144 / 292
第百四十四話
しおりを挟むレールガン。またの名を「とあるナントカ電磁砲」この世界に有ってはならないもの。
それを目の前でぶっ放されたら、ぶっ飛んだ。目の前で赤い閃光が見えたと思ったら、痛いくらいの風圧が襲ってきた。
ソフィアさんのプラチナレーザーを最大で放って近くにいた時は、衝撃波はあったけどほとんどが熱量で火傷をするかと思ったくらいだが、レールガンはまた一味違う。
砂煙が舞う中から立ち上がるオリエッタの装甲服。呆気に取られている僕にその巨体が歩み寄る。
「どうでした~」
凄いと思いますよ。凄く自己主張の強い武器ですね。一発撃てば狙撃地点が丸わかりな武器だよ。相手より遠距離で撃たないと集中砲火を浴びそうだ。
「凄い…… 凄い威力なんですね、驚きました」
「凄いんです~。射程は五キロほど、威力はサンドドラゴンを貫通出来ると思います~」
それは凄いんですけど周りの被害も凄いね。まだ耳鳴りが止まないよ。頭もグラングランして、酔っ払ったみたいだ。
「このレールガンは~…… 中略 」
「なるほど」
「それで原理としては~…… 中略 」
「へぇ~。そうなんですか」
「もう少し~…… 中略 」
「それはいいですね」
レールガンの説明をしてくれたのだけど、魔法と錬金術の専門用語ばかりで何を言ってるのかさっぱりだ。形としては狙撃用のボルトアクションライフルで、マガジンには五発の弾丸が入る。ただ一つ気になったのが弾の値段、
「一発、五百ゴールドですか!?」
「はい~、弾頭にミスリルをコーティングして貫通力を上げたんです~」
馬車が買える。それも貴族用の無駄に豪華な馬車が一台は買える値段かよ。それを今、撃ったの!? 馬車が一台分、飛んでいったの?
威力は申し分ない、射程もサンドドラゴンの魔岩を上回るだろうけど一発五百ゴールドかぁ。……五百ゴールド!?
「オリエッタ、このレールガンの弾は何発あるかな?」
「百発は製造してます~」
百だと! 合計、五万ゴールド! どこにそんなお金があったんだ! オリエッタには団からお金を研究開発費に回しているが、そんなに出した覚えはないぞ。
それにこのレールガン本体の値段だって聞きたくないくらい高いはずだ。聞きたくないけど、団長として聞かないとマズいよね。
「オリエッタ、このレールガンに掛かった全部のお金はどうしたんですか? 渡しているお金じゃ足りないでしょ」
頼む! 宝くじにでも当たったと言ってくれ。
「メリッサちゃんからもらいました~」
誰? 聞き覚えの無い人。オリエッタの親戚かな? 出来るだけ厄介な人じゃなければいいけど。
「どなたですか、メリッサさんて? オリエッタの知り合いですか?」
「団長も知ってます~。メリッサ・フィオナ・マロリーちゃんですよ~。忘れちゃいましたか~」
誰? 全く覚えていませんよ。名前から女性と言うのは分かるけど。メリッサなんて名前の人は……
「もしかして…… もしかして…… もじがじで……」
僕は過呼吸になってしまった。過呼吸になるくらあヤバい人を思い出した。メリッサ・フィオナ・マロリー準侯爵。帝都の授与式のパーティーで出会った人。親は公爵で皇帝陛下の兄弟か親戚筋。
「大丈夫ですか団長~」
「ハァ、ハァ、ハァ、ち、ちょっと待って」
僕が思ってる同姓同名のメリッサならかなりヤバい。なにせ、僕はメリッサ孃の乳を揉んでヤり部屋に連れ込んでバスターソードで失神させて逃げて来たんだ…… そこだけの話しだと僕は凄く悪い人のように聞こえる。
「あ、あの帝国の…… 準侯爵の…… あのマロリー様ですか?」
「そうです~。メリッサちゃんとは帝都で知り合って白百合団の人だと知ったら仲良しになったです~」
そ、それは違うと思うぞ。きっと怒ってるに違いない、最後は言い合いで敬語も使って無かったし。それにバスターソードがマズいよ。最後はバスターソードで失神させてしまったような……
「マロリー様は何て言ってましたか……」
「メリッサちゃんは団長の事が気に入ってるみたいです~。団長を担保に出すって言ったら、ポンッと五十万ゴールドも出してくれたんです~」
「五十万ゴールド!」
城が建つ! 小さな城なら絶対に建つくらいの金額を出しただって! どうやって返すんだよ、そんな大金は白百合団の貯蓄にはありません!
ん? 担保って何だ? 僕が担保になるの? どうやって?
「お金の事は置いといて、担保が僕なんですか? 担保と言われても何もありませんけど……」
「オリちゃんも良く分からないです~。最初は二十万ゴールドくれるって言ってたんですけど~。団長をあげるって言ったら五十万ゴールドにしてくれたんです~。メリッサちゃん優しいです~」
はあ? こいつ人の事を売り飛ばしたのか!? 勝手に人身売買したってのか!? どうするんだよ。まさか帝国公爵相手に借金を踏み倒せる訳がないだろ。
「オリエッタさん、契約書とかは読みましたか?」
「口約束だけです~」
踏み倒そう。この世界は契約書が一番効果があるんだ。それが無いなら踏み倒そう。
て、僕はバカか! 個人ならいざ知らず準侯爵、親は公爵で皇帝の一族。帝国を相手に五十万ゴールドを踏み倒したら一生、追いかけ廻される。
どうしよう。白百合団の貯蓄残高はおそらく七、八万ゴールドかな。一人以外は我慢してやっと貯めた僕達の大切な老後の資金だ。
「団長~、お金の事なら大丈夫です~。返せてます~」
今日一番のいい話。五十万はさすがにキツい。キツいと言うより無理ですよ。白百合団の収支を越えてる。
「この前に作った超振動の装置が売れてるんです~。剣とか防具とか馬用の防具にも使われる様になったんです~」
「それってどこに売れたんですか!?」
いい話だけど、買ってくれた先が問題だ。変な人達に売れたら魔剣並の切れ味が大量生産されてしまう。
「アシュタール帝国が独占で買ってくれました~。他に流さないように言われたので少し高めに売っちゃいました~」
偉い! 偉いぞオリエッタ! この商売上手! 帝国が強くなってくれるのには申し分ない。帝国が強くなって参戦してくれたら、この戦争に勝てるかもしれないね。
「帝国の窓口はマロリー様になるんですか?」
「そうです~。メリッサちゃんが上手くやるって言ってました~」
窓口がマロリー孃なのは少し問題だな。オリエッタの話だと僕が欲しいらしいし、お金を返せると分かれば無理に融資の話を持ち出して担保を奪うかもしれない。
「ちなみに、残りのお金はどのくらいですか?」
「二十万ゴールド分は売れたと思います~」
残り三十万か。頑張れば払えるかもしれないし、オリエッタの新しい製品が当たれば一発逆転も狙えるかもしれない。
下着を作るか…… 何となくだけど、先が見えてきた。希望の光があるような。この戦争で稼いで借金返して、ついでに老後の資金も稼いでやる。
魔王よ、かかって来い。僕の素晴らしい未来の為に剣の錆びとなれ。僕は沈み行く夕日にそう誓った。
「団長~、レールガンのご褒美が欲しいです~」
魔王よ、ちょっと待ってろ。僕は素晴らしい「今」で手が離せない。そのうち錆びにしてやるからよ。僕は「しばらく」して輝く星空にそう誓った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる