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第百二十五話
しおりを挟む「墓に刻む言葉は決まったか……」
カッコいい決め台詞を吐きながら、一歩一歩近付くプリシラさんは金色のライカンスロープ。今度その台詞は僕も使ってみたいな。
だけど、今は使われる方だ。墓に刻む言葉って言われても困るね。時世の句でも読まないといけないのかな。
「止めてください」
事を察してか僕とプリシラさんの間に割って入るマヌエラ。きっと仲違いしているだけと思っているのだろうけど。今、一番事態を飲み込めて居ないのは貴女だよ。そんな事をしたって火に油を注ぐようなものだ。
「邪魔だ……」
強烈なボディーブローを喰らってベットまで吹き飛ばされるマヌエラ。その痛みなら僕も知ってます、かなり痛いんですよね。
「プリシラさん……」
僕は僕の言葉を言い終わる前にモード・ツーと心眼を使ってた。プリシラさんの「シ」の言葉が出た時点で襲いかかってるのが見えた僕には、簡単に初撃を避ける事が出来なかった。
金色のライカンスロープの速さはモード・ツーにも匹敵するのかよ。それでもギリギリで避けた僕の頬に薄っらと残る傷跡。
こいつはヤバい。僕は恥も無く窓を破って裏庭に逃げ出した。
「死に場所はここでいいのか……」
追って来たプリシラさんの腹に響く一言。僕だってただで逃げ出した訳じゃない。もう少し広い所が欲しかったんだ。あのまま部屋で殺り合ってハルバートでも持ち出されたら死ぬ。
「プリシラさん、気が付いてますか? 全身が金色に輝いてますよ」
「……おお、なんだこりゃ」
気付いて無かったのかよ。それだけ怒りに充ち溢れていたのか。今なら少しは話が出来るのか。
「それで、墓に刻む言葉は決まったか……」
無理みたいです。その決め台詞はいいんだけど、まだ死にたくないです。僕はハルモニアの海に行ってビーチで女の子と遊びたいんですよ。
「「プリシラを愛する男、ここに眠る」ってのはどうですか」
「…………くそっ! だ、騙されねぇぞ。てめぇはここで死ね」
やっぱりダメか。愛してるのは本当の事なんだけどね。だいたいマヌエラがお礼なんて考えるから、話がややこしくなるんだ。盗賊なんだからさっさと逃げれば良かったのに。
プリシラさんが声もなく襲いかかってきた。フェイントを使ってからの右ストレート。少し正気に戻したのが不味かったか。それに続く連打も体をふって避けまくった。
本来の心眼なら時間的に二、三秒先の未来が見えて、分身の様に一人の人間が二人に見えるのだが、プリシラさんが余りにも速くてブレて見えるのが精一杯か。
だが僕は神速持ち。モード・ツーまで使えるのに避けるので精一杯ってどんな速さなんだよ。モード・ツーと心眼の合わせ技は発動時間が短い。短期で仕留めなければ殴り殺され、ミンチにされる。
僕はこの世界に無いであろうボクシングスタイルで迎え撃つ。伊達にボクシング漫画を読んでた訳じゃない。そう言えばあのマンガの続きはどうなったのかな。
金色のライカンスロープの攻撃は全く止むことは無かったが、僕は隙をついてボディーブローを連打した。やっぱりライカンスロープと言えどもプリシラさんの顔面を殴る訳にはいかないよ。
そして、僕の拳はプリシラさん効いている気がしない。神速を使っている間は神速に耐えられるほど体が強くなっているのに、プリシラさんには通用しないのか。悔しいから乳でも揉んでやろうか。
余計に怒られそうなので止めておくが、決まり手に欠ける。やはり顎を殴って脳震盪を狙うか。でも顎ってどこだ? オオカミの様に口が飛び出ている所でいいのか。失敗すれば牙の生えた口の中に手を入れるはめになるぞ。
例え勝ったとしても他のメンバーから「女の子の顔を殴るなんて酷い」て、言われるのは間違いない。 ……顔は無しでいこう。
プリシラさんの攻撃は止まず、僕は交わしながらのボディーブローも効かず、どうしようかと考える暇もなく心眼で見えていた残像さえ見えなくなってきた。
神速も通常モードの速さまで落ちたのが分かったが、プリシラさんの拳を避ける事が出来た。プリシラさんも疲れているんだ。ボディーブローは効いてる。
「もう止めましょう。あれは誤解ですなんです。話を聞いて下さい」
「くそっ! くそっ! 絶対負けねえ!」
その根性はどこから来るのか。見習わないといけないね。出来ればその根性は僕以外に向けて欲しい。
プリシラさんが怒りの咆哮をあげると、周りの木や草や壁さえも震える。これは不味い、本当に不味い。体から溢れ出すオーラの様な物まで見えてる。次は交わせない。
交わせないなら相討ち覚悟でカウンターを入れてやる。マンガで会得したクロスカウンターを見せてやる。
僕はフットワーク軽く、ゆっくりと近付く。プリシラさんは待ち受ける王者の貫禄。フェイントのジャブ、それを無視するかの様に飛んできた金色のストレートに被せる様にフックを打ち込み僕の意識は切れた。
気が付くとベットの上。大丈夫だ、顔は付いてる。しかも腫れてもいなければ怪我もしてない手足も動く。
隣から聞こえてくる白百合団の笑い声の中心に、事の元凶のマヌエラが座っていた。
「よう、起きたか。ハハハハ、悪かったな、誤解だったぜ」
プリシラさんの満面の笑みでブロンドの髪が揺れる。えっ!? プリシラさんの髪は赤毛だったのに今はブロンドの髪に赤いストライプの入った髪になってる。
「プリシラさん髪の毛……」
僕はさっきの誤解もどこへやら、プリシラさんの髪の毛の方が気になった。今までの赤毛も良かったのだが、赤毛を縦のストライプで一本流し、他は金色に輝いていた。
クリスティンさんもブロンドの髪の毛だがシルバー混じりの金色だ。プリシラさんのは赤毛のストライプ以外は正に金色。純金かな。
「いいだろ。何でかこうなった」
ライカンスロープって普段は黒毛の剛毛なのにそれがブロンドかよ。しかも今もブロンドになってるなんて、嫌な予感しかしない。
「プリシラさん、ちよっと……」
僕は手招きして呼ぶと、近付いてきたプリシラさんの乳を神速で揉んだ。
バシッ!
「何しやがる!」
案の定、神速で伸ばした手を叩かれた、しかも揉む前に。不意討ちでしかも神速に追い付けるだけの速さを、いつものプリシラさんは持っていない。
それが髪の毛の色が変わったら神速に追い付けるのかよ。これってチートじゃないんですか神様。僕が世界最速の男じゃないんですか。
怒っただけで神速並みの速さなんて理不尽だ。僕は命懸けでモード・ツーや心眼を会得したのに…… ストライキ起こしてやろうか。
「団長、何をイジケテいるんですか。マヌエラさんの話を聞いてあげて下さい。凄く苦労したみたいですよ」
代わりにソフィアさんの乳を揉ませてくれたら話を聞きますよ。
なんでもマヌエラさんは元は貴族だったそうで、お家騒動から家を飛び出し苦労のかいがあって盗賊に就職したそうな。 ……ここも話が飛びすぎだよ。何で盗賊まで話が飛ぶんだよ。もう少し苦労しろ、買ってでも苦労しろ。
僕が怒った所で髪の毛はブロンドには変わらず黒いまま。プリシラさんの様にはいかないねぇ。
「そう言えばどうして僕は気を失ったんでしょう。怪我もしてないようですし…… ソフィアさんが治してくれたんですか」
僕のカウンターは決まったのだろうか。ちょっとは自信があっただけに、決まったと言って欲しい。
「あれはクリスティンさんです。珍しく叫んでたんですよ、二人を止めようとして。聞こえませんでしたか」
クリスティンさんが叫ぶなんて珍しい。必死になって叫ぶクリスティンさんも綺麗なんだろうな。
「それで余りにも二人が無視するから心臓を止めたようですよ」
「……」
神速も心眼も金色のライカンスロープも、クリスティンさんの翼賛の力の前では……
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