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第百四十五話
しおりを挟むレールガンを見た次の日、朝帰りの僕とオリエッタが宿屋の部屋に戻ると案の定、ハルバートが飛んできた。レーザーまでは避けきれなかった。
「ぐっ! ソ、ソフィアさん朝から熱いですね」
「お熱いのが好きかと思って、うふふ」
熱いコーヒーならともかく、お腹を貫く熱いレーザーは好きではないです。ハルバートがオリエッタとの間を裂くように飛んできて、後を追うように僕にだけプラチナレーザーが飛んできた。
今は戦時中です。ソフィアさんが撃てるレーザーは、一日に二十発が限界なのに僕一人に対して十発も撃ち込みやがった。
戦時中だぞ! 今、敵が攻めて来たらどうするんだよ。お腹に当たった一発以外は壁に穴をあけ、隣の人がどうなったかは知るよしもない。
「だいたい、てめぇは輪番無視してるんじゃねえ!」
もう一度、確認しますが戦時中は輪番停止です。しかも、部屋が足りなく大部屋を団員で占有しているのに朝から夕方まで戦って、夕方から朝まで輪番して、次の日は朝から戦うなんて出来る訳が無い。
僕とプリシラさんとソフィアさんはその件に付いて話し合い、五分とたたずにオリエッタはベットに潜り込み寝息をたて、他のみんなが集まった所で吊し上げ会議となった。
だが、僕は嬉しい。最初に投げつけたハルバートの事は置いといて、レーザーが撃たれた事も置いといて、話し合いが続けられていることが嬉しかった。
以前だったらハルバートの続きからずっと殺り合ってる。それが短い時間とはいえ話し合いが出来てるのだから。プリシラさんの成長がどれほど嬉しいことか。ソフィアさんも成長したようだが、何かとあればレーザーを撃ってくるのはやめて欲しい。僕は二人の成長と三人からの間接攻撃によりアンハイムより早く陥落した。
「敵はまだ来ねえのか!」
「はい、まだのようですね」
「コーヒーのお代わりを下さい」
「はい、すぐにお持ちします」
「団長、こっちにでもある」
「はい、わかりました」
「団長、手伝うッスか?」
「大丈夫だよ、アラナ。ゆっくり食べていて」
昨日の朝の会議から今日の朝まで…… はぁ? 死ぬかと思ったよ。今回のは本当に激しかった、いや、激しいなんて生温い。凄まじかった!
何がここまで彼女達を駆り立てたのか、普段の一日のちょっとした一コマだと思っていたのは僕だけなのだろうか。
かくして僕は朝からウェイターという有り様。唯一、心配してくれアラナ、君こそ僕の天使だよ。昨日、腕の肉を爪で抉った事は忘れないけどね。
幸いにして魔王軍はノンビリ屋さんが多い訳では無く、おそらくは後顧の憂いを取るためにアンハイムを落としてから進軍を始めるのだろう。それまでは朝食はゆっくり取れるし、敵が見えない以上は戦時では無いという判決により輪番が執行される事になった。
僕にとっては戦時なんです。団長なんだから陣決めの話とか、補給や戦術の話に参加しなければいけないんですよ。
輪番中に「僕達は第三軍に入って、オリエッタが……」の所までは話が出来た。レールガンの話はしていない。「が……」の所から新たな虐殺が始まったから。やっぱりオリエッタの名前を出したのは不味かったのだろうか。女心って難しいね。
途中、オリエッタも参加するべくベッドに入り込んで来たが、僕は心を鬼にしてオリエッタを追い払った。
僕だってやる時はやるんだ。なにせ第三軍の軍団長に話を通さないといけない。僕達、白百合団とアンハイムの傭兵達の指揮官になる人に挨拶も無しじゃ話にならない。
オリエッタには宿屋を抜け出し軍団長の所へ挨拶と戦術の提供に行ってもらった。僕達、白百合団には三つの遠距離攻撃能力がある。
ソフィアさんのプラチナレーザー、ルフィナのアンデッド化されたサンドドラゴンの魔岩、オリエッタのレールガン。この三つの攻撃方法は投石機を上回る飛距離を出す。
夜も遅かったがオリエッタの説明が効いたのか僕達、白百合団はアンハイムの傭兵を指揮下に入れ、独立遊撃隊として第三軍に編入された。
