異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百八十話

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 「下手くそ。リズムに乗れてねぇ」
 
 
 女の子から下手くそと言われると、色んな意味で男の子は凹む。もう少し男心が分かってくれたらと、思う事が何度もあるけど慣れないねぇ。
 
 「敵の第二陣は終ったのである。第二軍団の加勢に行くであるか?」
 
 ユーマバシャールは嫌いだが、旅団のメンバーが心配だ。クリスティンさんが特攻を掛けて全滅したら可哀想だしね。
 
 「行きます。準備はいいですか?    速駆けで行きますよ」
 
 ルフィナはロッサを出したまま、僕達は走った。第二軍団に絡み付く様に攻め行ってる魔王軍は、旅団の脇からの攻めに数を減らしていた。
 
 「第二陣が来る前に終わらせましょう」
 
 三人と一体の援軍で、第二軍団に取り付き魔王軍は瓦解していく。手足をスパスパ斬って身体ごと瓦解していく姿は、まだスプラッタの範囲でグロでは無い。
 
 「うぉー、やったぞ!」
 
 歓喜に湧く第二軍団に、僕は白い目を向ける事も無く、ただ北の方を見ていた。とても嫌な感じだ。もしかしたら魔王が来るのか。それなら、返り討ちにしてハッピーエンドで終わらしてやる。
 
 「なんか来るな……」
 
 プリシラさんもアラナも北の方を見ている。地を見るには瓦礫が多い。空を見れば澄みきった青空に何か巨大なものが……
 
 「レッド・ドラゴン!」
 
 やった!    やっぱりファンタジーはドラゴンが出ないと。サンドドラゴンも悪くは無いけど、空を飛ばないし石を飛ばすなんて地味もいいところだ。
 
 それに比べてレッド・ドラゴンなら火だろ。溢れんばかりの怒りを込めた炎が全てを焼き尽くす。ドラゴンの中のドラゴン。そんな事を考えられていられたのは、城壁を守護する騎士団が火に包まれるまでだった。
 
 あれはヤバい。空飛ぶB52を剣でどうやって落とす!?    魔法だって届かない高度や速さで飛ぶドラゴンと戦なら、地対空ミサイルが必要だ。どこに売ってるんだ?
 
 籠城で時間を稼いで援軍を待つのは常套手段だ。アシュタール帝国やケイベック王国は援軍を出してくれるだろうけど、守るべき街が無くなっても出してくれるのか。レッド・ドラゴン一匹に街が落とされかねない。
 
 「旅団!    撤退だ!    陣まで走れ!」
 
 火遊びとかバーベキューのレベルは越えてる。ナパーム爆弾か超巨大な火炎放射器。これは人間が相手に出来る範囲をじゃない。どうやって倒せばいいんだ?
 
 「腐れ!    あんなのどうするんだ!?」
 
 有ったらいいな、対空ミサイル。スティンガーかジャベリンが欲しいよ。    ……有ったな、そんなのが!
 
 「オリエッタ!    昔の事ですがベットからナイフが飛び出して、僕を追い掛けて来た仕組みを覚えてますか!?」
 
 昔、昔、ある所に団長とルフィナがおりました。団長はルフィナをベットに押し倒すと、体に沿うようにナイフが飛び出し、逃げる団長を追い掛けましたとさ、おしまい。
 
 「覚えてます~。団長を串刺しに出来ると思ったのに残念です~」
 
 「あれは今はどうなってますか?」
 
 「改良はしましたけど~。いい結果は出てないです~」
 
 相変わらずの努力家だね。その努力の矛先に僕がいない事を祈るよ。だが、先が見えた!    小さな光だけど今はそれに頼るしかない。
 
 僕は作戦を告げソフィアさん、オリエッタ、ルフィナ、リヒャルダちゃんを城壁に上げた。これでダメなら逃げたくなるよ。
 
 僕達が陣に戻るとクリスティンさんにアンネリーゼ嬢への伝言を頼み、プリシラさんとアラナの三人にレッド・ドラゴンへの対策を話す。
 
 「本当にそんなんで上手く行くのか?」
 
 「分かりません。これでダメなら寝込みを襲うしか無いですね」
 
 「てめぇの十八番だな……」
 
 僕は寝込みを襲ったりしません!    してないと思うけど、したかな?    今度、しますね。
 
 オリエッタが以前、僕に喰らわせた自動追尾のナイフ。あれに爆発の魔法を掛けてレッド・ドラゴンを対空迎撃する。
 
 もちろん、それくらいでレッド・ドラゴンは倒せない。だけど注意を引く事は出来る。小さな攻撃でも数を喰らえば嫌になる。レッド・ドラゴンはオリエッタ目掛けて攻撃して来るはずだ。
 
 そこに待ち受けるは「プラチナのソフィア」    狂暴さでは負けて無いプラチナレーザーを全力で撃ってもらう。目標はレッド・ドラゴンの羽。
 
    リヒャルダちゃんには二人を守る壁を作ってもらい、ルフィナには地味で大事な役目を与えた。これでダメなら米軍でも呼んで来ないと勝てないだろ。
 
 「撃ったぞ!」
 
 オリエッタの放つ異世界の自動追尾はサイドワインダーにだって負けはしない。一度に数十発を何度かに分けてオリエッタミサイルはレッド・ドラゴンを攻撃した。
 
 レッド・ドラゴンにしてみたら「ナニコレ?    美味しいの?」ぐらいしか思っていないだろうが、こっちは必死だ。嫌になるぐらい撃ちまくれ。
 
 上空を周回しながら逃げている様に見えたレッド・ドラゴンは確実に発射地点を見付けていた。いくら威力が小さくても、寝ている時の「蚊」の羽音は嫌なものだ。
 
 「真っ正面から来るぞ!」
 
 レッド・ドラゴンは北門より北からオリエッタのいる城壁に向かって飛翔して来る。矮小な人間など、いつでも灰に出来る巨大な炎を口元から上げて。
 
 バカ目!    そこには最強の魔術師がいるんだ。ソフィアさんの全開レーザーで撃ち抜けぬ者は無し。城壁の上で輝くプラチナ色の光は、空気を震わせ爆発する様にレッド・ドラゴンの羽に当たり弾かれた。
 
