異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百二十話

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 輪番。それは避けては通れない男の道。だが脇道もある。怪我や病気をすれば免除されるはずの棘の道。
 
 
 ハルモニアまで。行程一日目、夜。
 
 重装備の者が二人、夜の森を歩く。一人は怪我をしているのだろうか、足取りも不安定に手を引かれているのは僕です。
 
 「プリシラさん、冗談ですよね。僕は目が見えないんですよ。輪番なら普通に楽しみましょうよ」
 
 枝にぶつかり、木の根に足を取られ歩く僕を、引きずる様にして手を取って歩くプリシラさんはやっとの事で止まってくれた。
 
 「本当に見えないのか?   昼間は面白いところにダイブしてくれたじゃねぇか」
 
 面白いところってプリシラさんの谷間ですか。あれは本当に良いところでした。出来れば連泊したいくらいなんですけどね。
 
 「本当に見えないんですよ。こんなのじゃ剣なんて振るえない。普通にしましょ、普通に。僕の負けでもいいです。ギブアップします、ごめんなさい」
 
 カッコ悪いなんて言うなよ。プリシラさん相手に盲目の僕がどうやって戦えって言うの。周りには木が生い茂って足場も悪い。こんな所で神速なんて使ったら木にぶち当たって失神、悪けりゃ死ねる。
 
 「ぐぅっ!」
 
 左足に走る激痛。このバカ、本当に刺しやがった。
 
 「本当に見えねえんだな。フェイクかと思ってたぜ」
 
 見えないの!    見えていたら避けるだろうが!    足に刺さるハルバートの矛先。下手に動けば傷口が開く。ここは我慢だ、無理しても動かないでいないと。
 
 「プリシラさん……」
 
 「心眼でも開きな。さあ、殺ろうぜ」
 
 何を訳のわからん事を。そんなものは宮本武蔵にでもやらせておけ。ハルバートが引き抜かれ足が軽くなるのが分かる。かなり食い込んだけど大丈夫か?    神速は使えるのか?
 
 構えないと。プリシラさんは本気だ、人を刺しておいて冗談で済ます人じゃない。本当にやるんだよね。盲目なんだよ、見えないんだよ。
 
 僕は自慢の中古ソードを抜き絶対防御の楯に超振動を流す。プリシラさんはおそらく二、三メートル先にいるはずだ。
 
 プリシラさんは右利きだしあの重いハルバートを振るなら右上段からの振り降ろし。横からの振り回しは木が邪魔するだろうから。最初の一撃目から頭を狙ってくるはず……
 
 「ぶぃぃぃぃんっ」
 
 超振動の盾が何も無い空間でハルバートの一撃を止めた。こいつ本当に頭を狙って来やがった。プリシラさんの上段を止めたのはいいが、調子づかせたのが不味かった。
 
 「はっはー、やれるじゃねえか。心眼を開いたか。やっぱり、てめえは最高の男だ。いいぞ、あたいを楽しませてくれ」
 
 楽しみたいなら一人でヤれ。手伝いくらいならしてやるぞ。    ……しかし、本当に最初の一撃目は偶然と推測でしかない。プリシラさんが本気なら木をなぎ倒しても横振りくらいやる。
 
 心眼ではないけど、本当にプリシラさんを感じないとヤバい。森の中は風が吹いて葉の揺れる音がする。虫が鳴いてる音も聞こえる。自分の心臓の鼓動も感じる。
 
 なるほど……   盲目になって分かるこの感じ。意識を集中すると周りにある物を僅かに感じる事が出きる。プリシラさんの狂暴な存在感も。
 
 盾を前に押し出して防御主体の一撃必殺の構え。来るなら来いや!    盲目だからって舐めるなよ!   
 