これからは三人による遠距離攻撃を軸にこちらの側の被害を少なく、出来るだけ大物を狙ってお金を稼いで行きたいものだ。
オリエッタが軍団長に話をして部屋に帰って来た時には、こころよくベッドに迎え入れてあげた。来るものは拒まずってね。
僕達がシュレイアに撤退してから三日目の朝、悲報を持って来たのは影の一人、シイナちゃんだった。
「良き人、アンハイムが昨日の夜に落ちました」
やっぱりと、思っても驚きを隠せない。寝ている僕の耳元で、不意に声を掛けられるのは驚きを隠せない。
「おはよう、シイナちゃん。いつの間に部屋に入って来たのかな。耳元で急に声を掛けるのは止めてね。それと、アンハイムから脱出している人はいたかな」
「……」
シイナちゃんは静かに首を横に振った。もうヘレーナ孃の笑顔を見る事が出来なくなってしまったのか。あの悲しそうな目を向日葵のような笑顔を思い出す。
「敵の数はわかりますか?」
「はい。巨人が十体、サンドドラゴンが二、トロールが十七、オーガ、ゴブリンについては二千ほどです」
「えっ!?」
僕は思わず起き上がってしまう。巨人はともかく、サンドドラゴンが二体も来ていたのか。他の街を襲った増援だろうけど、サンドドラゴンのお母さんて、そんなに多産なのか。
ラウエンシュタインから王都までの道は始めに三つに別れる。中央のルネリウス、東のエトバァール、西のアンハイム。
その三つから二つの道に搾られ僕達のいるシュレイアシュバルツか東にあるドゥイシュノムハルトを通して王都ハルモニアに至る。
アンハイムが僕達の活躍で守りきったのを見て、ルネリウスかラウエンシュタインの増援を待ってから再び攻めたのだろうけど、敵の数は僕が予想していたのより多い。
シュレイアかドゥイシュの街の片方でも落とされたら王都まで一直線に攻められる。そうなれば守りきった街さえも放棄しなければならない。
アンハイムのように勝ったけれど放棄するのは嫌だな。またヘレーナ孃の様な人が出るかもしれないし。
「良き人……」
仕方がないなあ。目覚めのキスは嫌いじゃないよ。僕が起き上がるのと同時に、隣で眠ってるヤツからテンプルに肘鉄をもらって、僕は二度寝した。
「起きろ! いつまで寝てやがる」
頭が痛い、二日酔いのようだ。誰かシジミ汁を作ってくれ。僕が目を覚ますと、みんなは着替えて準備を整えていた。
そんなに慌てなくてもいいのに。敵が来るのは早くても明後日ですよ。もう少し気楽に行かないと疲れちゃいますよ。
「おはようございます。もう出かけるのですか?」
「はぁ? 何を寝ぼけてるんだ。第三軍から召集が掛かったんだ。急いで着替えろ」
それは急がないと! 僕は急いで服を着ようとベッドを出ると何故かみんな手を止めてこちらを向く。僕はシーツを体に巻くようにベッドを出ると二度寝の原因を作ったヤツが言いやがった。
「あたいの着替えは終わった…… 手伝ってやるよ」
「結構です! 一人で出来ますから…… 僕のパンツはどこ行った?」
「ここにあるぜ、ミカエル。欲しけりゃ力付くで取りな」
アホですか。軍団長から召集が掛かっているのに遊んでいる暇は無いんだよ。僕はフラフラと痛む頭を堪えながらプリシラさんが持ってるパンツに手を伸ばすと、さらに上に高く上げて取れないようにした。
「どういう事ですか」
「力付くで取りなって言ったろ」
このヤロウ。乳、揉んだろか。しかし革鎧の上から揉んでも楽しくない。僕は右へ左へとプリシラさんが振る手の跡を追うように手を伸ばした。
「ほれ、ソフィア!」
僕のパンツは宙を舞い、ひらひらとソフィアさんの目の前に舞ってキャッチされた。神速を使おうかと思ったけれど、パンツを追い掛けるのに神様からもらったチートを使うのも気が引ける。
「きゃ、団長のパンツ、ゲットです」
ゲットするならパンツじゃないよ、モンスターだよと、突っ込みたいけど僕はまたフラフラとソフィアさんを追い掛けた。
「ふぅぅぅ、これが団長のパンツの香りですね。クセになりそうです。少し臭いますね。洗いましょうか?」
僕のガラスのハートにヒビが入る音が聞こえた。止めてくれよ、恥ずかしい。人のパンツの匂いを嗅がないで!