 「ダメだ……」
 
 弾かれ続けるプラチナレーザーは青空を切り裂く。プラチナレーザーでも敵わないレッド・ドラゴンの外皮。口元がニタリと笑うように炎の発射体制に入った。
 
 ソフィアさんなら出来る!    レーザーなんてバケモノ兵器を持てる人なんて、この世でただ一人。本気を出せばレッド・ドラゴンだって倒せるはずだ。    ……だから、その本気を引き出そう、命懸けで。
 
 僕はプリシラさんの後ろに回って、鎧の隙間から手を差し込み超振動を使って揉みっと。プリシラさんは甘い声を微かにあげた。
 
 絶対に聞こえるはずが無い。遠くて見えてる事も無いだろう。ただ城壁で光るソフィアさんは、さらに鮮烈な光を放った。
 
 弾かれ続けたプラチナレーザーは吸い込まれる様にドラゴンの羽を切り裂き、レーザーの行き先は僕達の方に向かって来た。
 
 神速!    モード・スリー!
 
 プリシラさんを抱えて逃げ出した場所を、爆炎をあげて通り過ぎるプラチナレーザー。ソフィアさんの「いちゃラブ禁止です」が聞こえて来た様な……
 
 羽を失ったレッド・ドラゴン。きりもみ状態で地面に激突、大地を抉る。吐き出し掛けていた炎が断末魔をあげる様に吹き上がった。
 
 「まったく、人使いの荒い団長である。■■■■、千年の呪木」
 
 ルフィナが唱える魔法に呼応して表れるウネウネした大木。生き物の様にレッド・ドラゴンに絡み付き地面に縫い付けた。
 
 「動きは止まった!   プリシラ、アラナ、首を狙って頸動脈をぶち斬れ!   神速!    モード・スリー!」
 
 返事を待たずに僕は走った。頸動脈を切るのは得意だ……    切られる方だったかな。プラチナレーザーが通るなら光の剣も効くはずだ。神速と超振動付きの抜刀でレッド・ドラゴンを仕留める。ここでカッコいい所を見せてソフィアさんの機嫌を取る!
 
 「光よ!」
 
 気合い一閃、声量増し増し。僕は地面に縫い付けられたレッド・ドラゴンの首を目掛けて斬り付けた。
 
 通った!   外皮が破れピンク色の肉が見える。頸動脈はまだ奥底の肉の中だが、ここから血飛沫を上げるまで何回でも斬ってやる。
 
 羽を斬られた痛みか、首を斬られた痛みか、レッド・ドラゴンはルフィナの千年の呪木を引き千切ろうと地震と間違うくらいに暴れだす。
 
 今がチャンスだ。ルフィナの魔法を信じて突っ込め。超振動で右手も痛い。ピンクの肉が少しグロい。神速!    モード・スリー!
 
 自分でも分からないほど、剣を振るった。時間にしたら三秒も無いだろう。凝縮された時間に不安も過りかけた時に、目の前に青黒く太い水道管みたいなのが現れた。
 
 すでに光は止み、魔剣ゼブラはオリエッタソードとなっている。構うものか!    僕はモード・ツーと全体重を乗せて突き刺した。
 
 風船に針を刺すように、頸動脈に空いた穴は血圧の力で更に穴を広げ血が吹き出し、僕はその血を浴びる事なく逃げ出した。
 
 レッド・ドラゴンの上げた血飛沫は鉄砲水の様に辺りを血に染め降りそそぐ。これだけの血を吹き出せばビル火災だって消せるだろう。
 
 「てめぇ、やってくれたじゃねえか」
 
 当然です。僕を誰だと思ってるんですか?    最強、最悪の白百合団の団長様ですよ。控えおろう、頭が高い!    僕は小さくVサインを出して振り返った。
 
 「この返り血はどうしてくれる!   それに胸まで揉みやがって!」
 
 血の事は避けて下さい。乳の事はありがとう、いい物を揉ませてもらいました。血まみれになって胸ぐらを掴んで怒るプリシラさんはいつもの二倍は怖い。でもスプラッタは平気なほう。
 
 「あれ?    アラナは?」
 
 話を反らしたくて言ってみたけれど、一緒に来ていると思ったアラナがいない。集中力は人一倍で飽きっぽさも人一倍なアラナがいないって事は……
 
 「離せ!」
 
 掴んでいた腕を振り払って駆け出す。アラナが血の海に倒れていた。
 
 「アラナ!」
 
 抱き起こしても返り血を浴び、何処をケガしてるのかも分からない。全身を触ってみてもケガをしている様子は無い。それなのにアラナは力も無くもたれより荒い息をあげてる。
 
 「やべぇ、毒だ。ドラゴンの血には毒が混ざってるらしいぜ」
 
 
 ライカンスロープのプリシラさんは毒だろうが食中毒だろうが平気だ。僕には悪魔の血が流れてる。亜人のアラナは毒に弱い。
 
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