 次の日、ボロ雑巾の様に打ち捨てられている僕をアラナが見つけてくれた。
 
 
 ハルモニアまで。行程二日目、夜。
 
 昨日とは全然違う穏やかな時間。こういう輪番は好きだ、命の心配も怪我の心配もしなくて済むし何より楽しい幸せな時。
 
 防音テントの中では少し薄着のクリスティンさんと静かなお喋り。優しい時間。それも確信に迫るまで……
 
 「これがそう何ですか」
 
 「……はい、団長の心臓です」
 
 クリスティンさんが両手で大事そうに持っている何か。盲目の僕でも分かる何か力強く感じる物。僕の心臓。
 
 「僕にも感じるんですけど……    これが僕の心臓なんですか」
 
 「……はい、団長の事を考えていたら出来るようになったんです」
 
 なったって、どういうこと?   心臓を具現化したってことか。人様の心臓を取り出したのか?   僕は慌てて自分の胸に手を当てるが鼓動はある。ちゃんとドキドキしてるぞ。
 
 「……こうやって一人になった時に団長の心臓を取り出しているんです。……手で触ったり舐めたり、あそこに擦り付けたりするんです」
 
 なんか凄いことをアッサリとカミングアウトしてくれちゃってるけど、人様の心臓を取り出していいのか!?    クリスティンさんの事だから簡単には潰す事も出きるだろ。それに、あそこってどこだよ!?
 
 「あはは、大切にして下さいね。一つしかありませんから」
 
 「……大丈夫です。何よりも大切な私の心臓……」
 
 いえ、僕の心臓です。たまに動悸がするのはこのせいなのか。心臓の具現化、クリスティンさんの新しい必殺技か。間違って落としたりしたら僕はどうなるんだ。
 
 「……ああ、団長……」
 
 クリスティンさんのキスを受けて倒れ込む。その右手から感じる僕の心臓、大事にしてください。出来れば今は引っ込めてくれると嬉しいけど……
 
 僕も負けじと舌を絡ませるが、どうしても右手のブツが気になって集中できないよ。バスターソードで貫くまで手の中で遊ばれる僕の心臓。
 
 いよいよ貫こうとした時、クリスティンさんはあろうことか僕の心臓を喰いやがった。正確には口の中に含んだ。
 
 「ああ、ミカエル、ミカエル……」
 
 僕はバスターソードで貫くクリスティンさんを。僕の心臓はクリスティンさんの口の中。お願いだから噛まないでね、飲み込むのも無しで。
 
 今日のバスターソードの切れ味はきっと鈍っていただろう。
 
 
 ハルモニアまで。行程三日目、夜。
 
 復讐するは我にあり。今回の盲目の件、忘れてねえぞ、ソフィア!    やられたらヤり返す。いつまでも大人しく我慢すると思うなよ。
 
 そう言っても剣を交える気なんて全然無いしソフィアさんに合った復讐をしないとね。オリエッタからもらった催淫剤が二錠、こいつを飲ませる。
 
 一錠で充分だと言われたけど、念のためにもらった薬で今日の夜は記憶が飛ぶほどヤッてやるぞ。覚悟しておけ、着エロもしてやる!
 
 「ソフィアさん、プリシラさんの所からもらってきた、お酒があるんですよ一杯どうですか」
 
 「わたしはあんまり強く無いんですよ。でも、少しなら……」
 
 かかったな!    これで淫乱ソフィアの出来上がりだ。あんな事やこんな事、口に出せないような恥ずかしい事をしてやる……   してやる……   コップは二つ、薬は一錠、どっちに入れた!?
 
 まてまて慌てるな、最初のに入れたんだから右にあるのに入れたか。でも右ってどっちだ!?   
 
 心眼!
 
 分かる訳ねぇ。圧迫感も存在感も分からないだから、どうしよう……   考えろ!    どちらかのコップには薬が入っているのに間違いないだ。正解は半分、薬はもう一錠。
 
 やっちまえ。僕は左側と思われるコップに神速を使って薬を入れた。これで薬は無くなったが二つとも入った。
 
 「はい、どうぞ」
 
 ソフィアさんの差し出したコップを受け取ったが、今僕に渡したのはどっちのコップだ!?   ヤバいぞ、まるで分からなくなった。僕自身が催淫剤を飲んでも復讐にならないのに。
 
 くそっ!   もしかして入れたのがバレたのか。そんなはずはない。神速を見破る力はソフィアさんにはないはずだ。
 
 「いただきます」
 
 ソフィアさんがお酒を飲む。くそっ!   僕も慌ててお酒をあおった。オリエッタ謹製の睡眠剤は二錠とも僕のコップに入っていた。
 
 
 復讐なんて不毛な事。僕は止めようと思う。

 
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