異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百六十四話

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 アンネリーゼ嬢の力に取り込まれた元魔族の男、フリートヘルム。
 
 
 人と魔族が共存しているのも驚き、しかも元魔族ってなんだ!?    辞めたり出来るものなのか?    辞めた所で根底に流れる血は同じだ。僕は心眼を解く事は無く話を聞いた。
 
 「アンネリーゼ様の力の虜って……」
 
 フリートヘルムが言った力の虜。虜ってなんだ?    力なら屈服するとかになるだろ。それに手遅れって?
 
 「アンネリーゼ姫の前に小生の話を少し。小生は貴殿方が言うノルトランド生まれの魔族でございます。故あって遥か昔にこちらの土地に渡った者でございます」
 
 そりゃそうだ。魔族がそこら辺りでポンポン生まれてたら大変だよ。話し始めて一瞬だけ全力の広域心眼でアンネリーゼ嬢の所も見たが周りには敵らしき者を見る事が出来なかった。
 
 「人を殺し放浪の旅を続けて幾年月、ハルモニアにて幼いアンネリーゼ姫と出会いました。その時です!    身体に流れるこの血が沸き立つのを感じたのは!」
 
 沸き立って死んでいてくれたら、こんな目に合って無いような気がするよ。魔族なんだから一思いにアンネリーゼ嬢を殺せばいいのに。
 
 「それから小生の生き甲斐とはアンネリーゼ姫にお仕えする事だと感じたのです。魔族の身では人と交われません。小生、力の全てを使って我が身の角を折りもうした」
 
 フリートヘルムなの肌の色が紫色に変色し頭には破壊され残骸のな角が左右にあった。魔族にとって角は大切なはずだ。それをアンネリーゼ嬢の側にいたいが為に折ったのか。
 
 「それ以来、フリューゲン公爵の執事として使え、今ではアンネリーゼ姫の側に置かれている所存であります」
 
 それほどまでにアンネリーゼ嬢に固執する理由ってなんだ?    惚れたと言うのは違うみたいだし……
 
 「それで僕に手遅れって言ったな。それはどう言う意味だ」
 
 「それがアンネリーゼ姫のお力でございます。アンネリーゼ姫は自分で望もうと望まざると、周りの者がアンネリーゼ姫の為にと、上を目指してしまうのですよ。シン男爵も心当たりがあるのでは?」
 
 心当たり……    アンネリーゼ嬢の事は何か引かれる魅力を感じていた。それが今回の様に一人でも護衛をやった事に繋がるし守りたいとも思った。
 
 それがアンネリーゼ嬢の力だったのか。自分が何もしなくても、周りが手を下しアンネリーゼ嬢を盛り立てる。一種のカリスマ性が強くなったものか。
 
 「心当たりがあるようで結構でございます。これからもアンネリーゼ姫の為に戦って頂きたい」
 
 何を勝手な事を言いやがる。アンネリーゼ嬢には確かに引かれる物があったが、タネをバラされた手品師の様な者。そんなネタじゃお客は取れないぜ。
 
 「アンネリーゼ様は僕の使える所の公爵であります。傭兵風情が公爵様のお側にいるなど考えられましょうか」
 
 「構わんのですよ。いずれは小生の様にアンネリーゼ姫の為に死ねると思えますから」
 
 嫌だよ、死にたくないね。それに僕には目的がある。神様の面白いエンディングを目指さないといけないんだ。    ……そのエンディングを見せられないと、僕はどうなるんだ?
 
 それに死ぬならプリシラさんの胸で死にたい。あの豊満な胸で窒息したい。出来るならば……
 
 「そろそろ宜しいでしょうか。アンネリーゼ姫の側にいるならばこのご時世、多少なりとも強くなくてはいけません。実力の方は如何や」
 
 この世界の法則、「妄想は最後まで出来ない」を発動され僕は正気に戻った。
 
 「殺る前に聞きたい事がある」
 
 「小生で答えられる事があれば何なりと」
 
 「アンネリーゼ様が公爵になる時にお家騒動があったな、姉がいたはずだ。それを排斥したのはお前か」
 
 「いえ、違います。姉上にはアンネリーゼ姫を支えて欲しかったのですが、自分の意思で家を出られました」
 
 そうまでしてアンネリーゼ嬢を守りたいのか。カリスマ性もそこまで行けば凶器だね。誰もそれに気付いていないし、気付いた時には命を掛けれるのか。
 
 「もう一つ。僕が側にいて欲しいと言ったな。アンネリーゼ様に手を出すかもしれないよん」
 
 僕は少しふざけて言ってみた。文章にしたら文末にハートの絵文字が入るように。
 
 「それは構いません。アンネリーゼ姫が望むのなら一国の王であろうと、下賎な輩であろうとも」
 
 僕は「ゲセンナヤカラ」ですか。その輩は神速持ちだぞ、舐めるなよ。ただどうしても最後にもう一つだけ聞きたい事があった。
 
 「この食事に入ってるメラヤの野菜を入れたのはお前か?」
 
 「……あれは体に良おうございます。好き嫌いはいけませんな」
 
 僕が苦手なメラヤの野菜。日本で言う所のセロリの苦さはスープに入れても健在だ。僕はこれが苦手なのを何故知ってる。僕は首を落とす勢いで斬りかかった!
 