「ソフィア姉さん、パス、パス!」
僕がフラりと動くのに合わせて、またまた宙を舞いアラナに飛ぶパンツ。これは新しいイジメですか。
「くん、くん、くわぁ~。これが団長のパンツの匂いッスか。ビンビン来るッス。クリスティン姉さんもどおッスか」
イジメ、ダメ、絶対。調子に乗ったのか、匂いでイッてしまったのか、アラナは僕のパンツをクリスティンさんの顔面に押し付けた。ハートが砕ける音がした。
クリスティンさんは押し付けられたパンツの匂いを嗅ぐと目が、目が変な方向を見てニヤリと笑っているのを僕は見てしまったよ。あの美しいクリスティンさんはどこに行った!?
「……アラナ、イタズラはそのくらいにしなさい。 ……団長も少し怒った方がいいですよ。 ……下着は洗っておきますから、他のを履いて下さい」
アラナから奪った僕のパンツをポケットに仕舞いこんだクリスティンさんは何も無かったのように振る舞っていた。
「ちぇっ、つまんねえ」
ああ、そうだろうよ。でも、僕のハートを砕くには十分なんだよ。今度、プリシラさんのパンツをぶちまけてやろうか。匂いを嗅がれる気持ちを味わえばいい。
「失礼します。依頼された土魔法使いですが~」
ノックも無しにドアを開けるのはダメだが、依頼した人が来る事ををすっかり忘れていたのは僕の方だ。ローブを纏っているが、フードを取り髪の毛の短いボーイッシュな感じ女の子が入ってきた。
スタイル…… まではローブで分からないけど顔立ちから痩せている感じか、胸はもう少しあった方がいい。優しそうな瞳の可愛らしい女の子だった。
ただ、女の子に囲まれ、上半身は裸で下半身はシーツを巻いてる男を一番偉い団長さんと見てくれるだろうか。
「あの…… あの…… ここは白百合団の……」
動揺する気持ちも分かります。これが白百合団なんです。ペティナイフを隠しているだけの裸男が話しても説得力が無さそう……
「おう、ここが白百合団の定宿だぜ。お前はなんだぁ」
お前こそ何だ!? 出て来るな、引っ込んでいてくれ。オリエッタとルフィナの二人に必要な事だから二人で対応してくれよ。
「オリエッタ……」
「ますます、つまんねえ。面白、可笑しくしたいねえ。■■■■、凝縮」
バカが唱えた呪文に抗えるはずもなく、ペティナイフからバスターソードに持ち変えた僕は、急な事でシーツを落としてしまうという失態を犯してしまう。
僕と土魔法使いさんは目が合い、彼女だけ目線が下に行き、「ひいっ!」と声を上げて倒れこんだ。
イジメ、ダメ、絶対!
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