異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百七十七話

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 サウナは好き。社会人になってから先輩に連れられて言った思い出。先輩が男好きだった恐怖の思い出。
 
 
 「少し熱くないッスか?」
 
 逃げ込んだレンガの家には爆破の魔法は仕掛けられておらず、僕達はジューシーな蒸し焼きの恐怖に耐えなければならなかった。
 
 「もう少し熱くなるかも知れませんね。三階に移動しましょうか」
 
 こんな時に水系の魔法使いがいたら便利なのだろうけど、リヒャルダちゃんが外壁を強化してくれてるだけで十分だ。
 
 「そんなら風呂にでも入るか。三階にデカいのがあったぜ」
 
 なに!?    そんないい物があるなら早く言ってよ。それにしてもお風呂なんて重い物を三階に上げたもんだ。この建築主は高い所からお風呂に入って周りを見渡し、悦に入るタイプだね。
 
 三階に上がればフロアの半分はお風呂に割り当てられ、今は塞いでしまった大きな窓がバスタブに入りながら外を見れる様にな作りになっていた。
 
 「瓶には水が入ってる。風呂に入れれば全員で入れるんじゃねぇか」
 
 水の中に入って熱をやり過ごす。プリシラさんもいいアイデアを出すね。僕達は急いでお風呂に水を入れた。
 
 「お前、そのまま入るのか!?」
 
 お風呂に水が溜まり、入ろうとするとプリシラさんから待ったが掛かった。
 
 「えっと、そのつもりですが……    なにか?」
 
 「てめぇは、風呂に入るのに服を着て入るのか!?    しかも泥だらけじゃねぇか!    風呂が汚れるだろ」
 
 確かに僕は泥だらけだ。ジャイアント・ボアのスライディングタックルの直撃を受けたんだから。だけど、この場合は服を着て入った方がいい。
 
 「服は着て入って下さい。濡れた服が熱から肌を守りますから。みんなも脱がなくて……」
 
 もう脱いでるし……    リヒャルダちゃんだけは下着姿に。下着と言えばTシャツ、短パンで色気は無いが、この世界では下着姿になってる訳で、少しと言うより、かなり恥ずかしそうだ。
 
 「リヒャルダちゃんはいいんですよ」
 
 「……でも、わたしも……」
 
 すでに飛び込んだ裸体が三人。逆に服を着て入ろうとする僕の方が恥ずかしくなってくる。僕の方が間違っているのだろうか。
 
 リヒャルダちゃんも下着姿で入り始めたのを見て、僕も鎧を取って服を脱いだ。隠す所は隠さないと、年頃の娘がいるから……    こんな時に「凝縮」の魔法を唱えたら殺す。
 
 四人でまったりとしたバスタイム。建物の外は火の海。こんな事をしていいのかと、考えが頭を過ると、頭を沈められた。
 
 「顔を洗えよ。手伝ってやるよ」
 
 溺れる!    バカが力任せに沈めるものだから、お風呂の底にキスをした。なんだこりゃ、拷問か!    水攻めか!    それとも裸体を見られるのを恥ずかしがっての事なのかぁぁぁ、い、息が……
 
 「ぶはぁ!」
 
 口から鼻から滝の様に垂れ流されるお風呂の水に生きている事を実感し、無酸素潜水の世界記録を更新した事を確信した。
 
 「ブリジラぁぁぁ」
 
 僕は湯船にタオルを投げつけ極大な殺意をプリシラに向けた。殺す!    今日こそ殺す!    プリシラはバスタブの縁に両腕を広げ大の字になって、大きなメロンを二つ浮かべている。
 
 てめぇは、どこの農家だ!?    夕張か!?    茨城だって美味しいメロンは取れるんだよ!    茨城産を舐めるな!
 
 選べ……    選べ!    神速で首をネジ切られたいか!    それとも燃え盛る街の中に放り出されたいか!    それともバスターソードで突き殺されたいか!
 
 選べ!    三……    二つのうちから選べ!    僕はドス黒い殺意を持ってプリシラに迫る。
 
 「きゃっ」
 
 可愛らしく澄んだ叫び声。淀んだ感情はスッキリ流され僕はリヒャルダちゃんの方を振り向く。どうした、 娘よ。
 
 リヒャルダちゃんは両手で顔を覆いながらも指の隙間からこちらを見ていた。目線は合ってない、もう少し下、胸よりお腹より下……
 
 僕は神速で湯船に沈んだ。見られた……    見られた、僕のペティナイフを……    血の繋がらない年頃の娘に。
 
 「リヒャルダも叫んでるんじゃねぇよ。初めてじゃねえだろ」
 
 初めてかどうかは問題じゃないんだよ。見てはいけない物を見た羞恥心から来てるんだ。羞恥心を辞書で引いてみろ。お前の辞書には載ってないだろうがな。
 
 「リヒャルダちゃんが驚くのも無理が無いです~。バスターソードの時なんてもっと凄いんです~」
 
 「そうッスよ。僕なんか口から出るかと思ったッス」
 
 頼む!    話題を変えてくれ!    しばらくリヒャルダちゃんが顔を赤らめる程の話が続き、僕の評価はガタ落ちした事だろう。
 
 なんとか、なんとか僕の評価を上げたい一心で周りを見渡せばイメージアップに繋がる物を見付けた。
 
 「アラナ、そこのレンガみたいのを取って」
 
 閉じられた窓の下に形はレンガだが、色は白い斑の入った大きさの物を指差した。アラナから受け取ると予想通りの物で、これで好感度を上げる。
 
 僕は左手で持って軽く沈めると超振動を使った。みるみるうちに浴槽が泡で被われ溢れ出るほど出来上がった。
 
 「なんだこりゃ、泡がすげえぞ」
 
 女子なら喜ぶであろう泡のお風呂。この世界では滅多に手に入らない石鹸を遠慮なく使わせてもらう。泡は浴槽から溢れバスルームにも流れだし部屋の外まで泡でいっぱいになった。
 
