異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百四十四話

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 レールガン。またの名を「とあるナントカ電磁砲」この世界に有ってはならないもの。
 
 
 それを目の前でぶっ放されたら、ぶっ飛んだ。目の前で赤い閃光が見えたと思ったら、痛いくらいの風圧が襲ってきた。
 
 ソフィアさんのプラチナレーザーを最大で放って近くにいた時は、衝撃波はあったけどほとんどが熱量で火傷をするかと思ったくらいだが、レールガンはまた一味違う。
 
 砂煙が舞う中から立ち上がるオリエッタの装甲服。呆気に取られている僕にその巨体が歩み寄る。
 
 「どうでした~」
 
 凄いと思いますよ。凄く自己主張の強い武器ですね。一発撃てば狙撃地点が丸わかりな武器だよ。相手より遠距離で撃たないと集中砲火を浴びそうだ。
 
 「凄い……    凄い威力なんですね、驚きました」
 
 「凄いんです~。射程は五キロほど、威力はサンドドラゴンを貫通出来ると思います~」
 
 それは凄いんですけど周りの被害も凄いね。まだ耳鳴りが止まないよ。頭もグラングランして、酔っ払ったみたいだ。
 
 「このレールガンは~……    中略    」
 
 「なるほど」
 
 「それで原理としては~……    中略    」
 
 「へぇ~。そうなんですか」
 
 「もう少し~……    中略    」
 
 「それはいいですね」
 
 レールガンの説明をしてくれたのだけど、魔法と錬金術の専門用語ばかりで何を言ってるのかさっぱりだ。形としては狙撃用のボルトアクションライフルで、マガジンには五発の弾丸が入る。ただ一つ気になったのが弾の値段、
 
 「一発、五百ゴールドですか!?」
 
 「はい~、弾頭にミスリルをコーティングして貫通力を上げたんです~」
 
 馬車が買える。それも貴族用の無駄に豪華な馬車が一台は買える値段かよ。それを今、撃ったの!?    馬車が一台分、飛んでいったの? 
 
 威力は申し分ない、射程もサンドドラゴンの魔岩を上回るだろうけど一発五百ゴールドかぁ。……五百ゴールド!?
 
 「オリエッタ、このレールガンの弾は何発あるかな?」
 
 「百発は製造してます~」
 
 百だと!    合計、五万ゴールド!   どこにそんなお金があったんだ!    オリエッタには団からお金を研究開発費に回しているが、そんなに出した覚えはないぞ。
 
 それにこのレールガン本体の値段だって聞きたくないくらい高いはずだ。聞きたくないけど、団長として聞かないとマズいよね。
 
 「オリエッタ、このレールガンに掛かった全部のお金はどうしたんですか?    渡しているお金じゃ足りないでしょ」
 
 頼む!    宝くじにでも当たったと言ってくれ。
 
 「メリッサちゃんからもらいました~」
 
 誰?    聞き覚えの無い人。オリエッタの親戚かな?    出来るだけ厄介な人じゃなければいいけど。
 
 「どなたですか、メリッサさんて?  オリエッタの知り合いですか?」
 
 「団長も知ってます~。メリッサ・フィオナ・マロリーちゃんですよ~。忘れちゃいましたか~」
 
 誰?    全く覚えていませんよ。名前から女性と言うのは分かるけど。メリッサなんて名前の人は……
 
 「もしかして……    もしかして……    もじがじで……」
 
 僕は過呼吸になってしまった。過呼吸になるくらあヤバい人を思い出した。メリッサ・フィオナ・マロリー準侯爵。帝都の授与式のパーティーで出会った人。親は公爵で皇帝陛下の兄弟か親戚筋。
 
 「大丈夫ですか団長~」
 
 「ハァ、ハァ、ハァ、ち、ちょっと待って」
 
 僕が思ってる同姓同名のメリッサならかなりヤバい。なにせ、僕はメリッサ孃の乳を揉んでヤり部屋に連れ込んでバスターソードで失神させて逃げて来たんだ……    そこだけの話しだと僕は凄く悪い人のように聞こえる。
 