 「まさか、メラヤの野菜程度で斬りかかるとは……」
 
 「苦手な物を入れるなよ。あれは苦味を消すためにコトコトと弱火で二時間は煮詰めないと食べれないんだよ」
 
 料理の話しなんてどうでもいい!    神速で撃ち込んだ僕の一刀を止めやがった。魔族を辞めたとか言ってる割には速いじゃないか。
 
 神速のモード・ツーとで仕止めるのもいいが、フリートヘルムの言う言葉を全部は信用出来ずに、広域心眼でアンネリーゼ嬢に危害が加わらないか心配で見てしまう。
 
 「なかなか速いですね。受けるので精一杯ですよ」
 
 その割には余裕がありそうなフリートヘルムに僕はモード・スリーと広域心眼を同時に出す事に決めた。先を読める機先の心眼は戦闘中で良く使うが、周りを見える広域心眼は戦闘の合間でしか使わない。
 
 目の前の敵を倒すのに周りを見ている余裕なんて無いからだが、もし広域の範囲で先が読めたら部隊を率いる者として有効な力になりそうだ。
 
 「もっと速いですよ。死ぬ覚悟は出来てますか」
 
 僕は離れて機先の心眼とモード・スリーを使った。これで僕に追い付ける者は無く、先を読める僕は無敵だ。そして機先の心眼を広域に回して範囲内の先を読もうとしたら処理落ちした。
 
 頭の中で映像がグルグル回り、現在と先が入り交じり場所と場所が重なる。これは無理だ、少なくとも今は無理。練習してからじゃないと実戦で使えない。
 
 「どうされました」
 
 気遣い無用!    あぁ、気持ち悪い……
 
 「行きます。次で終わりです」
 
 僕はモード・ツーと機先の心眼で圧倒した。フリートヘルムは驚く暇も無く打ち倒される。見たか!    これが僕の実力だ!
 
 「うぐぐ、さ、流石ですね。こ、殺しはしないのですか……」
 
 圧倒的な力の前に逆刃で撃ち込んだ僕はフリートヘルムを全身打撲、全治二ヶ月の大怪我を喰らわせたが、どうせ魔法で直ぐ治るだろ。
 
 「お前はアンネリーゼ様の為に働いているのだろう。殺せばアンネリーゼ様が悲しむ。命は助けてやるが後で記憶を読ませてもらうぞ」
 
 僕は剣を鞘にしまってフリートヘルムを後にした。少しは痛みで、のたうち回ればいい。魔族なんだし、それくらいは構わないだろう。
 
 しかし、僕も何故に魔族を殺さなかったんだろう。アンネちゃんの為なのかな?    確かにアンネちゃんの力は巨大なものだ。
 
 周りを巻き込み自分が望む事を成してしまう。もちろん、周りの力が弱ければそれまでだろうけど、知らず知らずアンネちゃんの力に捕らわれてしまうなんて反則もいいところだ。
 
 僕も気を付けないとアンネちゃんの力に飲み込まれるかもしれない。その先に待っているのはアンネちゃんの為にだけ尽くす人形の様になってしまう。
 
 そんなのは嫌だよ。どうせ尽くすなら白百合団の為がいい。苦楽を共にしベッドも共にした仲間だ。もしアンネちゃんの力の虜になってしまったら、アンネちゃんにはこの戦いの舞台から降りてもらおう。どこか安全な所で……
 
 僕はテントに戻り中で眠っているアンネちゃんを見た。僕の最後の記憶のキーワードはとても可愛く残酷な力を持っている。
 
 前世ではどうだったのだろう。僕はアンネちゃんを守って戦ったのだろうか。力に恐怖して殺したのだろうか。中途半端にしか無い記憶が恨めしい。
 
 ただ、今は守ろう。もしかしたら、この力が戦争を終わらせるかもしれない。僕は眠っているアンネちゃんの手を取った。
 
 「貴女の事は命にかけて守りますよ。今はゆっくりお休みください」
 
 ……そう言えばフリートヘルムはアンネちゃんに手を出してもいいって言ってたな。許可済みなら構わないか……
 
 そうは言っても相手は公爵だ。戦の前の不祥事は全体の士気にも関わる。    ……そうだ、せめて脳内妄想なら問題はない。
 
 どんなシチュエーションにしようか。上司と部下はマノンさんの時にやったし、先生と生徒はアラナの時にやったし……
 
 ここは少し乱暴に、看守と受刑者はどうだろうか。看守による受刑者のレイプ……    妄想だし、このくらいは許されるだろう。
 
 脳内妄想、ゴー!
 
 
 「てめえか、今度入った受刑者は!」
 
 あれ?    僕が受刑者?    プリシラさんが看守?    アンネちゃんはどこに行った?    何でプリシラさんが出て来るんだ!?
 
 僕はテントを出て吐いた。血の混じった胃液を何度も吐き出し、吐き疲れて少し落ち着いた。脳内まで邪魔をされるとは思わなかった。
 
 どうせ思い出すイメージなら裸のプリシラさんの方がいいのに。お陰で何だかスッキリした気分だ。僕もストレスとかあるのかな。胃に穴が空いてるとかは嫌だな。帰ったらソフィアさんに診てもらおう。
 
 
 その日はテントの外で星を見ながら、アンネリーゼ嬢のいるテントを守っていた。
 
 
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