 「泡で火を消すと言うのを聞いた事があります。もしかしたら部屋の温度を下げれるかも知れません」
 
 女の子に喜ばれ部屋の温度も下げられたら一挙両得だ。アラナもオリエッタも喜んでるし、リヒャルダちゃんも楽しそうだ。プリシラさんはスイカ農家に転向したみたいだ。
 
 泡で遊ぶ三人を他所目にプリシラさんは退屈そうだった。せっかく育ったスイカだから食べてあげようかと思うと、プリシラさんは泡をまとって立ち上がった。
 
 「外の様子を見てくるぜ。上は開いてるんだろ」
 
 立ち上がるプリシラさんに対して重力に逆らえない身体の泡が滴り落ちてくる。美しいプロポーションに沿う様に付く泡の姿のプリシラさんは、まるで天使のようだ。
 
 美しい……    今まで何度も見た事があるプリシラさんの裸体をさらに引き立たせる。そしてゆっくり流れる泡の粒は素肌を顕にしていった。
 
 こ、これは至高の着エロだ!    今までは切って素肌を出したが、これは自然の摂理に乗っ取って現れていく。重力、温度、湿度、泡の粘度、肌質、身体の凹凸、これらが組み合わさっていく。
 
 「ちょっと行って見てくるぜ」
 
 振り返りバスタブを出ていくプリシラさん。待って!    もう少し見せてくれ!
 
 「プリシラさん!」
 
 またも振り返ると勢いで飛ぶ泡が、素肌の領域を広げて行く。素晴らしい!    まさに完璧な自然の至高。この様な世界があったとは……
 
 「あぁ?    用が無いなら行ってくるぜ」
 
 泡は完璧な着エロを見せた。これはレポートに書かなければ、人類の進化の糧としなければ……    僕はアラナとオリエッタに、この家中の紙とペンを持って来させた。
 
 
 
 ミカエル・シン、リポート。
 
 泡における着エロの考察。
 人類が服を着初めて幾万年がたったか分からない。それと共に着エロが発展して来た事は周知の事実である。服を着、服を脱がす所から始まった着エロも服を切り、理想を自ら目指す所まで現在は昇華されている。それを更に高みを目指すものとして「泡」を使った着エロを提案したい。
 
 「泡」    それは誰もが簡単に作れる物ではあるが、扱い方については大変に難しい。扱いについては後述するが、まずはメリットについて書いておきたい。
 
 メリット。
 泡を扱う為に身体が濡れている状態であるので肌が綺麗に見える。また、全身に泡を帯びるため泡が無くなった肌でも輝きを損なわない。
 
 メリットについては考察の段階なので多くはないが、泡を使った着エロについてはデメリットこそメリットと言えよう。
 
 
 デメリット。
 泡を扱う為には濡れても平気な環境でいなければならない。
 
 泡は自然落下、遠心落下が有る為に肌の露出部分の予測が立てられない。
 
 肌質、泡の粘度、重力等、加味すべき事が多く、カオス理論を適用しなければならない。
 
 これらのデメリットの扱いは非常に難しい物があるが、それこそが着エロと言えよう。己、自身が作り上げてきた着エロに、自然落下と言う万物の法則が適用される事による神の采配。これにより人と神とが融合され、更なる高みを目指せるのである。
 
 それでは各個人を例にあげて行きたいと思う。被験者のPさんの場合……
 
 
 僕は書いた。全身全霊で。貴重な紙も高価なインクもこの為に使われるなんて、きっと喜んでいるに違いない。
 
 僕は書いた。今、この時こそ歴史だ。僕は歴史を作っている中にいる。人類に貢献し、人類の進化を促進させている。
 
 僕は書いた。神にも似た至高の存在を前にして僕はもっとも神に近付いた人間だ。人類の救済はこのレポートに掛かっている。
 
 戦争が人を進化させたと言う人がいる。だがペンは剣よりも強く、人を発展させるのに争いはいらない。
 
 僕はこのレポートで人類をさらなる高みをへと、高い位置からのカカト落としが六十枚からなるレポートをバスタブの底に落とした。
 
 「はあぁぁぁぁぁぁ!」
 
 肺の中の全ての空気を使った絶叫は、僕の意識を飛ばすには十分だった。沈んだレポートは破れ、字はにじみ、使い物にならなくなった……
 
 「こんな時に勉強なんて、よっぽどヒマなんだな。ハッハッハッハッ」
 
 人類の進化を止めたプリシラさんの笑い声は神の啓示か。まだ、そこまでは早いよ、と。僕のした事は神への冒涜だったのか。
 
 進化は止まった。僕は人類の歴史に名前を残す事も無く一人寂しく死んでいくんだ。これからはプリシラの黒歴史が始まるんだ。
 
 「おい、こいつ溺れそうだぜ。風呂で溺れるなんて笑わせる。リヒャルダ、しっかり押さえて泡を出させておきな」
 
 
 せめて娘の胸の中で死にたい。
 
 
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