 「あ、あの帝国の……    準侯爵の……    あのマロリー様ですか?」
 
 「そうです~。メリッサちゃんとは帝都で知り合って白百合団の人だと知ったら仲良しになったです~」
 
 そ、それは違うと思うぞ。きっと怒ってるに違いない、最後は言い合いで敬語も使って無かったし。それにバスターソードがマズいよ。最後はバスターソードで失神させてしまったような……
 
 「マロリー様は何て言ってましたか……」
 
 「メリッサちゃんは団長の事が気に入ってるみたいです~。団長を担保に出すって言ったら、ポンッと五十万ゴールドも出してくれたんです~」
 
 「五十万ゴールド!」
 
 城が建つ!    小さな城なら絶対に建つくらいの金額を出しただって!    どうやって返すんだよ、そんな大金は白百合団の貯蓄にはありません!
 
 ん?    担保って何だ?    僕が担保になるの?    どうやって?
 
 「お金の事は置いといて、担保が僕なんですか?    担保と言われても何もありませんけど……」
 
 「オリちゃんも良く分からないです~。最初は二十万ゴールドくれるって言ってたんですけど~。団長をあげるって言ったら五十万ゴールドにしてくれたんです~。メリッサちゃん優しいです~」
 
 はあ?    こいつ人の事を売り飛ばしたのか!?    勝手に人身売買したってのか!?    どうするんだよ。まさか帝国公爵相手に借金を踏み倒せる訳がないだろ。
 
 「オリエッタさん、契約書とかは読みましたか?」
 
 「口約束だけです~」
 
 踏み倒そう。この世界は契約書が一番効果があるんだ。それが無いなら踏み倒そう。
 
 て、僕はバカか!    個人ならいざ知らず準侯爵、親は公爵で皇帝の一族。帝国を相手に五十万ゴールドを踏み倒したら一生、追いかけ廻される。
 
 どうしよう。白百合団の貯蓄残高はおそらく七、八万ゴールドかな。一人以外は我慢してやっと貯めた僕達の大切な老後の資金だ。
 
 「団長~、お金の事なら大丈夫です~。返せてます~」
 
 今日一番のいい話。五十万はさすがにキツい。キツいと言うより無理ですよ。白百合団の収支を越えてる。
 
 「この前に作った超振動の装置が売れてるんです~。剣とか防具とか馬用の防具にも使われる様になったんです~」
 
 「それってどこに売れたんですか!?」
 
 いい話だけど、買ってくれた先が問題だ。変な人達に売れたら魔剣並の切れ味が大量生産されてしまう。
 
 「アシュタール帝国が独占で買ってくれました~。他に流さないように言われたので少し高めに売っちゃいました~」
 
 偉い!    偉いぞオリエッタ!    この商売上手!    帝国が強くなってくれるのには申し分ない。帝国が強くなって参戦してくれたら、この戦争に勝てるかもしれないね。
 
 「帝国の窓口はマロリー様になるんですか?」
 
 「そうです~。メリッサちゃんが上手くやるって言ってました~」
 
 窓口がマロリー孃なのは少し問題だな。オリエッタの話だと僕が欲しいらしいし、お金を返せると分かれば無理に融資の話を持ち出して担保を奪うかもしれない。
 
 「ちなみに、残りのお金はどのくらいですか?」
 
 「二十万ゴールド分は売れたと思います~」
 
 残り三十万か。頑張れば払えるかもしれないし、オリエッタの新しい製品が当たれば一発逆転も狙えるかもしれない。
 
 下着を作るか……    何となくだけど、先が見えてきた。希望の光があるような。この戦争で稼いで借金返して、ついでに老後の資金も稼いでやる。
 
 魔王よ、かかって来い。僕の素晴らしい未来の為に剣の錆びとなれ。僕は沈み行く夕日にそう誓った。
 
 
 「団長~、レールガンのご褒美が欲しいです~」
 
 魔王よ、ちょっと待ってろ。僕は素晴らしい「今」で手が離せない。そのうち錆びにしてやるからよ。僕は「しばらく」して輝く星空にそう誓った。
 
 
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