異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百二十一話

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  ハルモニアまで。行程四日目、夜。
 
 今回の行程で一番厄介な敵……   いや、愛しき輪番相手、アラナ。大人の恋愛に目覚め、愛し合いを殺し合いと勘違いしている猫の亜人。
 
 どう勘違いしてるか思い知らせてやりたい僕は盲目。まともに向かい合って殺るしかないか。だが僕は開いたんだ心眼を。
 
 正確には心眼なのか分からないが、存在を感じる事が出きるようになった。周りにある木や草花、人がどこにいるのか、漠然とだけど感じる事が出来るようになった。
 
 特に人から出る圧迫感とも取れる殺気は敏感に分かる様になった。横を歩いていたアラナが止まりソードガントレットから剣を抜き出した時に感じたアラナの殺気。
 
 「今日も殺るッスね。早く団長を串刺しにしたいッス」
 
 どうすればここまで変わってしまうのか。僕が何か悪い事でも教えたかな。そんな事は無いだろう。僕達がしていたのは普通の事さ。
 
 「殺ろうか。串刺しにするのは僕の方だよ」
 
 言うを待たずに襲いかかるアラナに対して超振動の盾を構えて防御態勢。アラナの斬激が超振動を切り裂き楯にまでぶつかる。
 
 スピードが早いのか?    超振動が弱かったか?    僕は背中の気配を探ってから後ろに跳ねる。見える!    見えるのとは違うのだけど分かるんだ。後ろには何もない。
 
 すぐさま追い討ちを掛けて来るアラナに対して超振動を全開に盾で打ち降ろした。左に転がるように避けるアラナ。そっちは僕の剣の射程だよ。
 
 逆刃に打ち込む僕の剣を両手のガントレットで受けた。そして体をひねって僕の剣を流したアラナは左手一本で僕の脇腹を目掛けて突き刺してきた。
 
 見える。いや、感じるのか。アラナの太刀筋が存在が分かるんだ。これが心眼なのか。
 
 「痛てぇぇぇ!   アラナ、見えないんだから少しは遠慮しろ」
 
 全てが見えてる訳じゃないんですよね。まだまだ修業をしないと実戦では厳しいね。でも心眼を少しは分かった気がする。心眼とは空間の認識力と言えるのじゃないだろうか。
 
 どこに、何がある。これが分かれば例え混戦でも乱戦でも見えない所からの一撃をもらう事がない。背中に立っている敵でさえ切りつける事も出きる。
 
 これは大きな武器だ。プリシラさんが「心眼を開け」とか冗談と思っていたけど心眼は使える。
 
 「団長、本当に見えないんッスか?   避けたりするけど当たったりもするッスね」
 
 まだまだ修業が必要と言う事だね。神速と心眼の組み合わせで僕はもっと強くなれる。アラナには手伝ってもらうよ。大人の恋愛をしよう。
 
 それから二時間、ボロボロになったのは僕の方だった。修行が足りないね。アラナさん、全身傷だらけなのでヤるのは程ほどで、お願いします。
 
 
 ハルモニアまで。行程五日目、夜。
 
 オリエッタには剣を頼んでいる。ショートソード並みに軽くバスターソード並に大きな剣を作って欲しかった。
 
 オリエッタは移動の馬車の中でも、錬金術の実験をしているようで、あまり休んでいる印象が無い。せっかくの輪番、少しは楽しんでもらわないと。
 
 「ああ、気持ちいい~。そこがいいです~」
 
 オリエッタの声が防音テントに響き渡る。僕はオリエッタを寝かせて現在マッサージ中。ずいぶんと硬いね。柔らかく揉みほぐさないと。
 
 白百合団の中で一番の怪力の持ち主で繊細な作業もこなせる錬金術師。影ながら活躍しているのを僕は知っているよ。そんなオリエッタには団長として慰労を兼ねた安らぎを与えないとね。
 
 「団長、そこはエッチです~」
 
 おっと、手が滑った。なにせ盲目ですから、どこを揉んだらいいのか良く分からない。
 
 「きゃはは、そこもエッチです~」
 
 なにせ盲目ですから。手が滑るんだよね、柔らかいところに向かって……
 
 「団長~、団長の剣の事ですが……」
 
 あらら、マッサージタイムはお仕舞いかな。これからが本当のマッサージだったのに。
 
 オリエッタは僕の正面にちょこんと座ると少し暗い感じに話を続けた。
 
 「団長の剣ですがバスターソード並に大きくすると重量が出ちゃうんです~。両手持ちにすると左手の超振動が邪魔をして右手を痛めちゃうんです~」
 
 なるほどね。左手の超振動は貴重な戦力で無くしたくない。かと言って両手持ちは出来ないのに、片手で持てるか大きな剣は無理と言うのか。
 
 良い所ばかりには、ならないんだね。オリエッタが悩むほどだから大変なんだろう。僕はコップに注がれていたエールを飲もうと口に運んだ。
 
 「だから、これがいいんです~」
 
 オリエッタの言葉の後に「バチン!」と何か大きなハサミで切る様な音がして、飲もうとしたエールが口元に運ばれる事はなかった。
 
 顔に掛かる生暖かい液体と右手の痛み。これはエールじゃないだろ。何で痛みが走るのか?
 
 「右手も義手にしたら大丈夫です~」
 
 心眼!
 
 見える!   僕の前腕は防音テントの床に落ちて、腕からは大量の出血が!
 
 「な、なんで……」
 
 僕は痛みが激しくなってきた。右手を抑え苦し紛れに言った。
 
 「右手も義手にして超振動が出来れば問題解決です~」
 
 心眼!   広域モード!
 
 居た!   僕はオリエッタの話を最後まで聞いてなかったかもしれないが、それどころじゃない。僕は心眼を使って防音テントの外を探った。今の僕を助けてくれる人物を。
 
 落ちている右手を拾って防音テントを出る。ちょうど目の前のテントの一番右。僕はそのテントの中にノックもせずに滑り込んだ。
 
 「きゃぁ!」

 バス、バス、バス!

 「団長、着替えている最中ですよ」
 
 いきなり入った僕も悪いが、いきなりレーザーを三発も喰らわせる事はないだろ。
 
 「ソ、ソフィアさん、急で申し訳ありませんが、この手を治してください」
 
 広域心眼で探したのはソフィアさん。彼女なら切れた手だって繋げてくれるはずだ。僕は口から血を流しながらお願いした。
 
 幸いにもすぐに機嫌を直してくれたソフィアさんに手を繋げてもらい、レーザーで空いた穴もふさいでもらった。
 
 治療中にルフィナに血を舐め取られていたが今は無視しよう。オリエッタにはこれから時間を掛けて人を傷付けたらいけない事を話さないと。
 
 傭兵の僕達が人を傷つけるのはダメだと、どうやって説明しようか。人を傷付け殺して生きている僕達が、どうやって説明すれば聞いてくれるのだろう。
 
 久しぶりに真面目に話をしよう。オリエッタなら分かってくれるはずだ。どうしてもダメならバスターソードにものを言わせる。
 
 どちらを使ったのか。両方使ったのか。それは僕とオリエッタの秘密だ。
 
 
 ハルモニアまで。行程六日目、夜。
 
 「手加減しないである」
 
 「望む所だ。だけど、最初に話した事は守ってね」
 
 「了承したである。勝てば血を十リットル!」
 
 「違う!   順番の……」
 
 「■■■■、痺れの蔦」
 
 ルフィナから放たれた蔦が僕の四方を囲むように襲ってくる。慌てず騒がず超振動を全開に全ての蔦をショートソードで切り裂いた。
 
 「それで見えないとは、なかなかやるである」
 
 今日も心眼の練習。ルフィナを連れ出したのは本気で切る事が出きるから。まさかプリシラさんやアラナを切る訳には行かないからね。綺麗な肌に傷が付いたら大変だ。
 
 ルフィナなら切っても大丈夫。別にルフィナ本人を切るのではなくて、ルフィナが出してくれる蔦や剣なら平気で切れる。
 
 僕の心眼もなかなか見えてきたし、本気を出すにはいいチャンスだ。ルフィナに手伝わせるには「血」をエサにすれば簡単に釣れる。負ければ払わないといけないけど、負ける気なんて全然ないぜ。団長の底力を見せてやる。
 
 「次を出してください。全力でいいですよ」
 
 「舐めた事を……   ■■■■、痺れの蔦」
 
 今度は八方から迫る痺れの蔦。さっきの倍だが、見える、感じる、今なら切れる。僕に迫るルフィナの蔦も心眼と神速の前では無力だった。
 
 「おのれ、おのれ!   我が蔦を意図も容易く切り捨てるとは、おのれ!」
 
 このくらいでキレるなんてカルシウム不足なんじゃないの。
 
 「■■■■、腐れの大剣」
 
 おいおい、それはまだ先だろ。かすっただけで、そこから急激に腐るんだよ。だから蔦で様子を見てからって話だろ。
 
 「調子に乗るな!」
 
 神速を武器に心眼を全開。どこまでやれるか分からないが、ルフィナを調子付かせていい事は無い。ここで終わらせてやる、終わらせてからヤる。血はやらねえ。
 
 「うおおおおっ!」
 
 多過ぎて間に合わない。見えてれば神速の敵では無いけれど心眼だと見えたり見えなかったり、消えたと思えば目の前に腐れの大剣が出た時には、本当に驚いた。
 
 神速もモード・ツーが出てたに違いない。それほど容赦の無い攻撃。僕は味方で団長なんだけど容赦の無い攻撃。
 
 「おのれ!   おのれ!   おのれ!   ロッサァァ!」
 
 そんなにキレるなよ。って、ロッサは出したらダメだろ。言っておくけど僕は盲目だよ。昨日、右手を切られたばかりで付いている所の皮膚がまだ馴染んでないんだよ。
 
 「お久しぶりです。ミカエルさま。お元気でしたか」
 
 「久しぶりだねロッサ。今は目が見えなくて、右手を切り落とされたばかりだけど、けっこう元気かな。ロッサはどう?」
 
 「わたくしは元気で……」
 
 「うるさいである。ロッサ、さっさと始末して体液十リットルをいただくである」
 
 いつから体液の話になった?   血だろ、血液だろ。体液十リットルなんて一生かかっても無理じゃないか。
 
 「■■■■、千の剣」
 「■■■■、千の剣」
 
 ルフィナとロッサは同士討ちをしないように十字砲火の陣で僕を狙う。腐れの大剣だって多いのに千の剣だって!?   心眼で感じる範囲には全て剣しか見えていない。
 
 「今度こそ死ね!」
 
 調子ノリ子の合図と共に二千の剣が僕を襲う。
 
 「うおおおおっ」
 
 超振動の盾を諦め、腰から引き抜くオリエッタナイフ。久しぶりの二刀流、見せてやるぜ神速チート持ちの実力を。
 
 ……まあ、あっけなく敗退したんですけどね。さすがに二千の剣は無理でしょ。しかも見えないし……
 
 「まるでソクブンの様であるな」
 
 「……ソクブ、ンて、なん、です、か……」
 
 「今の団長のように針が突き出している動物である。団長は知らないであるか。不勉強である」
 
 多分、針ネズミなんだろうね。ナイスな例えだよ。今の僕は剣が刺さったソクブンだね。
 
 「安心するである。我もロッサも多少の治癒魔法は使えるのであるが、動けるまでにはしないである。なにせ体液十リットルが掛かっているである」
 
 誰が体液をやると言った!?   やるのは血液だろ。くそっ、喉に刺さってる剣が邪魔で上手く喋れない。あそこに落ちてるのは僕の指かな。
 
 「ロッサ、治すである。その間に我は体液を……」
 
 
 どう取られたかはヒミツ。
 
 
 
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