うとクリスティンさんは離れて行った、圧縮を止めながら。
収集二日目にしてハーピィの大収穫だ。傭兵と冒険者の戦い方は随分と違う。特に顔が人間のハーピィ解体作業は僕には無理。
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